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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2023/08/18 06:30  | by Konan |  コメント(1)

Vol.204: 4~6月期GDP


台風の被害に遭われたり、日程が狂ってしまった方も多いと思います。そうした中、15日に4~6月期GDPが公表されました。「前期比年率換算+6%成長」に驚き、しかし内容的には「輸入減少に支えられた伸び。個人消費は減少」など、化けの皮が剥がれた感じです。Saltさんも素早くツイートされました。

なので書くのを止めようと思いましたが、一回飛ばしてしまうと次回以降の振り返りが面倒になるので、あえて書きました。

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GDP3期連続プラス成長
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・前期比+1.5%、年率+6.0%。昨年10月~12月期以降、3期連続のプラス成長。寄与度で内需-0.3%、外需+1.8%と完全な外需主導。

・内需では、民間最終消費支出が前期比-0.5%(寄与度-0.3%)と1~3月期+0.6%と様変わりの減少。他の需要項目は住宅投資の伸びが高い(前期比+1.9%。ただし寄与度は+0.1%のみ)ほかは小動き。

・外需では、輸出は前期比+3.2%(寄与度+0.7%)、輸入は-4.3%(寄与度+1.1%)。輸出は、自動車輸出の回復と、個人消費でなく輸出に計上されるインバウンド消費の増加を背景とした伸び。輸入の減少(増加)はGDP統計上プラス(マイナス)の影響を与え、今回は輸入の減少がGDPの伸びを高めた形。インバウンド消費は元々海外に住んでいる人に財やサービスを輸出したと見做され、輸入の増加は国民の儲けを奪うと考えられることが、こうしたGDP上の扱いの背景ですが、分かりにくいですね。

・実質雇用者報酬は前年同期比-0.9%と、賃上げが物価上昇に追い付かない状況が続く。このことが、今回の民間最終消費支出マイナスの背景として語られます。

・ちなみに、名目成長率は前期比+2.9%、年率換算+12.0%。やや正確性を欠きますが、直感的には物価が上がっているので、実質成長率以上に名目成長率が高まる構図にあります。売上高は名目成長率と関係し、収益は実質成長率と関係すると考えて良いと思います。

・4~6月期の実質GDP実額(季節調整後)は561兆円。私の見間違いでなければ、四半期としては過去最高のように思います。

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どうみるか?
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この四半期に着目すると以上の通りですが、何となく腑に落ちない面があり、少し数字を眺めてみました。

2022年(暦年)の実質成長率は+1.0%。寄与度でみると、民間最終消費支出+1.1%、設備投資+0.3%、民間在庫変動+0.4%、輸出+0.9%、輸入-1.5%です。

2023年以降、1~3月期の実質成長率(前期比)は+0.9%。寄与度で見ると、民間最終消費支出+0.3%、設備投資+0.3%、民間在庫変動+0.4%、輸出-0.8%、輸入+0.6%。4~6月期の実質成長率(前期比)は+1.5%。寄与度で見ると、民間最終消費支出-0.3%、設備投資+0.0%、民間在庫変動-0.2%、輸出+0.7%、輸入+1.1%。

以上をみると、この4~6月期に関する説明がやや短絡的に思えます。理由は以下の通りです。

・昨年の民間最終消費支出は結構伸びている。物価上昇にも拘わらず!コロナ禍による消費控え後のリベンジが背景にあり、その動きが今年1~3月期も続き、この4~6月期に一服したと見る方が良いのではないか。そのうえで、今後のカギを握るのが実質所得=物価上昇以上の賃上げ実現の有無であることは間違いなかろう。

・設備投資は、この4~6月期は前期比横ばいに終わったが、昨年もこの1~3月期もまずまず伸びていて、日銀短観等でも今年の伸びが見込まれる。当面は左程心配不要ではないか。

・在庫は昨年積み上がり、その傾向が今年1~3月期も続いた(在庫の寄与度プラスは在庫積み上がりを意味し、良くない兆しの場合が多い)。この4~6月期に減少したのは良い兆候?

・輸入は2022年-1.5%の寄与度。つまりすごく増えた!今年以降のプラスの寄与度(輸入の減少)はある意味で自然?

・輸出は、海外経済動向(減速傾向)、インバウンド消費動向(増加傾向)、自動車のようにサプライチェーン混乱の影響を受けた業種の動きに左右される。3つ目の要因が無くなっていくと、海外経済とインバウンドの綱引きに。やや分が悪いか?

皆さんもぜひ考えてみてください。今回はこの辺で。

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One comment on “Vol.204: 4~6月期GDP
  1. 中村哲治 より
    GDPにおける「輸入」について

    今回も詳しい解説をいただきありがとうございました。

    文中でGDPにおける「輸入」について、「輸入の減少(増加)はGDP統計上プラス(マイナス)の影響を与え、今回は輸入の減少がGDPの伸びを高めた形。」「輸入の増加は国民の儲けを奪うと考えられることが、こうしたGDP上の扱いの背景です」とありました。

    一般的にエコノミストによる説明はこのような説明になりますが、SNA(国民経済計算)は「一国の経済の状況について、生産、消費・投資といったフロー面や、資産、負債といったストック面を体系的に記録することをねらいとする国際的な基準、モノサシ」というものです。GDPは国同士の比較のために使われるものなので特殊な要素があり注意が必要です。
    https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/seibi/kouhou/93kiso/93snapamph/chapter1.html

    輸入は必ず国内での消費・設備投資に回りますので、輸入額を差し引かなければ日本で付加価値として生産されていないものが消費や設備投資で計上されてしまいます。

    輸入額をGDPから控除しているのは「輸入の増加は国民の儲けを奪う」からではなく、国内で生産されていないものを国内総生産にカウントすることを防ぐ目的です。それ以上でもそれ以下でもありません。

    言い換えれば輸入が増えてもその分日本国内の消費や設備投資に回るので、GDP全体から見れば輸入の増減はGDP額には影響を与えません。中立的です。

    むしろアメリカを見れば分かるように国民の福祉を見るのであれば消費額を基準に経済は見た方がいいと思います。そうすると今回の問題は「寄与度で見ると、民間最終消費支出-0.3%」と消費が減っていることです。

    物価上昇がコストプッシュで起こっている場合には企業の粗利が増えませんので給料が上がりません。今回解説された数字を見れば岸田政権は国民に可処分所得を与えるようにガソリン値上げ対策などの補正予算を組まなければならないと考えるべきだと思います。いかがでしょうか。

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