2009/12/14 00:00 | by Konan | コメント(1)
Vol.14: リーマン危機回顧(その2)
今回は前回の続きです。前回は世界景気が良くなり、資源価格が上昇したのに、なぜ世界中の中央銀行が強力な引き締め(金利引き上げ)政策をとらなかったのか、という問題提起で終わりました。今回はその回答編です。
主な理由は2点に大別できます。第1に、実際、世界的にインフレが生じなかったということです。インフレが起きなければ、どんどん利上げしていく必要もないという訳です。2003年以降の景気拡大局面では、需要の増加に加え、中国やインドが象徴的ですが、供給能力も同時に拡大しました。それまで世界の工場は日本や東南アジアなどの地域が主体だった訳ですが、中国、インド、東欧など新興市場国と言われる国々が供給能力を拡大したため、需要が増加したとしても、物不足から物価が上がることはなかったということになります。2005、6年のユーフォリア的な雰囲気の頃、よく、インフレの心配は最早不要といった議論が行われていたことを思い出します。
第2は、「日本の失敗」に関するとても否定的な評価が、米国を中心に定着していたということです。その中心人物はグリーンスパンであり、当時FRBの理事であったバーナンキである訳ですが、事情は以下のとおりです。
金融政策においては、物価が上がるインフレ局面では、金利をどこまでも(例えば1000%まで)引き上げていくことにより対応し、それを退治することが論理的には可能です。ところが、物価が下がるデフレ局面では、名目金利をゼロ未満に下げることができない(マイナス金利は概念的には考えられるが、金を借りて利息ももらうといった取引は実際には成り立ち得ない)というゼロ金利制約があるため、デフレが深刻化しても、金融政策によって対応することに限界が生じてしまうと言われています。当時、日本はデフレに陥ったとみる人たちが多く、かつ、ゼロ金利制約に伴い、そこからなかなか抜け出ることが出来ないと思われていた訳です。そして、そうなったのは、「早めに利下げを行い、デフレに陥ることを未然に防がなかった日銀の責任、失敗」という認識が世界的に定着しました。このため、ITバブル崩壊後2年間にわたる景気悪化局面で思い切った金融緩和政策をとっただけでなく、日本の失敗を繰り返さないため、インフレが懸念される状況になるまで、余り利上げを行わない、という政策が採られました。典型的にはFRBが当時measured paceという言葉を用いていましたが、要は利上げしていくにしても、ゆっくりと段階的にしか行わない、という宣言を2004年以降の回復・拡大局面でも行っていた訳です。
これは、お金を動かす人たちから見て、「先がみえる、相手の手口がみえる」ゲームになってしまいます。先々の金融政策が確実に予見できれば、かつ、水準的にみて余り高くない金利状況が続くと確信を持てれば、安心してお金を借りて投資することが可能になるわけです。これが、信用膨張を呼び、そして2007年にはじけた、ということです。
このプロセスは、日本のバブルと全く同じです。80年代、プラザ合意後の円高不況に対応するため、日銀は当時としては未曾有の利下げを行いました。しかも、事後的にみれば、日本経済は円高不況に対し極めて柔軟に対応し、そこから抜け出る準備が整ったにも関わらず、「日本が世界の成長を牽引する機関車にならねばならない」といった国際的プレッシャー、そして当時は日銀には独立性が与えられていなかったことから、低金利政策の継続を余儀なくされました。そして、バブル(日本の場合、不動産価格の上昇を信じた、巨額な融資による信用膨張)が生まれ、90年代に入り崩壊し、経済が失速しました。今回世界的に起きたことは、このときの日本と原理としては全く同じです。
ただ、違いがあるとすれば、今回は、証券化のような金融技術の発展が、そうした信用膨張を支える大きな背景になったという点にあると思います。次回はその点に触れようと思います。
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今、お隣中国においては世界経済の中心になるべく(少なくとも世界中が期待しているように思えますが)金融拡大していますが、当時の日本と政治状況の違いがあるにせよ現在の中国は80年代後半の日本経済に近いのでしょうか?中国の地方都市でもマンション乱立してきましたし、高級外車なんかは日本の地方都市と比較にならないぐらい走っています。お金の価値がわからなくなるような世界がこの国で起こっているような気がします。これがバブルなのでしょうか?この泡がはじけたらどうなるんでしょうか。とんでもない人災になるんでしょうか。