プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2011/09/19 00:00  | by Konan |  コメント(3)

Vol.106: 支払、決済、信用


今回は前回に続き政権ネタで野田内閣誕生を取り上げようと思っていましたが、ぐっちーのリクエストを受け、決済の話しを書こうと思います。ぐっちーと言えば、先日超素敵な女性を交えた会に誘ったところ、「忙しい」と断られました。商売繁盛のようですね!

今回の話しは極力単純に分かりやすく書こうと思いますが、分かりにくい面、単純化のため正確性を犠牲にした面があると思います。もし日銀の決済専門家の読者がいれば、適宜訂正コメントをお願いします。なお、リーマン破たん時に何が起きたか、当時の日銀決済機構局のレポートのURLを載せておきます。

さて、決済の定義自体正確に書くことは容易ではありませんが、ここでは単純に「物やサービスを買う対価に現金を払うこと」と考えておきます。決済の分野で予てより大きな問題だったのは「取りはぐれ」です。時々無銭飲食、あるいは代金を振り込んだのに商品が送付されないインターネット販売が話題になります。例えば国債を買って代金を払う、あるいはドルを買って円を売る取引を考えると、取りはぐれないためには、国債と代金、円とドルを同時に振り替えることが必要となります。このことを、delivery versus payment (DVP)と呼びます。

円とドルの振り替え、時差を考えると実は大変なことです。昔ヘルシュタット銀行という(確かドイツの)銀行が破たんした際、マルクを払ったのにドルが受け取れないといった大問題が生じました。20年前にBCCIが破たんした際、当時の興銀のような名立たる銀行が、円は払ったのにドルを受け取れず損失を被りました。世界の中央銀行の長年の努力の結果、今ではCLSと呼ばれる仕組みができ、同時刻に世界主要通貨間の決済を行える(例えば円の支払いとドルの受け取りが同時に行われる)ようになり、この通貨間の取りはぐれリスクは大きく減少しました。

次に国債と代金。原始的なイメージで言えば、百億円の札束と百億円の券面の国債をある場所に持ち寄り取り換えれば、取りはぐれを防ぐことができます。さすがにこれでは原始的過ぎて危ない(襲われたら終わり)ので、日本では日銀ネットと呼ばれる日銀が提供するシステムを用いてこの振り替えが行われます。今では国債も券が発行されるのではなく、日銀のシステム上に「百億円分の国債を所有している」という電子的記録が残ることで権利を表します。そうなると、日銀に預けたお金(当座預金)とこの国債の電子記録を同時に入れ替えれば、取りはぐれを防ぐことができます。

ところで、ある業者XがAから国債を仕入れBに売るケースを考えます。Xを捨象すればAがBに国債を売りBがAに代金を払うことになるので、上記の通りDVPが実現します。しかしXが介在すると、とても複雑です。XはA(これは国債を発行する国の場合もあります)に代金を払う必要がありますが、Xが手元資金潤沢でない限り、Bから代金を受け取らない限りAに支払うことができません。しかしBはXから国債を受け取れない限り代金を払わない訳で、そうなるとにらみ合いが生じ、何ら取引が成立しなくなってしまいます。

この問題は、例えばX、A、Bの国債、代金のやり取りを同時に行えるようなシステムを作ることでも解決できますが、Xを信用して短時間お金を貸してくれるYという存在を作ることも解決になります。YはまずXを信用してお金を貸し、Xはそれを元手にAから国債を仕入れます。Yはその国債をすぐに担保に取ります。Bからの代金受け取りとYの担保権を外してBに所有権を移すことはDVPを使って解決します。代金をXからYに即座に移せばYからXへの与信が解消されます。この一連の動きを極力短い間に行えば、YからXへの与信はごく短時間で済むので、丸く収まる訳です。しかし、このX(例えばリーマン)が破たんのような事態に直面すると、例え短時間でもこれを信用し与信することは難しくなり、取引が一気に混乱します。実際3年前の日本や世界でこうした混乱が生じたわけです。

このように、円滑な支払・決済は、DVP、担保、信用といった工夫を前提にようやく実現します。この「信用」あるいはギリシア問題で顕在化したように「国債という担保の信頼」が失われた途端、微妙な均衡が崩れ、取引は一気に難しくなります。こうした均衡を必死に図ろうとしているのが世界主要国の中央銀行という構図です。

さて、現在欧州の銀行に対し、欧州中央銀行がドル供給オペを行い資金繰り不安を防いでいます。このオペは、「欧州中央銀行がギリシア国債を含め欧州の銀行が持ってくる担保を信頼する」ということと、「FRBがドルをECBに貸す代わりに受け取るユーロの価値を信頼する」という2つの信用が土台となっています。例えば米国でティーパーティが「欧州中央銀行やユーロを信じることは国益に反する」などと言い始めると、こうした土台が崩れかねません。そうなると世界の金融・経済は文字通り崩壊します。そういうことが起きないことを強く願っています。

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3 comments on “Vol.106: 支払、決済、信用
  1. ベルドン より
    信用

    パーティで・・
    貴婦人が・・隠れて・・ある貴族と・・キスを交しているのを見て・・友人から・・
    『見ましたか?』
    と囁かれたゲーテ・・
    『見ましたが信じません』

    ヨーロッパのエリートには・・ゲーテの精神が宿っているのでしょう・・・

  2. 匿名希望 より
    すいません、付いて行けないです(TT)

    あのぉ

    多分、非常に平易に絵本的に解説して下さっている事は分かるのですが、残念ながらついていけません、、、

    (なんとなくは分かるんですが)

    多分、殆どボランティア感覚で活動されているんだとは思いますが、良かったらポンチ絵等をブログupして頂き、平行説明できないでしょうか。

    ぐっちーさんもそうなのですが、やはり言葉だけで視覚(右脳刺激)が無いと、未経験者には厳しすぎます。

    とはいえ、あまり時間をかけ過ぎても大変でしょうし、そこはあくまで一意見です。

    それでは、そろそろ長袖の時期になりそうですので、御自愛ください。

  3. こだま より
    なるほどなるほど

    Konanさん
    詳しい説明、ありがとうございました。
    門外漢にはこういう内部の仕組みは全くわからないので大変勉強になりました。

    匿名希望さん
    わからなくなったところがどこなのかが分からないと、フォローが難しいです。
    また、見ただけで理解の助けになるポンチ絵を描くのはかなり困難です。
    Kananさんの説明は、上から読んでいくと順にわかるようになっていますので、逆にある部分がわからないとその後の理解は難しくなります。
    最初にわからなくなったのは、業者Xが出てくる前ですか? それとも後でしょうか。

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