2021/03/22 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.98: 日銀点検顛末
前回の「隠居」発言に関し励ましのお言葉を頂き感謝しています。脇役に徹しつつも書きつなごうと思います。そのうえで、来週29日は諸般の事情で休載します。次回4月5日となります。よろしくお願いします。
さて、何かと話題を集めた日銀金融政策の点検が18、19日に開催された金融政策決定会合で行われました。今まで端折ってきましたが、金融政策決定会合はコロナ下における緊急会合のような場合を除き、2日間にわたり開催されます。初日午後に事務方から諸般の説明があり、2日目午前に議論が行われ、大体昼過ぎに決定が行われます。前回書いたブラックアウト期間は今回で言えば18日が起点で、16日以降日銀関係者はマスコミと会っていないはずです。Saltさんご指摘のように、今回はそれにも拘わらず結構情報が漏れた印象を受けます。金融政策決定会合には政府(財務省と内閣府)からも出席するのでそちらから漏れる可能性も無いではありませんが、何だか杜撰でしたね。
点検の内容は意外に複雑でした。スッと頭に入らず、私も少し思い悩みました。点検結果と政策面での対応は以下の通りです。
1.点検結果
いろいろ書かれていますが、ポイントは以下の通りです。
(1)「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向
・良好な経済情勢が続いた。その中で、日本経済の中長期的な課題についても、前向きな動きが進んだ。引続き「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続していくことが適当。
(2)「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の政策効果
・金利低下を通じて、経済・物価の押し上げ効果を発揮している。
・政策効果は、資金調達コストの低下や良好な金融資本市場などを通じて、波及している。
・金利低下の経済・物価への影響は、短中期ゾーンの効果が相対的に大きい。
・超長期金利の過度な低下は、将来における広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある。
(3)国債市場の機能度や金融仲介機能への影響
・柔軟な(ある程度の金利変動を許容する)イールドカーブ・コントロールの運営は、国債市場の機能度を維持する点で効果があった。
・金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介機能が停滞方向に向うリスクがある。一方、こうした環境のもとでは、利回り追求行動などに起因して、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もある。
(4)ETFおよびJ-REIT買入れの効果
・リスク・プレミアムに働きかけることを通じて、市場の不安定な動きを抑制している。
・市場が大きく不安定化した場合に、大規模な買入れを行うことが効果的である。
(5)オーバーシュート型コミットメント
・この戦略をとることは、金融政策運営として適切であることが改めて確認された。引き続き、オーバーシュート型コミットメントを継続していく。
全体として「自画自賛」ですが、金融仲介機能の停滞、平たく言えば金融機関の経営問題に注意が必要とのトーンと思います。
2.政策面での対応
ここもいろいろ書かれています。
・市場の関心が最も高かったETF買入れに関し、これまでは「保有残高が年間6兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う」ことを原則としつつ、コロナ禍対応で、当面の間は年間12兆円を上限としてきました。今回、この「6兆円の原則」を止める一方12兆円の上限を恒久化し、「必要に応じて買入れを行う」と変更しました。要は、「何がなんでも6兆円買う」ことはしない、すなわち相場上昇局面でも買い続けることはやめる一方、「万一下落局面になったら12兆円上限にいくらでも買うことが出来る」とメリハリをつけた訳です。なお、今後TOPIX連動型に買入れの対象が絞られることになりました。メリハリについてはJ-REITについても同様となります。
・次に市場の関心が高かった金利操作については、2つのことが決定されました。
(1)長期金利の柔軟な変動を許容する幅が、これまでのプラスマイナス0.2%程度(「0.1%の倍程度」という曖昧な言い方でした)からプラスマイナス0.25%程度に拡大・明確化されました。そのうえで、金利が大幅に上昇するケースに備え、それを抑え込むため日銀が長期金利水準を特定して行う「指値オペ」を連続して行う強力な措置(連続指値オペ制度)を用意しておくことにしました。
(2)もうひとつが、今回最も難解な貸出促進付利制度の創設です。これを簡潔に説明することはほぼ不可能ですが、問題意識は、マイナス金利政策の実施や強化を行っても金融機関が貸し渋らないよう、金融機関へのインセンティブ(補助金)を増やすという話です。現在の政策金利水準はマイナス0.1%ですが、場合分けに応じ0.2%(マイナス金利を補って余りある)、0.1%(マイナス金利が打ち消される)のインセンティブが付与されます。マイナス金利が深掘りされる場合、インセンティブが強化されることも予め明示されました。
・なお、おまけのような話しですが、これまで金融政策決定会合の蚊帳の外だった金融機構局という部署(金融機関経営のチェックや金融システム安定の評価を行う部署)が、晴れて金融政策決定会合で説明を許されることになりました。日銀が金融機関経営に気を配っていることを示すアリバイ作りのようなものでしょうか。
以上です。あまり上手く説明できず申し訳ありません。
黒田総裁の任期もあと2年間。今回の点検が何か大きなステップを踏む最後になる気がします。2%の物価上昇目標を実現できないままま8年間が経過し、しかし金融政策の枠組みを大きく変えることもできない、袋小路のような状況が続きます。日銀に関する次の話題は、次期総裁選びになるのでしょうか。
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