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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2022/11/07 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.172: 評判が悪い?!総合経済対策


今回は、かなり時間が経ちましたが10月28日に閣議決定された「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」について。

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対策のポイント
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周知のとおりですが、ポイントは以下の通りです。金額は財政支出、事業規模の順です。

・物価高騰・賃上への取組…12.2兆円、37.5兆円
・円安を活かした地域の「稼ぐ力」の回復・強化…4.8兆円、8.9兆円
・「新しい資本主義」の加速…6.7兆円、9.8兆円
・防災・減災、国土強靭化の推進、外交・安全保障環境の変化への対応など、国民の安全・安心の確保…10.6兆円、10.7兆円
・今後への備え…4.7兆円、4.7兆円

総額は財政支出39.0兆円(うち国・地方の歳出37.6兆円、財政投融資1.4兆円)、令和4年度第2次補正予算29.6兆円(一般会計29.1兆円、特別会計0.5兆円)、事業規模71.6兆円です。

政府の試算では、実質GDP押上げ効果4.6%、消費者物価抑制効果1.2%とされます。ただし、民間シンクタンク(たとえばみずほリサーチ&テクノロジーズ)はGDP押上げ効果はもっと小さい(1.2%程度)とします。

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なぜ評判が悪いのか
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本来は経済対策の各項目を解説し効果を吟味すべきですが、今回は対策の「何となくの評判の悪さ」について触れてみようと思います。まず、岸田内閣の支持率は低調で、それを挽回する起死回生の内容でもないので誉めにくい点はあると思います。岸田総理の「聞くだけで決断できない。たまに決断しても間違う」というイメージが、対策について回った感じがします。

そのうえで、今回の対策に限ったことではありませんが、構成が悪い印象が拭えません。過去3年の間に日本を襲った危機は、コロナ禍と円安・物価高です。

コロナ禍の場合、国民生活を守るため、休業を余儀なくされた企業やその雇用への保障措置や、ワクチンの確保・接種が求められます。危機への緊急避難的な対処です。そのうえでより構造的な問題として、医療体制の脆弱性への対応、リモートワーク環境の整備、ウィズコロナ下の経済・社会実現に向けた対応が求められます。前者は急を要し、年度の途中でも必要に応じ繰り返すことが必要かもしれません。他方、後者は構造的な論点であり、腰を据えて判断し実行する必要があります。コロコロ変わるべき内容ではありません。

円安・物価高についても同様です。例えば電力料金やガソリン代高騰に国民が耐えられないのであれば、緊急避難的救済措置が必要です。他方で、そもそも輸入資源に依存する構造が問題であり、自力で賄うことが出来る再生可能エネルギー拡大などの対応が求められます。

日本の課題はコロナ禍や足元の物価高だけではありません。長年にわたり賃金が上がらず、また、中国リスクが高まる中で、経済安全保障上の対応が不可欠になります。人への投資が必要ですし、半導体などの自給も必要です。

まとめると:

(1)コロナ禍等のその場の問題に対する緊急避難的対応
(2)上記の問題に対するより構造的な対応
(3)長年放置されてきた、あるいは今後長きにわたる課題に対する構造的な対応

があり、それらが一緒くたにされているのが今の総合経済対策の構造です。個人的には、対策は(1)に絞り込んだうえで(2)(3)はその政権の経済政策として発足直後に打ち出し、年度予算や法制度に反映させていく方がスッキリする気がしています。

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禁じ手の応酬?
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今回の評判の悪さのもうひとつの論点は、財政規律にまつわる点です。報道によると、対策決定過程で鈴木財務大臣以下財務省が補正予算規模25兆円程度との報告を岸田総理に行い、それを聞いた萩生田政調会長が怒り、結局29兆円台に瞬時に増額されたとされます。この真否や背景は分かりません。ぐっちー言葉で言えばプロレスだったのかもしれません。ただ、英国トラス政権下のポンド危機の記憶が新たな中、日本の財政規律の欠如が懸念される機会が増えてきた印象を受けます。

今回に限らず、巨額な予備費が議論を呼びますし、公共工事の予算を使い切れない状況が続きます。予算の箍が緩み、真面目に決算を見ないと財政の実情が分からないのが現状です。元々日本では予算にだけ目が向き決算は話題にならない悪い癖があり、改善の必要があります。

ひと頃MMT(Modern Monetary Theory)がもてはやされました。財政規律不要論のように受け止められますが、実は「インフレになったら財政支出を圧縮せよ」と主張する点で意外に健全です。英国は10%インフレ下で財源の当て無く大幅減税を打ち出した訳で、MMTからみても非常識でした。そして、実際にマーケットに罰せられ、首相は44日間での退陣に追い込まれました。

日本はついに物価上昇率が+3%を超えてきましたが、欧米の域には達しません。黒田総裁の見通しが正しければ、来年度は+1%台に落ち着きます。また、いくら凋落したと言っても、日本の財務省は財政再建の悲願を忘れていません。このため、GDP対比国債発行残高比率が先進国中最高とは言っても、日本が英国のような状況に追い込まれることは当面ないと思います。

ただ、例えば防衛費拡大の財源論について、法人税増税論が勢いを増しているように思います。また、黒田総裁交代後、仮にイールドカーブコントロールに変更があると、10年物金利が上昇し予算上の国債費が膨らみ始めます。

こうした中で国民生活を守ることが出来るのか?本当に難しい局面に入ります。少なくとも大企業への大幅賃上げと法人税増税圧力が強まる予感がします。実はこれは野党が主張する方向に近いのですが、「経済」「政治」に跨る形で、真面目に議論されていくことを願います。

今回はこの辺で。

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