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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2023/01/16 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.178: 防衛費の財源問題


今回は防衛費について。

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安保3文書
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JDさんが昨年最後のメルマガで詳しく書かれたので付け加えることは余りありませんが、昨年末に閣議決定された「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3つの文書が「安保3文書」と呼ばれます。国家安全保障戦略が外交・防衛の基本方針を、国家防衛戦略が今後10年間で防衛目標を実現するための方法と手段を、防衛力整備計画が防衛費総額を示します。各種報道では「中国」「反撃能力」「防衛費大幅増加」の3点がとくに注目されていると思います。

20世紀に遡ると、冷戦下で米ソの2大国家が核抑止力を背景に対峙し、米国の傘の下に入ってソ連の攻撃から身を守ることが日本の課題でした。現状は大きく異なります。ロシアの脅威も残りますが、中国と北朝鮮の脅威がより現実的になっています。日本に上陸して攻めることも無いとは言えませんが、ミサイル、サイバー、ドローンによる攻撃が中心になるでしょう。

中国について言えば、日本本土にいきなり攻撃を仕掛けることは考えにくいですが、尖閣は分かりません。また、台湾有事の際に在日米軍基地が攻撃対象になることは、米国シンクタンク等の間で常識になっています。北朝鮮の主な敵は韓国と米国でしょうが、予見不能なリーダーを抱え何が起きるか予断を許さない状況です。

そうした中で日本の安全を守るためには、外交努力も必要ですし、米豪韓英仏や場合によりインドとの連携も必要でしょうし、経済安全保障を重視し資源を確保することも必要です。ただ有事の備えを怠る訳にはいきません。

反撃能力について言えば、私は小林直樹先生に憲法を学んだので他の方より慎重で(苦笑)、先制攻撃や、日本の安全が脅かされない段階での米国への攻撃に対する反撃には抵抗があります。しかし、日本にミサイルが撃ち込まれたりサイバー攻撃が行われる事態で反撃しないことはあり得ないと思います。なお「反撃能力を持つと却って狙われる」との議論も耳にします。ゲーム理論的にそうした可能性を完全に排除することは難しいと思いますが、「反撃能力を持つ方が狙われない」との立論も十二分に成り立つと思います。

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どのような装備が必要か
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私は軍事の専門家ではありませんし、自衛隊の現状を知りません。このため装備に関し発言する資格はありません。ただ、上記の反撃能力を十分に有していないことは自明と思います。また、一連の報道で浮かび上がったことは、自衛隊の現状の装備が老朽化している、あるいは稼働率が高くない点です。一例を挙げると「10機の戦闘機があっても、新品の部品が入手できないため2機分の部品を他に回す結果、8機しか飛べない」ような話しを(裏は取れていませんが)聞くようになりました。そうした意味で、5兆円(GDPの約1%)の防衛費では足りないことは間違いないと思います。

ただ、GDP2%や今後5年間で43兆円という数字が正しいか否か分かりません。分からないという意味は、「大き過ぎる」と決めつけているのではなく、これでもまだ不足するかもしれません。装備の内容を余りにあからさまにすることも防衛上不適切なので、ある程度の機密性は必要と思います。しかし、国会でも機密性を維持した議論の場の設置は不可能ではなく、この面での確りとした議論やシビリアンコントロールは必要と思います。

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財源をどうするか
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さて財源論。

まず、先々10兆円規模になり得る経費に関し安定財源を持たないことはあり得ません。この経費を支えるための財源構成や他の経費の削減を真剣に考えるべきで、それも無しに国債に飛びつくことは不適切と思います。

しかし、国の予算にはどんぶり勘定の面があります。総支出を税収入で賄えない部分は国債に頼らざるを得ません。そして、国債発行がゼロになる事態は少なくとも10年単位では考えられません。この意味では、間接的には防衛費も国債でファイナンスされていることになります。

そのうえで、焦点は「増税が必要か」に当たっています。そして、法人税、復興特別所得税、たばこ税が候補として浮上しています。たばこ税への反対は少なく、復興特別所得税について語ることには勇気が必要ですが、安全保障の恩恵を最も受け内部留保も厚い大企業に対する法人増税は理もあり不可避と思います。

世論調査を見ると、安全保障の強化への賛成は多い一方、増税に反対との典型的な「総論賛成・各論反対」の構図です。「国や自分の命は守ってほしいが、金は払いたくない」とも言えます。この点で思い出すのは消費税を巡る経緯です。社会保障費の安定財源である消費税の税率は、長年かけてゼロから10%に切り上げられてきました。この間、根強い反対論がありましたが、主導してきた自民党が政権与党の座にとどまっていることは、国民が選挙において消費税率引き上げを許容してきたことを意味します。消費税率の引き下げや廃止を主張する野党は全く勝てません。結局のところ、防衛費についても選挙の争点として明確化し、国民の信を問い続ける必要があると思います。

最後に。財源論は「財政の信認」の問題に行き着きます。昨年英国で起きたこと、日銀の小さな政策修正で長期金利が跳ね上がったことなどから、国債依存を戒める議論が再び強まっています。防衛費の増加は大きなものですが、10年間で最大プラス50兆円規模。これ単独で財政の信認に影響が及ぶとは思いませんが、この論点については改めて取り上げたいと思います。

今回はこの辺で。次回は、今週17・18日に開催される注目の日銀金融政策決定会合を取り上げます。サプライズは再びあるでしょうか?!

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