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The Gucci Post [国際政治・経済・金融 × プロフェッショナル]

2009/10/12 00:00  | by Konan |  コメント(0)

Vol.5: IMFのレポート


今回は、最近公表された、IMF(国際通貨基金)の2つのレポート、国際金融安定性報告書(Global Financial Stability Report )と世界経済見通し(World Economic Outlook)について、簡単に紹介したいと思います。両レポートともかなり長いため、全文を読み通すことはとても出来ません。逆に両レポートの核となるメッセージについては、既に新聞等でも報道されていますので、今回は、なぜIMFのレポートが注目されるのかという意味合いを中心に紹介したいと思います。なお、IMFの資料は原文だけでなく、日本語訳もアクセス可能です(IMFには東京事務所もあります)ので、興味があれば、HPをぜひ一度ご覧ください。

IMFは、第2次大戦後、いわゆるブレトンウッズ体制構築の一環として設立され、本部はワシントンにあります。重要な役割は、主要な国々から資金を集め、それを通貨危機等に陥った国に貸し付けるなど支援を行うこと、途上国がそうした危機を起こすことなく経済発展を図れるよう、ミッションの形で各国に飛び、指導を行うこと、先進国についても、経済政策のあり方等に関し議論を行い、場合により勧告を行うこと、などと理解しています。様々な国籍の優秀な博士号取得者を多数スタッフに抱え、また各国政府も人材を送り込んでいます。ちなみに、数ヶ月前、中国人民銀行行長が「SDRを国際通貨に」と発言し話題を呼びましたが、このSDR(special drawing rights<特別引出権>)は、主要国がIMFに各国通貨で資金供与する際、それを米ドルのようにある特定国の通貨で管理することは問題なため、主要通貨のバスケットの形で作り出された通貨単位のようなもので、SDRという通貨が実際に流通している訳ではありません。ユーロ導入前に、ECU(欧州通貨単位)という概念があったことに似ているということでしょうか。

さて、IMFのこれらのレポートは、大体毎年4月と10月頃に公表されます(世界経済見通しは、その他7月のような中間期にアップデートもされます)。このタイミングは、毎年(概ね)10月にIMF年次総会が開催され(今年はトルコで)、また4月に同様に重要な委員会が開催されるため、それに合わせた設定となっています。そして、最近地位の低下が著しい、しかしかつて極めて重要な役割を担っていたG7の財務大臣・中央銀行総裁会議は、毎年、こうしたIMFの総会、重要な委員会の直前の週末(土曜日)に開催されています。G7の財務大臣、中銀総裁は、G7会議のあと、IMFの行事に続けて出席する訳です。そして、そのG7にはIMFの専務理事も出席し、直前に公表した世界経済見通しに基づき世界経済について報告を行い、これと各国の報告を合わせたうえで、世界経済に関する現状認識の議論が行われる仕組みになってきました。IMFのレポートが重要なのは、その予測力が高いといったことより、G7のような重要な場で、議論の際のベンチマークを提供する役割を担っているため、ということになります。IMFの豊富なリソースを勘案すると、今後もレポートの質の向上努力が続くでしょうし、恐らく、他にライバルレポートが見当たらないという点も含め、世界経済という点に関し、注目を集め続けるだろうと思います。

以下では、2つのレポートについて、その触りだけ紹介したいと思います。まず、GFSRの方ですが、かつてぐっちーが「経済学者の発想は間違い。サブプライム問題による損失規模は間違いなく1兆ドルを超える」とブログで主張していた(そしてぐっちーが完全に正しかった)中で、まさに批判の対象になった報告書です。報告書の中で推計された損失規模は、発行を重ねるごとに増額修正され、その数字は最新号では3.4兆ドルとされています。この数字をみるうえで注意すべきは、以下の3点です。第1に、この3.4兆ドルは、「2007年から2010年の間に実現した、ないし実現可能性がある、世界の銀行その他の金融機関の損失額」と定義され、証券化商品に限らず、貸出債権もその対象に入っています。私の思い違いでなければ、当初は証券化商品に対象を絞って推計がなされていた記憶がありますが、数字が増額修正されてきた背景には、実態が時を経るにつれて悪化していっただけでなく、定義を拡張し、金融システム問題の全体像を把握しようとする方向で、考え方の深化があったのだと思います。第2に、この損失額は、前回4月のレポート時の推計4兆ドル対比、6千億ドル減少しました。その背景は、いくつかの金融商品の市況が回復してきたことにあり、最近の国際金融資本市場の落ち着き傾向を反映しています。しかし、商業用不動産市場のように実体経済の悪化が同時に進んでいるため、貸出債権の劣化は進んでいます。要するに、証券化商品のようなものの損失認識はある程度進んできたが、実体経済との関係が深い貸出債権については注意が怠れないということです。第3に、レポート本文9頁のFigure 1.9に掲載されているように、銀行の損失について地域ごとにみると、米国ではかなり損失認識が進んできた(損失可能性への対応が引当の形で進んできた)のに対し、欧州ではまだ4割程度しか進んでいないと指摘されています。欧州を中心に、金融システム問題への警戒は怠れない、ということと思います。

次に、世界経済見通しですが、そのメッセージのコアは「経済は下げ止まり、持ち直してきた。しかし、今後の回復のペースは緩慢であろう。なぜなら、金融システムはまだ傷ついているし、各国の財政政策等を通じたサポートは途切れてくるだろうし、資産価格下落で傷ついた家計が消費を節約し貯蓄に努めるだろうから。見通しが外れるとすれば、悪い方向に外れる可能性が高い」という、レポート冒頭の数行に集約されています。2点だけ補足すると、まず、レポートのTable 1.1では、見通しの総括表が載っています。2007年に前年比+5.2%の高成長を遂げた世界経済は、その後、2008年に+3.0%、今年の見通し−1.1%と減速しついにマイナス成長なりましたが、来年は+3.1%とプラス成長に戻る予測になっています。7月時点の中間見通しとの対比で、今年は+0.3%、来年は+0.6%の上方修正です。ちなみに、米国は今年−2.7%、来年+1.5%、日本は今年−5.4%、来年+1.7%、中国は今年+8.5%、来年+9.0%と予測されています。次に、Figure1.14では、予測が外れるとすれば、どちらに外れるかが、フィンチャートの形で示されています。「90%の信頼性を確保して予測せよ」と言われると、来年の世界成長率は、+0.2ないし0.3%程度の可能性もあると言わざるを得ない、という感じです。

GUCCI POSTの読者には学生が多いそうですが、経済学部の皆さん、ぜひ2つのレポートに挑戦してみてください!

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