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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2022/02/14 06:30  | by Konan |  コメント(6)

Vol.142: 新しい資本主義と黒田総裁


新ひとり言第142号、新旧合わせて第367号、そしてメルマガ第1号です!多くの方に申し込み頂きありがとうございました。最近はブログへのコメントも殆ど無く、読まれている実感が持てないまま執筆を続けていました。メルマガが届く読者の存在を認識出来ることは大きな励みになります。創刊号でも書いたように当面は月2、3回の配信にとどまりますが、極力早く週刊にできればと思います。

さて、初メルマガの今回は少し大きなタイトルにしてみました。岸田総理が主導する「新しい資本主義」と、約1年後に退任が迫る日銀の黒田総裁。一見無関係に見えるこの2つの関係について触れてみたいと思います。

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成長か分配か?
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昨年の自民党総裁選や衆議院選挙の頃、「成長か分配か」との議論を良く耳にしました。当初はアベノミクスにやや批判的で分配を重視するように見えた岸田総理も、結局「成長も分配も大事」の線に落ち着き、新しい資本主義実現会議を立ち上げ議論を行っています。

成長も分配も大切なことは論を待ちません。成長が無ければ分配の原資もできないことは分かりやすく、アベノミクスもまさに「成長を通じ企業の収益や資本蓄積を高め、それを労働者や設備投資に回していく」戦術で臨みました。当初上手くいきそうに見えましたが、消費税率引上げのネガティブな影響やコロナ禍に妨げられ、こうした流れが目詰まりしたままなのは、皆さんご認識の通りです。

他方、GDPの最大の需要項目は個人消費です。個人消費の伸び無くして成長はありません。個人消費を支えるのは所得と貯蓄ですが、分配が増えず、消費税や社会保障費の負担がむしろ嵩む中で、日本の個人消費は低空飛行を続けました。コロナ前2019年度の実質GDPは560兆円、うち個人消費は304兆円でした。安倍政権が誕生した2012年度はそれぞれ499兆円、289兆円でしたので、全体の実質GDPは12%ほど伸びましたが(7年間かけて!)、個人消費は約5%にとどまります。

この間に企業収益も低迷していたのであれば、分配が少ないとしてもやむを得ない(=日本の実力はこんなもの)と諦めがつきます。しかし法人企業統計調査によると、全産業の経常利益は2012年度48兆円から2019年度71兆円に伸びています(2017、2018年度は84兆円に達しています)。多くの国民からみて納得がいかないのではないでしょうか?

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合成の誤謬による縮小均衡
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バブル経済崩壊後、日本経済は20年間にわたり苦難の道を歩んできました。しかし、個々の企業や個人の立場からみるととても合理的な行動を続けてきたと思います。ただ、それを合わせると大きな過ちを犯していたという、まさに「合成の誤謬」が起きてきたと思えてなりません。

バブル崩壊に直面した企業は効率化とデレバレッジを迫られます。倒産回避のため不可避かつ正当な選択です。日本では首切りは余り起きませんでしたが、賃金抑制、雇用の非正規化、投資の抑制を続けました。

個人のレベルでは、収入が増えないので節約を余儀なくされます。これが個人消費の停滞を生み、低価格志向に拍車をかけました。企業側はこれに応えるため一段の効率化を進め、結果として付加価値が生まれず分配も増えない構図に陥りました。まさに悪循環です。また、非正規化の問題として、所得・個人消費面にとどまらず、非正規雇用者を真剣に教育・訓練するインセンティブが無い結果、労働者の潜在能力が開花せず労働生産性に悪影響を及ぼしているとの指摘が、経済学者の間で共有されています。

この悪循環が短期間で終息すれば良かったのですが、日本人の真面目さ(一度始めたらやめられない!)、政策対応の遅さに加え、バブル崩壊のインパクトの余りの大きさ、立ち直りかけたと思った矢先のリーマン危機による再度の落ち込み、中国の躍進による競争環境の激化が重なり、悪循環が長期化し一種の均衡状態に陥りました。均衡にはまると居心地が良くなり、抜け出ることが一段と難しくなります。この間加速した少子高齢化・人口減少も相俟って、日本経済はまさに縮小均衡に向かい、その均衡点の上を歩み続けています

イマイチ岸田総理の覚悟が見えないのですが、この均衡点から抜け出すことが出来るか、均衡点にハマったまま経済衰退の道を歩むか、まさに今が最後の岐路かもしれません。

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2%の物価安定目標の意味
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この合成の誤謬状態から抜け出す大きな鍵のひとつが人への投資です。正規雇用化、リカレントを含む企業における訓練・教育の強化、大学ファンドも通じた大学のレベル底上げ、そして賃上げがメニューとなります。

さて、2013年春の登場以降「2%の物価安定目標」を掲げる黒田日銀。最近日本でも物価上昇の気配はありますが、達成の目途が立たないまま黒田総裁の任期が近付いてきました。

日銀にとって不幸だったことは、あるいは日銀の対外発信として失敗だったことは、物価安定目標が「白川派」対「リフレ派」の対立、別の言い方をすれば単に金融面の話しと捉えられてきた点にあると思います。日銀のHPをみても「物価の安定が大切なのは、それがあらゆる経済活動や国民経済の基盤となるからです」と控えめです。

しかし考えてみると、物価を構成する財(物)とサービスの価格のうち、少なくとも後者は賃金に大きく左右されます。2%の物価上昇実現にはサービス価格上昇が不可欠であり、そのためには賃上げが必須です。4%の賃上げ無しでは2%の物価上昇は実現しないとの話しもあります。これはまさに「新しい資本主義」が目指すものと重なります。物価安定目標を新しい資本主義と関係付けて説明する方が、国民にとり身近になります。

黒田総裁は、安倍元総理とではなく、岸田総理との親和性の方が高いということかもしれません。

今回はこの辺で。

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6 comments on “Vol.142: 新しい資本主義と黒田総裁
  1. 那須の山奥の兄ちゃん より:
    おめでとうございます

    メルマガ創刊おめでとうございます

    初回号の内容は1粒で30倍くらい美味しい内容でした。
    特に物価上昇にはサービス価格の上昇が不可欠
    の文言には当たり前のことですが
    いろいろな気づきがありました

    ものすごく勉強になりました
    ありがとうございます

    みなさまも内容は少し難しく感じられるかもしれませんが
    お読みになった方が良いと思います

  2. 楽譜 より:

    メルマガ開始、何よりに存じます。
    内容もさることながら、ぐっちー様との思い出話も興味深く拝見しております。
    今はどのメディアを見ても「政府に迎合」か「極端」の2極です。その点において、KONAN様の内容は中立かつ理論的であり、そこが非常に稀有かと存じます。
    メルマガを楽しみに拝読致します。

  3. Konan より:
    ありがとうございます!

    あたたかいコメントを頂きありがとうございました。励みになります!

  4. oda_susi より:

    伝えて頂く中身に、官僚たちの空気的な「雰囲気や、考え方」的なものも、可能な範囲で是非お願いしたいです。

    ※意外にというか、一般人は全然知らない世界です。多分、片山さつきさんのような方は、多様性の中の一部に過ぎない気がします。テレビで見る宮沢さんも、きっと実務の顔とは違う気がする。役人の世界の空気を、ちょっとだけ世間に橋渡しして欲しいです。

  5. gaisen より:
    いつも拝読しております

    コメントは差し上げておりませんでいたが、いつも拝読させていただいてます。
    なかなかこういった詳しく解説を見かけることがなく、勉強しながら拝読しています。

    今後の益々のご活躍をお祈り申し上げます。

  6. リコパパ より:
    購読即決しました

    第1号拝読致しました。
    こういった目線は新鮮で、興味深く感じられ面白かったので、購読即決しました。
    次号以降も楽しみです。

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