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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2022/12/26 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.176: 日銀政策変更+その他まとめて


20日、日銀は誰も予想していなかった政策変更を行いました。今回はその解説を中心に、日銀短観(14日)、日銀金融政策決定会合(20日)、内閣府月例経済報告(21日)を簡単に紹介します。

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衝撃の政策変更
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誰もが予想しなかった政策変更。市場も円高・株安・長期金利上昇と大きく反応しました。黒田総裁そして日銀は嘘つき呼ばわりされ、その信認は地に落ちた感じです。

日銀の主要な政策手段であるイールドカーブコントロール。短期金利を-0.1%、10年物金利を0%に固定しています。10年物金利については±0.25%の変動を許容してきました。今回、10年物0%自体は維持されましたが、変動幅が±0.5%に拡大されました。日銀は「10年物0%は不変なので利上げではない」と説明しますが、今の金融環境を考えると、上限を+0.25%から+0.5%に引き上げる利上げと受け止める方が自然で、この点で強く非難されています。また「政策は変えない」旨繰り返し主張してきたことも覆され、一段と信頼性を失いました。

個人的には、政策を変えたこと自体は許容範囲と思います。情勢が変われば政策も変わることが自然だからです。他方「利上げではない」との主張は余りに滑稽で、理を重んじる黒田総裁らしくないと思います。

それはそれとしてなぜ変更したのか?三つの理由を考えてみました。ただ、どれも単独では弱い気もします。複合的な事情なのでしょうね。

・0.25%防衛に疲れた。上限0.25%を守るため日銀は大量の国債買い入れを余儀なくされ、「いつか変更される」ことに賭けたヘッジファンド等が売りを続ける構図が長らく続いてきました。世界的に長期金利が上昇する中で、これを続けることの限界を感じたとの説です。間違ってはいないと思いますが、0.5%防衛で同じことが繰り返されると予想されるので、中途半端とも思えます。

・政策委員会のメンバーが変わり、リフレ派が減った。片岡氏の退任で9人のメンバーは「常識派」が大半になりました。そうした中で、「長期金利はもう少し高い方が自然」との意見を言いやすくなったことが考えられます。政策委員会もポリティカルな面があるので、部分的には正しい気もします。

・来春の総裁交代の先取り。来年4月以降(黒田総裁の任期は4月まで。ただし、2人の副総裁の任期に合わせ3月に退任すると予想します)政策変更必至の中で、来春に大きく政策をジャンプさせる前に、ガス抜き的に部分的修正を行ったとの説です。これも無いとは言えませんが、総裁人事も決まらない中、やや気が早い気もします。

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短観:製造業悪化、非製造業改善
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今回の短観のポイントは、原材料価格上昇の影響で製造業はイマイチだがコロナ禍の影響が和らいでいる非製造業はまずまず、価格は引続き上昇傾向、人手不足は一段と強まり設備投資は強い、などでしょうか。

(業況判断)
・業況判断は数字が大きいほど良く、「良い」「悪い」の回答が拮抗するとゼロ、マイナス幅の拡大は業況悪化を表します。以下の仕入価格・販売価格等も同じですが、理論的には-100(「良い」との回答ゼロ)から100(「悪い」との回答ゼロ)の間で数字が動き、0が拮抗点です。
・最も注目される製造業大企業は、前回8 今回7 先行き見通し6と悪化。ただし製造業全体では前回0 今回2 先行き-2です。
・非製造業大企業は、前回14 今回19 先行き11です。コロナ禍の影響を最も受けた宿泊・飲食サービスは前回-28 今回0 先行き-18となり、ついに良い・悪いが拮抗しました。非製造業全体は前回5 今回10 先行き3です。
・全ての企業の業況判断は、前回3 今回6 先行き1です。

(仕入・販売価格)
・仕入価格・販売価格とも上昇ですが、徐々に販売価格の上昇が追い付いてきた感じです。仕入価格・販売価格は、数字が大きいほど「上昇」の回答が多いことを示します。
・大企業、中小企業とも同じ傾向なので中小企業で説明すると、製造業の仕入価格は前回77 今回76 先行き70。販売価格は前回37 今回38 先行き41。非製造業は、仕入価格で前回59 今回60 先行き61、販売価格で前回23 今回26 先行き30です。
・経常利益でみると、大企業は今年度+11.7%の増益を見込みますが、中小企業は-5.1%の減益を見込む対照的な姿です。

(人手不足)
・雇用人員判断(マイナスが大きいほど不足)は全体で前回-28 今回-31 先行き-33と不足感が強まっています。

(設備投資)
・GDPに直接リンクする設備投資(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除くベース)は、全体で2021年度+1.2%の後、2022年度+14.3%の増加が予想されています。

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日銀:景気判断維持
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政策変更はありましたが、景気判断は、設備投資が上方修正されたことを除き基本的に維持されました。

(現状)
・基調:資源高の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している
・個人消費:感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加している
・設備投資:緩やかに増加している
・住宅投資:弱めの動きとなっている
・公共投資:横ばい圏内の動きとなっている
・輸出:供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加している

(先行き)
・資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる

(リスク要因)
・海外の経済・物価情勢
・今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向
・内外の感染症の動向やその影響
・金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響

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内閣府:景気判断維持
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最後に内閣府月例経済報告。中国のコロナ感染に触れられたほかは、殆ど文言が変わらないほど判断は維持されました。

(現状)
・基調:景気は、緩やかに持ち直している
・個人消費:緩やかに持ち直している
・設備投資:持ち直している
・住宅建設:底堅い動きとなっている
・公共投資:底堅く推移しいている
・輸出:おおむね横ばいとなっている

(先行き)
・基調:ウィズコロナの下で、各種政策の効果もあって、景気が持ち直していくことが期待される。ただし、世界的な金融引締め等が続く中、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、供給面での制約、金融資本市場の変動等の影響や中国における感染動向に十分注意する必要がある
・個人消費:ウィズコロナの下で、持ち直していくことが期待される
・設備投資:堅調な企業収益等を背景に、持ち直し傾向が続くことが期待される
・住宅建設:底堅く推移していくと見込まれる
・公共投資:補正予算の効果もあって、底堅く推移していくことが見込まれる
・輸出:当面横ばい圏内で推移することが見込まれる。ただし、海外景気の下振れ等による影響に注意する必要がある

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今年もお世話になりました
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今年はこれで最終号。年明けは1月9日に掲載予定です。今年はロシアのウクライナ侵攻など、本当に予想しないことが起きる1年でした。その意味では、黒田総裁が上手く締め括ってくれたのかもしれません。

皆様、穏やかな年末年始をお迎えください。来年もよろしくお願いします。

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