2009/11/09 00:00 | by Konan | コメント(0)
Vol.9: 日銀の展望レポート
今回は、10月末に公表された、日本銀行の展望レポートの紹介です。Vol.4でも書いたように、このレポートは毎年4月末と10月末に公表され、日本銀行の経済情勢や物価動向に関する見方や金融政策運営の考え方を総括的に示すものです。今回は、展望レポートの公表と同時に、企業金融支援関係の政策変更も行われ、再び日銀の政策への注目も高まっているので、その点でも日銀の考え方を知るうえで、重要なレポートと思います。
ちなみに、展望レポートは、10月末(今回は30日)に「基本的見解」と呼ばれる骨子が公表され、その次の営業日(今回は11月2日)にレポートの全文が公表されると言う、二段階での公表になっています。この全文は、面白い分析や図表が沢山ついており、経済や経済学に興味がある方は、一度読まれることをお勧めします。ただ、全文を紹介することも大変なので、今回は、主に基本的見解で取り上げられた点を中心に紹介します。
展望レポートは、(i)当面2、3年の間に起きるであろう、最も蓋然性が高い経済や物価の見通しを示した上で、(ii)その見通しが上下に外れるリスク要因の所在やその蓋然性をチェックし、(iii)そのうえで、金融政策運営の基本的考え方を示す、という作りになっています。そして、この(i)(ii)の点に関し、日銀の政策を決定する政策委員会メンバー(定員9名ですが今は1名欠員のまま8名)各人の見通しの中央値や分散が示されます。
そうした作りを踏まえ、今回は、日銀の経済や物価の見方、今後の金融政策運営の基本的考え方、今回の企業金融支援措置の変更の内容、について紹介します。
(経済、物価の見方、金融政策の考え方)
今回のレポートをみるうえで、一番分かりやすいのは、レポート参考1に付されている、2009から2011年度の政策委員の大勢見通しです。中央値や見通しの分散、そして参考2では、見通しが外れるリスクを上下どちらにみているか、といった点が示されています。この参考1の中央値に注目すると、実質GDP成長率は今年度−3.2%のマイナス成長の後、2010年度+1.2%成長、2011年度+2.1%と、回復が見込まれています(ただし、2010年度半ばまでは、持ち直しペースが緩やかにとどまるとの指摘もなされています)。物価面で重要な消費者物価指数前年比をみると、今年度−1.5%下落後、来年度−0・8%、2011年度−0.4%と下落は続くが、下落率が縮まっていくと予想されています。これを踏まえ、「日本経済は、やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的成長経路に復していく展望が拓ける」との見方を示しています。
次に、その見通しが外れるかもしれないリスク点検においては、新興国・資源国の経済情勢が好調であることが上振れ要因として、米欧のバランスシート調整の帰趨(調整が上手くいかない可能性)や、企業の中長期的な成長期待の動向(日本経済が長い目でみても冴えないと企業が考え始めると、国内投資などが圧縮されてしまうリスク)が下振れリスクとして示されています。
そのうえで、金融政策について、「きわめて緩和的な金融環境を維持していく」「わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰していくことを粘り強く支援していく」との宣言を行っています。
もうひとつ重要なポイントとして、2頁注2において、日本の潜在成長率について、従来の推定値(4月時点で1%前後)から「0%台半ば」に下方修正されています。このこと自体、かなり衝撃的な数字です。
以上をまとめると、現在日本経済は悪い状況時あるが、世界経済の回復に伴い、来年度(とくに後半以降)、再来年度と成長率が上がっていき、潜在成長率を上回ってくるので、物価面でも徐々に下落圧力がなくなり、デフレ懸念は生じないということ、しかし、だからといって引き締め方向に金融政策を動かす訳ではなく、下振れリスクに注意しながら、緩和的な金融政策を粘り強く維持していくということ、が今回のレポートの骨格と思います。
既に識者の批判は、日銀のデフレに関する見方が甘いという点に寄せられており、実際、物価下落が続くのに大丈夫か、という見方もあるかもしれません。ただ、今より更に緩和的な政策余地がもともと殆どないので、「今の緩和的スタンスを維持する」という以上、メッセージが出しようもない、という感じなのかもしれないと思っています。
(企業金融支援)
今回、展望レポート公表と合わせ、CPや社債の買い切りオペを12月末で終了する、企業金融特別オペ(手形やCP、社債、企業への貸付証書など、企業の債務を担保として日銀に持ち込めば、期間3ヶ月の資金を0.1%固定で、担保がある限り供給するオペ)を3月末まで続けた後に完了する、という企業金融支援に関する「出口」が示されました。
若干補足すると、10月最初の総裁記者会見の頃から、白川総裁は「世界的に議論されている出口戦略は、緩和的な金融政策、大胆な財政政策など、マクロ経済政策のコアの部分を終わらせるかどうかという点がポイントであり、技術的な点を終えるか終えないかということは余り重要な論点ではない」旨発言し、予防線をはっていました。また、実際、CPや社債の買い切りオペは最近では殆ど活用されず、オペとして残しておく意味が低下していました。議論が分かれるとすれば、引続き活用されている企業金融支援オペを継続するかどうかですが、例えばCPをこのオペに担保として持ち込めば0.1%でお金が借りられるため、CPの市場取引レートが0.1%に「押し潰れて」しまい、市場機能を阻害しているという弊害も指摘されていたため、この際、3月で思い切って終了することにした、と説明されています。
この点、金融市場のプロの目からみれば、自然な結論と思います。ただ、貸し渋り法案がまさに国会で審議されようとするタイミングでの決定は、日銀の企業金融の見方と政府の見方の間の齟齬として、自民党につかれやすい論点を提供してしまったことになります。その意味で、今後ポリティカルに日銀がどう振舞っていくか、注目したいと思います。
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