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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2022/03/14 06:30  | by Konan |  コメント(1)

Vol.145: 物価のこと(その2)


先週に続き物価を取り上げます。以下の読者の方からの質問にお答えします。

・コアやコアコアCPIで生鮮食品やエネルギーが除かれるのはなぜか?
・商品価格と物価の違い
・PCEとCPIの違い

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コア・コアコア?
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消費者物価指数には「コア」「コアコア」と呼ばれる派生形があります。コアは消費者物価指数算出時、生鮮食品の価格を除いて計算した指数。コアコアには2つの流儀があり、ひとつ(米国流)は食料(除く酒類)とエネルギーの価格を除いて計算した指数、もうひとつ(内閣府月例経済報告流)は生鮮食品・エネルギーに加え政策等による特殊要因を除いて計算した指数です。やや厳密さを欠きますが、コアでは生鮮食品が除かれ、コアコアでは更にエネルギーが除かれると理解すればよいと思います。

さて、消費者物価指数の最大のヘビーユーザーは中央銀行です。どの国の中央銀行も物価の安定を目指しますが、その際、国民に最も身近な消費者物価をターゲットにします。中央銀行が目指す物価の安定は「今月だけ達成されれば良い」訳ではなく、「中長期的な安定性・長い目で見たトレンドとしての安定性」が目指されます。このことが、コア・コアコアのニーズを生みます。以下では日銀の「2%の物価安定目標」を例にとります。

例えば今月の消費者物価上昇率が+3%に急上昇したとします。これがトレンドとして確かなら、今の金融政策から脱し引き締め方向への転換を図ることを迫られます。他方、+3%が単に一時的な特殊な要因によるのであれば、拙速に金融政策を変更することなく様子を見ます。この一時的な・特殊な要因を取り除くため開発されたのが、コアとコアコアです。

個人的にはコアを見ることには賛成ですが、コアコア重視にはやや疑問を持っています。生鮮食品の価格は気候の状況で大きく上下に変動します。野菜不足で鍋料理も出来ないと報道されたと思ったら、間もないうちに超豊作で野菜を廃棄する報道を見ることは日常茶飯事で、農家の方のご苦労を察します。逆に言えば、これだけ短期間のうちに上下する品目を除いたコアで物価動向を見ることには合理性があります。

ウクライナ問題に典型的に表れたように、エネルギー価格は地政学情勢で大きく変動します。コロナ後の2年間、マイナスから100ドル超まで大きな変動が続きます。地政学を含め状況が落ち着けばエネルギー価格も安定性を取り戻すはずですが、そうした厄介な品目を除いて物価動向を見ようとするのがコアコアの発想です。一理あります。しかし、第一次石油危機後の世界的インフレが典型的なように、一時的と思えたエネルギー価格の変動が物価観に大きな影響を与えることも現実に起き得ます。最近の言葉で言えばtransitoryと思ったらそうでなかった類の話しです。このため、コアコアを参考情報として見ることは良いですが、重視し過ぎず慎重に見ることも大事と思います。

付言すると、「2%の物価安定目標」の「物価」はコアでもコアコアでもなく消費者物価指数そのものです。中長期的には生鮮食品やエネルギー価格の変動は均されてしまうので、生鮮食品・エネルギー価格を含む指数でみても問題無い(コアやコアコアを目標にする必要は無い)からです。

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商品価格と消費者物価
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これまで消費者物価に焦点を当ててきましたが、価格には様々なレベルがあります。上記の原油価格100ドルなどは「商品市況」のひとつです。原油、天然ガス、金、銅、木材、小麦など様々な商品が先物を含めて取引され、価格が形成されます。投機資金も流入し先読みしながら大きく変動します。

生産者物価指数もあります。これは生産者(企業)が出荷した製品や原材料などの販売価格を表します。原材料が含まれる点で商品市況とも密接に関連します。日本では昔は卸売物価指数と呼ばれ、最近では企業物価指数と呼ばれます。

直近の値は企業物価指数(国内)の前年比は+9.3%、消費者物価指数の前年比は+0.5%とかなりの開きがあります。原材料費は売上の数割なので、企業物価(仕入れ価格)上昇がそのまま消費者物価の上昇に結び付く訳ではありませんが、デフレマインドが定着し消費者の低価格志向が強い日本において、消費者へ売る値段を上げることには「清水の舞台から飛び降りる」に等しい勇気を伴います。逆に言えば、流通・小売り段階の企業が身をすり減らしながら、消費者への売値を抑えている訳です。この傾向が変わらないとすれば、「商品の価格は上がってもインフレにならない」ことになります。バブル崩壊以降、日本はこのパターンを繰り返してきました。これが幸せなことか否かが「新しい資本主義」の中で問われています。

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PCEデフレーターとCPI
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最後に。これまで何度も用いた消費者物価指数の英語はCPI(Consumer Price Index)です。PCEはPersonal Consumption Expenditure(個人消費支出)のことで、米国では物価を見る際にPCEのデフレーターを重視すると言われます。

前回、ラスパイレス指数とパーシェ指数の違いを説明しました。基準年と支出割合が変わらない前提で算出される指数がラスパイレス指数、支出割合を現時点に引き付けて変更したうえで算出される指数がパーシェ指数。ざっくり言えば、CPIはラスパイレス指数、PCEデフレーターはパーシェ指数です。

これ以上の説明能力はありませんが、指数の質(状況を的確に表す度合い)はパーシェ指数であるPCEデフレーターの方が高いと思います。ただ、パーシェ指数の方が作成に手間がかかることは間違いなく、速報性等の点で難しい面があることも否めません。

今回はこの辺で。十分なお答えになっていれば良いのですが。他の読者の方を含め、質問歓迎です。

次回(21日)は日銀金融政策決定会合を紹介します。

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One comment on “Vol.145: 物価のこと(その2)
  1. NK より:
    お礼

    2回に亘っての丁寧な解説をいただき、ありがとうございました!
    コアcpiが中長期的トレンドを見るためとはいえ、家計の相応部分を占める筈の生鮮食品が除かれるのが心理的には気持ち悪いのですが、絶対額ではなく上げ下げを見る観点からはそういうモノなのですね。
    商品価格が上がってもインフレにはならないというのもよくわかりました。価格には色々の定義があるのですね。とはいえ、いよいよ最近は消費者物価に商品価格上昇が反映されつつありますね。企業物価や物価の上昇が輸入原料の上昇に起因するなら、賃金改善には繋がらず、物価上昇で生活は苦しくなるばかりとなりそうです。円安が進んでいますし、なんだか暗澹たる気分になります。
    先日のメルマガに、物価の内訳として財とサービスとがあるとの記載がありました。サービス価格指数というのもあるようなのですが、こちらは企業物価指数と同様に企業間の取引価格で、「サービス」という同じ単語だが別物、それぞれの価格が消費者物価にいかに反映されるか、また、日本では消費者物価を物価として重視していると理解しました。
    毎回楽しみに拝見しています。これからもよろしくお願いします。

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