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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2009/09/21 00:00  | by Konan |  コメント(0)

Vol.2: ピッツバーグサミット


今回は、24、25日に開催される第3回金融・世界経済に関する首脳会合(ピッツバーグサミット)について、その事前ガイドをお届けしたいと思います。鳩山首相が初めて出席する一連の国際会議の1つであり、また、個人的には、ピッツバーグは初めて米国で降り立った地なので、懐かしく思います。因みにピッツバーグというと鉄の街というイメージで、フットボールの強豪スティーラーズの本拠地ですが、実際にはとても美しい街だったという印象が残っています。

さて、実際のサミットの結果は終わってみなければ分からない訳ですが、この前哨戦として、既にG20財務大臣・中央銀行総裁会議が終わり、声明も出ています。これを参考に、サミットでどのような議論が行われそうか、触れてみようと思います。因みに、サミットというと、昨年、当時の福田首相が主催した洞爺湖でのG8サミットを思い出す方が多いと思います。今回紹介するサミットは、これとは別物。リーマン破綻後の国際的な金融危機に対応するため、世界の20の主要国(地域)の首脳が一同に集り、対応を話し合う場として、初回会合が当時のブッシュ大統領のもと、昨年11月ワシントンで開催されました。2回目は今年4月のロンドン。そしてピッツバーグが3回目となります。

G20会議の声明は多岐にわたります。貿易(ドーハラウンド)、気候変動、IMF・世界銀行のような国際機関のガバナンスの改革など、その分野に携る方々にとり、大変重要な項目が含まれています。そのうえで、今回は、なぜ20か国?、世界経済の情勢、金融システム問題、の3つを取り上げようと思います。

(20か国?)
G7(日、米、英、独、仏、伊、加)にくわえ、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、そしてEU、ASEAN、アフリカ連合、IMF、世界銀行などからも参加しています。ぐっちーがよくブログ等でG7の力の低下について指摘しています。このG20の枠組みは、まさにG7に取って代わろうとする枠組みであり、世界金融・経済において、中国をはじめとするこれまで新興市場国と呼ばれてきたような国々の力が如何に強まっているかを示す、象徴的な事象でもあります。

ただ、この点について、別の感想も持っています。20か国による新たな枠組みを作らざるを得なかった背景には、今回の金融危機の発端がG7諸国(日本は別かもしれませんが)であり、いくらG7が偉そうなことを言っても、「問題を起こした張本人には語る資格はない」と軽蔑されかねない情勢だったことがあると思います。従って、必然的にG7以外の国を巻き込まざるを得なかったということです。更に言えば、G7からみれば、会議を通じ他の13か国のお墨付きを得ることが出来れば、一旦失墜した正当性を回復することが出来ます。20か国会議で13か国がこれまでにない考え方を発信し、会議をリードする段階になれば別ですが、そこに至るまでの間、G7が会議の原案を作り、13か国に承認してもらい、そこで正当性を得ることができれば、大変あり難い訳です。その意味で、現在はまだG7サイドにしたたかさが残っている段階とみています。

ただ、近未来どうなるか?中国との関係で、日本の立場はどうなるか?不安は尽きないところです。現在多数国が参加している欧州は欧州連合にまとまっていく方向でしょうし、米加墨もまとまるのかもしれません。アジアでは、中国がナンバー1となることは間違いなく、また、日中がすべて歩調を合わせていくことも難しいとすれば、人口の多さを背景にアジア2席を確保し、うち1席は中国、もう1席はその他アジアとし、日本がインド、韓国、東南アジア等を纏めながらその1席を確保し続けるよう必死に今後の外交資源を傾けていく、ということなのかもしれません。この辺は専門領域から遠く、単に思いつきですが、、、

(世界経済)
G20財務大臣・中央銀行総裁会議の声明をみると、「我々の先例のない、断固たる、協調した政策措置は景気後退を止め、世界需要を喚起するのに役立った。金融市場は安定化してきており世界経済は改善しているが、成長と雇用の見通しについては引き続き慎重であり、特に、多くの低所得国への影響について懸念している。我々は、景気回復が確実になるまで、物価の安定と長期的な財政の持続可能性と整合的に、必要な金融支援措置及び拡張的金融・財政政策の断固たる実施を継続する」とされています。英語原文ではwe remain cautious about the outlook for growth and jobsといった表現です(この種の声明では、邦訳でなく英語の原文をみられることをお勧めします。邦訳は正確ですが、それでもややニュアンスの違いを感じることがない訳ではありません)。

ぐっちーは世界経済(とくに米国経済)について大変悲観的で、私も個人的には賛成しています。そのうえで、この声明は結構正直な声明と感じています。要はこれまでの政策は効果をあげているし、よい話しも出ているが、先々楽観できないので、必要な政策をしっかり続けます、ということで、よく言われる「出口戦略」について、楽観的な見方を戒めているとも言えます。この認識がサミットで維持されるかどうか、今回の最大の注目点です。また、更にいえば、ぐっちーの指摘のとおり、雇用がキーポイントになると思います。現在世界経済は、需給ギャップがマイナス(供給能力対比需要不足)の状況です。要は稼働率が低く、企業からみれば赤字が続いている状況です。景気が下げ止まり、少しずつ回復を始め、赤字幅が縮むのはよいことですが、それでも、赤字が続くとすれば、企業は雇用や設備投資を圧縮し続けざるを得ません。そのことが実体経済にマイナスの影響を与え続けます。それがまた金融に跳ね返っていくかもしれません。そうしたリスクを現時点では無視し得ないので、注意を怠るべきではない、というところでしょうか。

(金融システム)
G20財務大臣・中央銀行総裁会議に続き、中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループの会合も開催され、踏み込んだ提言がなされています。マスコミ的には「報酬慣行に関するガバナンス改革」に焦点が当たっていますが(要は、金融危機は短期的な利益追求の結果起きた側面があるので、金融機関の経営陣が莫大なボーナスをもらえる仕組みを改めよ、という議論)、そのこと以上に重要な点として、銀行に対し保有自己資本の量と質の向上を求める、景気循環抑制的な資本バッファー積み上げを義務付ける仕組みを導入する、レバレッジ規制を導入するなどの点が謳われています。この点についてサミットでどこまで踏み込むか、注目点です。

さて、ここではこうした議論の背景を少し整理したいと思います。規制強化論と反論のロジックは以下のように整理できます。

強化論:今回の危機は金融機関が信用を膨張させたことに根源がある。また、信用膨張破裂に伴い金融機関が被った損失を、自力でカバーすることが出来なかった結果、国民の金をつぎ込まざるを得なかった。こうした馬鹿げたことを二度と起こしたくない。そのためには、銀行に資本をもっと持たせればよい。資産対比でみた自己資本を今まで以上に求めれば、資産拡大=信用膨張に歯止めがかかるであろうし、次の景気後退局面で損失が発生したとしても、資本の中で吸収できるので、国民に迷惑がかからないはず。

慎重論:強化論が仮に正しいとしても、今行うべき議論ではない。現在、銀行の貸し渋りが世界的な大問題。その中で「資本をもっと持たせよう」といった議論を始めると、銀行は将来のことが心配になり、貸し渋りを一段と強めてしまう。こうした議論は先送りすべき。また、強化論は株主の観点を忘れている。銀行がより資本調達を求められるとすれば、ROEを維持するため、より収益を上げる必要があり、結果として今まで以上のリスクテイクに走ってしまいかねない。それは、今回のようなバブルに繋がり得る。

再反論:そうは言っても、危機の只中だからこそ、世界のリーダーが集い、自己資本規制強化の合意を得ることができる。この機を逃すと、規制強化は行えない。規制強化を行う合意は今行うべき。実施はかなり後でもよい。

そして、強化論が勝利を収めつつあります。一部邦銀にとり深刻なのは、「今後の自己資本増強は、普通株式による調達か収益の積み上げにより行いなさい」という方向が明確になりつつある点。優先株式等の比率が大きい先には高いハードルになってきます。巻き返す余地が限られる中、サミットで鳩山首相がどのように対応するのかを含め、今後の展開は要注目です。

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