2021/11/08 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.130: 日銀金融システムレポート
今回は少し前、10月21日に公表された日銀金融システムレポートを紹介します。旧ひとり言の頃から公表の都度必ず紹介してきました。中央銀行の立場から主に日本の金融システムの安定性を評価するもので、4月、10月と年2回公表されます。分析内容はかなり高度で「全文」は97頁に及びますが、今回から「全文」「概要」に加え「ハイライト」も公表されるようになり、この6頁さえ読めばエッセンスが分かるようになりました。
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相応の頑健性とリスク
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今回の分析の結論は、以下の2文に集約されます。
「わが国の金融システムは、先行き、感染症の再拡大や米国長期金利上昇に伴う国際金融市場と新興国経済の調整などの状況を想定しても、相応の頑健性を備えている。」
「もっとも、仮に、国際金融市場が大幅かつ急速に調整する場合には、金融機関の経営体力が低下して金融仲介機能の円滑な発揮が妨げられ、実体経済の一段の下押し圧力として作用するリスクがある。」
要は、新型コロナウイルス感染症の再拡大や米国金利上昇(それに伴う新興国経済の調整など)程度であれば日本の金融システムは十分持ち堪えるが、仮にリーマン危機や昨年3月のような国際金融市場の大きな調整があれば安定性が揺らぐ恐れがある、ということになります。
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3つのリスク
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日銀は3つのリスクを点検します。
(1) 信用コストの上昇リスク
新型コロナウイルス感染症の影響で企業に対する融資が貸し倒れるリスクです。88万社もの個社データを活用し、給付金や実質無利子融資等の実行とフェードアウト(返済や利払い)をきめ細かく勘案します。対面型サービス業でのデフォルト率上昇や、感染拡大前から財務基盤が脆弱であった企業への貸出に及ぶリスクが指摘されます。
(2) 有価証券投資関連損益の悪化リスク
日本の金融機関は、内外のクレジット商品や投資信託などへの投資を積極化しています。国内外の市場では、海外投資ファンドが金融仲介活動に占めるプレゼンスが高まっています。このため、海外投資ファンドの売買行動が日本の金融機関の有価証券ポートフォリオの価格変動を増幅する効果(連環性効果)が拡大しています。今回のレポートでは、日本の360の金融機関と約50の投資ファンドの間で有価証券ポートフォリオの重複度を分析しています。そして、連環性が高まってきていること、重複度が高いほど昨年3月の市場急変の影響が大きかったこと、信用金庫=債券ファンド、大手行・地銀=株式ファンドで重複度の高まりが顕著なこと、などが指摘されます。
(3) 外貨資金調達の不安定化リスク
日本の金融機関は、外貨建て貸出や有価証券投資を行う際、外貨資金を調達することが必要です。この調達を安定的に行えれば良いのですが、市場性調達に依存せざるを得ず、市場動向如何で不安定化してしまう(金利が急騰する、必要な額を調達できない)リスクを抱えます。詳細は省略しますが、このリスクの程度や緩和策を分析しています。
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マクロ・ストレステスト
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以上のリスク認識を踏まえ、3つのシナリオに基づく分析を行います。
(1) 業況差拡大シナリオ
感染症が再拡大し、業種間・業種内の業況差の拡大を伴いつつ実体経済が下押しするシナリオです。影響はありますが「全ての業態で、平均的には規制水準を上回る自己資本比率を確保する」と結論付けます。
(2) 新興国調整シナリオ
米国長期金利の上昇を契機に、国際金融市場の調整と新興国を中心とした内外実体経済の成長鈍化が起きるシナリオです。ここでも「全ての業態で、平均的には規制水準を上回る自己資本比率を確保する」と結論付けます。
(3) 金融調整シナリオ
リーマンショック期と同程度の大幅かつ急速な調整が国際金融市場で発生するシナリオです。上記2シナリオより影響が大きく、とくに「国際統一基準行では、CET1比率が資本バッファー比率(銀行により7.0%~8.5%)に抵触する水準まで低下する銀行が相応にある」と結論付けます。
補足すると、銀行や信用金庫は自己資本比率に関し最低基準を満たす必要がありますが、国内にしか拠点の無い先(国内基準行)は日本独自の緩い基準を満たせば済むのに対し、海外にも拠点を持つ国際統一基準行(3メガなど)は、国際的に統一された厳しい基準を満たす必要があります。国際統一基準にもいくつかの段階がありますが、CET1とは「普通株式や内部留保」を指し、その比率が4.5%を超えることが必須です。さらに、この4.5%に上乗せする形で「極力持っている方が望ましい」バッファーが設けられ、日本の銀行では2.5%から4%の間に設定されます。4.5とこのバッファーを加え「バッファー比率7.0%~8.5%」とされている訳です。
最後はややこしくなりましたが、今回はこの辺で。
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