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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2023/03/13 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.185: 黒田総裁最後の決定会合


今回は、9・10日に開催された日銀金融政策決定会合の紹介です。2期10年にわたり総裁を務めた黒田さん最後の決定会合でした。事前には政策変更も囁かれましたが、実際は無風でした。

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景気基調判断維持
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今回のように展望レポートがない月(3月、6月、9月、12月)とある月(1月、4月、7月、10月)とではスタイルが異なり比較が難しい面はありますが、景気の基調判断は現状・先行きとも維持されました。需要項目別では、輸出が下方修正です。また、個人消費は判断不変ですが、物価上昇の影響を認めた形となりました。

(現状)
・基調:資源高の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している
・個人消費:物価上昇の影響を受けつつも、感染症の影響が和らぐもとで、緩やかに増加している
・設備投資:緩やかに増加している
・住宅投資:弱めの動きとなっている
・公共投資:横ばい圏内の動きとなっている
・輸出:海外経済回復ペースの鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっている

(先行き)
・資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる

(リスク要因)
・海外の経済・物価情勢
・今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向
・内外の感染症の動向やその影響
・金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響

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政策変更無し
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国会で植田新体制の同意人事が承認されたこの日、市場では政策変更を予想する向きもありましたが、不変で終わりました。普通に考えれば、最後の決定会合で変更を行い、新体制での検討の余地を狭めることは考えにくく、変更無しが定石と思います。

変更論の背景には、日銀OBを中心としたイールドカーブコントロールへの批判があったように思います。確かに、短期金利にとどまらず10年物国債金利をコントロールする日銀の政策は異例で、このことが市場機能や財政規律を失わせているとの批判が全く的を射ていない訳でもないと思います。ただ、この政策は2016年9月以降6年半にわたり日銀の政策の根幹をなしてきたもので、簡単に変えられるものではありません。新体制で確り考えるべき話しと思います。

それにしても、日銀総裁という要職を10年間も務めたことは、とてもすごいことです。2013年3月の就任以降、順風満帆だったのは精々2015年秋頃までだったでしょうか。その後、マイナス金利導入が大きな批判を呼び、イールドカーブコントロール導入へと追い込まれていきました。また2%の物価安定目標の未達も続きました。その物価が上昇を始めると、今度は放置責任を問われるようになりました。それでも考え方が殆どぶれなかったことは、驚嘆に値します。

今回の会見では、「何の反省もない」旨の発言もあったようです。これが黒田さんらしさなのでしょう。最近は白川前総裁の発信が目立ち、再び「白か黒か」争われる構図です。しかし、白川前総裁の政策も、黒田総裁とは別な意味で上手くいきませんでした。きっと、白と黒の間の「灰色」部分に、金融政策の真髄が隠されているのでしょう。

植田・氷見野・内田の3名が、5年の間にこの灰色部分を解き明かしていくことを期待しています。今回はこの辺で。

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