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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2024/12/23 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.259: 日銀政策維持


今回は18・19日に開催された日銀金融政策決定会合を紹介します。前回「利上げ無しに賭けるが、利上げの心構えも必要」と書きました。利上げが無かったどころか、植田総裁の不規則発言で円安が急激に進んだことは、皆さんご存知の通りです。

なお、同時に公表された「多角的レビュー」については、来年取り上げたいと思います。忘れていたら指摘ください。

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日銀の景気判断は不変
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今回のように展望レポートがない回(3月、6月、9月、12月)とある回(1月、4月、7月、10月)とでは分析の詳しさに違いがありますが、景気判断やリスク要因の指摘内容は前回から維持されました。

(現状)
・基調:一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
・個人消費:物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にある
・設備投資:緩やかな増加傾向にある
・住宅投資:弱めの動きとなっている
・公共投資:横ばい圏内の動きとなっている
・輸出:横ばい圏内の動きとなっている

(先行き)
・海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる

(リスク要因)
・海外の経済・物価動向
・資源価格の動向
・企業の賃金・価格設定行動
・金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響
・このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある

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政策維持と植田総裁の発言
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政策金利は維持されました(ただし、9人の政策委員会メンバーのうち1人は利上げを提案)。このこと自体は予想の範囲内でしたが、会合後の植田総裁発言がとてもハト派だったため、為替相場は一気に円安化しました。

この伏線として、直前に行われたFRBの会合で、来年の利下げペース鈍化見通しが出されたことから、株価下落とドル高化が進みました。この点は是非Saltさんの解説をお読みください。日銀の決定と植田総裁発言が、とくにドル高・円安を加速した格好です。

その発言は、日銀HPに掲載された公式版で「私どもの見通しが実現していく確度は多少なりとも上がっているということだと思います。ただ次の利上げの判断に至るには、不正確な言い方ではありますけれども、もうワンノッチほしいなというところかと思います。そのもうワンノッチの中に、賃金上昇の持続性ということも入ってくるかと思います」です。

この他、トランプ政権の政策の不確実性の大きさなどもありますが、「ワンノッチ」の用語が拡散し、市場を動かしました。この「ワンノッチ」は事務方が用意した想定問答には無い言葉で、植田総裁自身が選んで使ったようです。

12月会合での政策金利据え置きまでは予想していた市場ですが、この言葉で「来年1月会合でも利上げは行われないかもしれない」と受け止めました。日銀の対話の難しさと稚拙さが端的に表れた格好です。

ここからは妄想の領域ですが、7月利上げ直後の世界株価暴落を体験した植田総裁が、FRBの政策決定後の株価下落をみて心配してしまい、過度に市場に優しい表現を用いたように思えます。それが円安の形で自らの首を絞め、来年1月会合に関して、「利上げ」「維持」が一種の賭け、あるいは政治イシューになってしまう恐れを生んでしまったと思います。その意味で「悪手」でした。

今回はこの辺で。

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