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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2021/04/26 06:30  | by Konan |  コメント(1)

Vol.102: 日銀金融システムレポート


緊急事態宣言が始まりました。コロナに関しては前回書いたので繰り返しませんが、複雑な気持ちで今回の宣言を迎えています。

さて、今回は20日に公表された日銀の金融システムレポートを紹介します。このレポートについては、旧ひとり言以来、公表の都度必ず紹介してきました。旧の頃は金融庁がこうしたレポートを公表していなかったので、本邦当局の金融システムに対する見方を包括的に知ることが出来る唯一の媒体でした。森長官の頃から金融庁もレポート(名前が変遷していますが、最近では金融行政方針の中に金融システムの評価が盛り込まれています)を出すようになり、双方の見方を知ることが出来ます。公表頻度が異なり、日銀は4月、10月の年2回、金融庁は(時期に幅がありますが)8月末頃・年1回の公表です。

さて、日銀のレポートの紹介はどんどん難しくなってきました。分析手法が高度化を続け、分析の質は世界的にみても最高レベルに達しています。逆に言えば、その詳細に立ち入って説明することが難しくなってます。このため、今回は日銀のメッセージの紹介と、分析の直観的な説明に止めます。

メッセージ自体は比較的簡潔です。

(問題意識)
・ひと言で言えば、新型コロナウイルス感染症が日本の金融システムの安定性に与える影響を、信用リスク(貸倒れリスク)や有価証券投資のリスク(例えば株価が下落しても大丈夫か)の観点から分析しています。「頑健性」という言葉が何度も登場しますが、要は金融システムが不安定化しかつてのような金融危機が再来することがないか、評価を行います。

(現状評価)
・新型コロナウイルス感染症は当然国内外の経済・金融に大きな影響を及ぼしていますが、「わが国の金融システムは、全体として安定性を維持」しています。ホッとする結論です。
・現実には、感染症の影響が大きい企業(飲食店や旅行関係など)の資金繰りに厳しさがみられますが、リーマン危機後に行われた規制強化の結果金融機関の経営体力が総じて充実していること、政府・日銀の各種政策対応が効果を発揮していることから、金融仲介機能は円滑ですし、株価に象徴されるように金融市場のセンチメントも改善しています。

(先行きのリスクと留意点)
・このように、日本の金融システムは相応の頑健性を備えています。
・ただ、仮に国際金融市場が大幅かつ急激に調整する場合には、金融機関の経営体力が低下して金融仲介機能の円滑な発揮が妨げられ、実体経済の一段の下押し圧力として作用するリスクがあります。
・こうした観点で、特に以下に注意が必要です。
1.国内外の景気回復の遅れなどに伴う信用コストの上昇
2.金融市場の大幅な調整に伴う有価証券投資関連損益の悪化
3.ドルを中心とする外貨資金市場のタイト化に伴う外貨調達の不安定化

(さらに言えば)
・感染症の影響はさて置き、日本の金融システムは低金利環境や構造要因(端的には金融機関の数が多過ぎることでしょうか)が収益への下押し圧力として作用し続けると考えられます。このため、金融仲介機能が停滞方向に向うリスク、逆に、利回り追求行動により金融システム面の脆弱性が高まる可能性に引続き留意する必要があります。
・このため、金融機関はリスク管理を確り行うとともに、コロナ後の持続可能な社会の実現に向け、付加価値の高い金融サービスを提供していくことが期待されます。
・日銀は、そうした金融機関の取り組みを積極的に支援していくと宣言しています。

大体こんな感じです。

以上で十分ですが、日銀の分析の一端を紹介します。

(金融活動指標)
・日銀は、かなり以前から「金融活動指標」を作成しています。例えば金融機関の総与信とGDPの比率、株価など14の指標を選び「ヒートマップ」を作成し、かつてのようなバブル生成が再び起こる可能性を予測しています。
・今回この分析を米英仏独に広げ、こうした指標の有効性を検証しています。そして「総与信・GDP比率」などは、銀行危機に対して相応の予測力を有すると結論付けています。
・因みに、この総与信・GDP比率は、現状では景気が落ち込む一方で金融機関の企業支援融資が増加しているため高止まりしています。この高止まりは仕方ないことで、必ずしも銀行危機に直結しません。このため、この指標の予測力は現状やや落ちていると思います。

(国内の信用リスク)
・相当詳細な企業財務データを用い、業種別、規模別など様々な視点から、また政府の支援措置の効果や措置が終了する場合の影響なども織り込みながら、先々の信用リスクを予測しています。
・単純に言えば、(当たり前ですが)政府の支援策の有無でデフォルト率の予測結果は異なり、また、対面サービス業のデフォルト率が2021年度以降上昇することが心配されます。

(有価証券投資を巡る連環性)
・低金利環境の下、日本の金融機関は内外クレジット商品や投資信託などへの投資を積極化しています。
・海外投資ファンドもこうした商品への投資を増加させています。この結果ポートフォリオの重複度の高まっているほか、価格下落時の残高売却率が増加する傾向がみられ、さらに各主体の資産売却が市場価格に与える影響度も高まる傾向がみられます。
・この結果、海外投資ファンドの行動によりわが国金融機関が直面する市場リスクが増幅される度合いが高まっています。

(マクロストレステスト)
・上記の点を踏まえ、2023年度にかけて金融機関の自己資本比率がどう変化するか、ベースライン、感染症再拡大(=上記の信用リスクの増大)、金融調整(=上記の市場リスクの増大)の3つのシナリオに分けて分析しています。
・「相応の頑健性を備えている」が結論です。ただ子細に見ると、金融調整シナリオ下では結構自己資本比率が低下し、とくに現状では自己資本比率が相対的に高い国際統一基準行(メガバンクなど国際的に活動する銀行のことです)の自己資本比率低下が、国内基準行(多くの地銀・第2地銀)や信用金庫に比べ目立ちます。

今回はこの辺で。

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One comment on “Vol.102: 日銀金融システムレポート
  1. 健太 より
    世間

    黒田総裁が2パーセントのインフレといって、いろいろしたがいまだ実現していない。元の考えが間違いと思うのが普通で、そのような結果が出ているからいくら日銀が分析しても間違いと思うのが素人ではないか?

     なんでも数学で5次以上の代数方程式の代数的解はありえないという不存在の証明がなされた。19世紀前半だという。
     それとは異なるが2パーセントのインフレという政策はこの世には不存在ではないか?もしなかったら無駄なことをしたことになるが、数学と違って証明ができない。しいて言うなら5年もしておきなかったら、それはないとみることではないか?それが社会経済的な証明の担保ではないか。別の世界を考えよということではないか?

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