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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2024/08/12 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.244: 日銀を巡る3つの疑問


3連休の最終日。今回も日銀を巡る話題です。3つの疑問を取り上げました。

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混乱を予期していたのか?
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最初の疑問は「7月末の金融政策決定会合の際、その後の市場の混乱を予期していたのか?」です。

振り返ると、7月31日に日銀は利上げを決定。FEDは政策金利据え置きながらも9月利下げ開始を強く示唆。これで円高に動き始めました。米国雇用統計悪化が追い打ちをかけ、米国利下げ期待が更なる高まりを見せる中、8月5日にかけて円高の更なる進行、ブラックマンデーを上回る日経平均株価下落、そして世界的な株価下落が続きました。その後、少し落ち着きを取り戻し始め、株価は6日に反発。日本では、7日の内田日銀副総裁発言が株価を押し上げました。

事情を知らない人からみれば、日銀が利上げを決定したため株価が急落し、大きく損した格好に見えます。「日銀悪者論」で、国会では休会中審査が行われるようです。

7月31日の決定時、当の日銀はある程度の円高と株価下落は予想していたと思います。円高は口に出しては言えないものの目論見通りですし、円高が輸出企業の収益悪化や海外投資家離れを招き、ある程度株価が下がることも想定の範囲内だったと思います。米国雇用統計の悪化自体も想定内だったかもしれません。

しかし、失業率の0.2%上昇がここまで米国経済への不安感を呼ぶこと、これほどまで円キャリートレードの巻き戻しが生じること、そして円高が進み株価が暴落することは、日銀の誰も予想していなかったと思います。

「中央銀行ならこれくらい考えておけ」との批判は可能です。ただ、インフレを許してしまった数年前のFEDをみれば分かるように、中央銀行が万能の神でないことは明らかとも言えます。

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アナリストはなぜ外したか?
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ところで、今回円高が進んだ一つの背景は、日銀利上げが想定外だったことにあるかもしれません。しかし、今回の利上げを想定できなかったとしたら、日銀の政策を予想して金を稼ぐ所謂「日銀ウォッチャー」の資格はありません。では、なぜ外したのでしょうか?

外した人たちは、「日銀の説明不足・対話不足」と言いますが、6月の記者会見で植田総裁は「7月利上げ」があり得ることを明言しています。また、日銀ウォッチャーの多くは、黒田前総裁時代に鈍ってしまったのか、「中立金利」を巡る議論を理解していないか軽視していると思います。植田総裁は、中立金利を巡る議論の難しさや不確実性を良く理解していますが、同時にその重要性も深く認識しています。日銀自身「引続き緩和的な金融環境」と説明しますが、中立金利のレベルは正確には分からないが、今の政策金利が低すぎることは間違いないと考えているからこその発言です。

2%の物価安定目標が達成できるとの大きな前提条件が満たされる環境下であれば、0.25%への利上げは自然な決定でした。先日の植田総裁の「0.5%を壁と意識しない」発言からは、(名目の)中立金利を少なくとも0.75%と認識していると推察できます。

ただし「2%物価安定目標」達成にも不確実性があるので、様子を見ながら考えていくというのが植田総裁の説明です。3月利上げと今回利上げの間に4月、6月と2回の金融政策決定会合が挟まりました。次回利上げまで再び2回の会合を挟み、12月に次の利上げを決定することが例えば考えられます。

しかし、株価暴落がこのシナリオに暗雲を呼び込みました。

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内田副総裁発言の真意は?
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そうした中、7日の函館での内田副総裁講演・会見が波紋を呼びました。この場はかなり前から設定されていたので、函館は思わぬ形で注目を集めることになりました。

「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」の一言で、株価はかなり上昇しました。報道でこの発言を見た際は、副総裁の軽率なリップサービスと受け止めたのが正直なところです。また「植田総裁と意見が異なる」との受け止めも、講演原稿を読むまでは「そうだよな」と感じていました。

ただ、講演原稿を読み、発言がさほど変では無いと思うようになりました。副総裁のかねてからの持論は「日本はビハインド・ザ・カーブではない」です。要は、利上げは妥当かつ必要だが、タイミングを選ぶ余裕があるとの考え方です。なので「わざわざ市場の不安定時に利上げを行う必要は無い」となります。

また、元々7月会合では円安が物価上昇リスクを生む構図を強調していましたが、円高化によりこのリスクも低減しています。

そのうえで、2点思いました。ひとつは、植田総裁と内田副総裁の考え方の枠組みは同じだが、利上げの到達点のイメージは植田総裁の方が高いかもしれないということ。もうひとつは、市場の混乱が収まったとしても、「羹に懲りてあえ物を吹く」ではないですが、次の利上げ時期が上記の「12月」より後になる可能性があること。円安による物価上昇リスクが低減したとすれば、その方が日銀にとり「楽」な選択かもしれません。

今回はこの辺で。

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