2021/10/04 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.125: Evergrande
先週Saltさん、JDさんがメルマガで取り上げたように、中国の恒大集団の苦境が話題です。そして「リーマン危機の再来か」とも囁かれます。私は中国の専門家ではないので恒大集団の詳細は知りません。今回は「どのような条件が揃えばリーマン危機の再来になるか」に焦点を絞ります。なお、タイトルのEvergrandeは恒大の英語名です。everが恒、grandeが大、かっこいいですね?!
4つ条件があると考えています。
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条件1:大きさ
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恒大の負債は日本円換算で約35兆円と言われ巨額です。これでも中国第2の規模のようです(上には上がいるよう)。負債の自己資本カバー率は約2割と言われます。日本のバブル崩壊時のように不動産価格が7割も下落する事態が生じると、資本でカバーされない損失は20兆円を超える計算になります。
ただ、20兆円であれば中国経済の力なら十分持ち堪えることが可能と思います。しかし、もし恒大の規模がこの何倍もあったとしたら、あるいは後述のように似たような事例が続くとしたら、話しは変わります。要は「大きさ」がひとつの条件になります。
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条件2:不確実さ
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Financial Timesの著名記者であるGillian Tettさんは「拓銀を思い出す」とします。彼女は以前日本で働き、バブル崩壊後の金融危機を目の当たりにしました。
当時の日本は、不動産価格がどこまで下がるか分からないという不確実性と、金融機関のディスクロージャーが不十分・不正確であるという不確実性との、二重の不確実性問題を抱えていました。仮に状況が悪くても、悪さの度合いが特定できれば、周囲は慌てず計算して行動できます。不確実な場合、最悪の事態を想定せざるを得ず、落ち着いた行動はできません。実際、日本でも拓銀や山一が倒れた直後、1997年11月26日に各地で銀行への取付け騒ぎが起きました。
リーマンの時も、証券化商品のロスがどの程度でそれを誰が保有しているのか、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の市場規模はどの程度でそのプロテクションを誰が売っているか、不確実性が極まり市場から流動性が急激に消えました。
恒大の情報も、あるいは中国不動産業界の情報も、余りに不確実性が大きいことは否定できません。
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条件3:類似性
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リーマン危機は「システミック・リスク」の典型的な顕在化事例でした。日本の取付けも同様です。システミックの鍵は「伝播(contagion)」です。Aが狙われたらBもCも狙われる展開です。例えばリーマンが倒れた後、モルスタやメリルも倒産寸前に追い込まれ、何とか救済されました。
このような伝播が起きるのは「似ている」と思われるからです。AもBもCも不動産を担保とした不良債権を大量に抱えているようだ、XもYもZもサブプライムを仕込んだ証券化商品を大量に保有しているようだ、といった場合に伝播が起きやすくなります。
恒大の場合、恒大と似た状況に置かれた不動産企業があれば狙われる可能性があり、今回の件は恒大の経営ミスによる恒大独自の事情と思われれば伝播は起きません。
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条件4:短期債務
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上記で「狙われる」と書きましたが、もし債務が長期であれば急に資金繰りに詰まることを回避できます。逆に短期であれば(あるいは長期であっても中途解約可能であれば)一気に資金繰りが行き詰まります。拓銀もリーマンも短期調達への依存度が高く、持ち堪えることは困難でした。国家レベルでも、1997年に起きたアジア通貨危機では、韓国やタイなど狙われた国は対外的に短期債務に偏った調達を行っていました。
恒大の報道を見る限り短期債務が問題のようには見えませんが、実態はどうでしょうか?
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終わりに
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中国の場合、最後は習近平国家主席がどう考えるかに依存します。「恒大は見せしめで潰すが零細な債権者は保護する」などの手も考えられます。この点も不確実です。
むしろ気になるのは、上記で言えば「類似性」の観点です。中国でも日本を追うように少子高齢化が進みます。そうした中でとくに居住用マンションへの投資は過剰になる(過剰である)リスクを抱えます。要は問題が恒大にとどまらない可能性があります。また、今回を機にこれまで中国経済成長の牽引役のひとつだった不動産投資が縮小すると、中国の成長率を押し下げ、回復基調の世界経済に水を差しかねません。リーマン危機の再来にならないとしても、この実体経済面への影響には注目する必要があります。
因みにTettさんは拓銀との類似性を指摘しますが、日本の金融危機を描いた著作が中国語に翻訳され、当局者に広く読まれているとの話しも聞きます。中国自ら嫌な予感を抱えているのでしょうか?
今回はこの辺で。
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