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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2023/07/31 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.201: 日銀政策修正!


FED、ECBと続いた中央銀行週間を締め括った日銀。27・28日に開催された金融政策決定会合で、政策の修正が行われました。今回はその紹介です。なお、IMF世界経済見通し(25日)、内閣府月例経済報告(26日)は来週に回します。

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難解で繊細な政策修正
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今回のキーワードは「柔軟化」。ポイントは以下の通りです。

・イールドカーブコントロールの枠組みは維持(不変)。
・短期金利マイナス0.1%、長期金利(10年物国債金利)ゼロ%、長期金利変動幅±0.5%も不変。
・従って本格的な政策変更ではない。粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを目指す。このスタンスは全く変わらない。

・しかし、長短金利操作について、より柔軟に運用する。具体的には、長期金利の上昇も状況次第で容認する。ただし、1.0%は超えないよう死守する。

この後半部分が「難解」しかし「繊細」と感じた部分です。難解な理由は、±0.5%と+1.0%との関係が分かりにくいこと。+0.5%超えが容易に起こるか否か、起こる場合どの程度まで許容されるか、イメージが湧きづらいところです。

他方で、今回の修正に関し、「不確実性」「実質金利」「ボラティリティ」などの言葉を用いて正当化を図ります。以下の通りです。

・物価は従来の見通し以上に上昇している。今後もそうした動きが続く可能性がある。
・仮にそうなる場合にも名目金利を抑え込もうとすると、債券市場などで混乱が生じてしまう。こうした場合は、名目金利上昇を容認した方が良い。仮に名目金利が上昇しても、実質金利(名目金利から物価上昇率を差し引いた金利)は一定に保たれるので、景気を損なうことはない。
・逆に、景気や物価が下振れるリスクを忘れることもできない。このため、従来のイールドカーブコントロールの枠組みは維持しておく。

植田・氷見野・内田という新体制らしい、学者風の理屈付けにも思えます。また、0.75%でなく1.0%まで上限を上げたので、日銀には暫く猶予が出来ました。多角的レビューを鋭意進め、本格的な政策変更のあり方を模索していくことになります。その意味では上手い政策修正でした。ただし、予想より早く長期金利が1%に近づくケースでは、再び市場との戦いが始まります。その意味で、今後の物価動向が重要です。

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景気判断は上方修正
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今回のように展望レポートがある月(1月、4月、7月、10月)とない月(3月、6月、9月、12月)とではスタイルが異なり比較が難しい面はありますが、現状の基調判断は「持ち直している」から「緩やかに回復している」に上方修正されました。

(現状)
・基調:緩やかに回復している
・個人消費:物価上昇の影響を受けつつも、緩やかなペースで着実に増加している
・設備投資:緩やかに増加している
・住宅投資:弱めの動きとなっている
・公共投資:緩やかに増加している
・輸出:海外経済回復ペースの鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっている

(先行き)
・当面:海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果などにも支えられて、緩やかな回復を続けるとみられる
・その先:所得から支出への前向きの循環メカニズムが経済全体で徐々に強まっていくなかで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。ただし、見通し期間終盤にかけて、ペントアップ需要の顕在化による押し上げ圧力が和らいでいくもとで、経済対策の効果の減衰もあって、成長ペースは次第に鈍化していく可能性が高い

(リスク要因)
・海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向
・ウクライナ情勢の展開やそのもとでの資源・穀物価格の動向
・企業や家計の中長期的な成長期待

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物価上昇率は再び1%台へ
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展望レポートの中では、植田総裁を含む9人の政策委員会メンバーによる実質GDP・消費者物価指数の見通しが示されます。中央値(9人のうち上からみても下からみても5番目の数字)は以下の通りです。

(実質GDP)
2023年度+1.3%(前回+1.4%)、2024年度+1.2%(前回+1.2%)、2025年度+1.0% (前回+1.0%)

(消費者物価指数=除く生鮮食品)
2023年度+2.5%(前回+1.8%)、2024年度+1.9%(前回+2.0%)、2025年度+1.6%(前回+1.6%)

(消費者物価指数=除く生鮮食品、エネルギー)
2023年度+3.2%(前回+2.5%)、2024年度+1.7%(前回+1.7%)、2025年度+1.8% (前回+1.8%)

物価上昇率について、今年度は大きく見通しを外し、来年度以降は前回同様+2%を超えません。この「今年度大きく外した」ことが今回の政策修正の最大の背景であり、他方で「来年度以降の見通しが+2%以下に維持された」ことがイールドカーブコントロールの枠組みが維持された背景と思います。

長々と書きましたが、今後の物価動向、中でも来年の春闘が全てを握る展開が続きそうです。

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