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The Gucci Post [国際政治・経済・金融 × プロフェッショナル]

2021/02/08 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.92: 遅ればせながらIMFのレポート


今回はグリーン成長戦略の続きの予定で、原稿も用意していました。そうした中、先月出されたIMFのレポートを紹介し忘れていたことに気付きました。今更感満載ですが、世界経済見通しの改定見通しと、国際金融安定性報告書の改定報告書を簡単に説明します。

世界経済見通し(World Economic Outlook: WEO)と国際金融安定性報告書(Global Financial Stability Report: GFSR)はIMFの旗艦報告書で、IMF総会と春季会合が開かれる10月と4月に大きなものが公表されます。その合間をつなぐ形で、大体毎年1月頃と7月頃に中間報告的なものが公表されます。今回紹介するのはこの中間報告的なものです。WEOは実体経済に着目し、世界経済の現状・見通し・政策課題を説明します。GFSRは金融システムに着目し、市場・資本フロー・銀行システムなどの安定性に焦点を当てます。

WEOでは、経済見通しが上方修正されました。世界的にコロナ禍が再拡大する中での上方修正には違和感があるかもしれませんが、今回の見通しでは、世界全体のGDPは2020年-3.5%、2021年+5.5%、2022年+4.2%とされ、2020年の実績推定は前回10月時点の見込みから+0.9%も上方修正され、2021年も+0.3%上方修正されています。2022年は不変です。とくに米国の上方修正が顕著で、2021年に関し+5.1%成長が予想され、昨年10月対比+2.0%も上方修正されています。因みに日本も2021年は+3.1%成長と昨年10月対比+0.8%上方修正です。中国は元々強気の見通しだったため僅かながら(-0.1%)下方修正され、2021年は+8.1%成長が予測されています。冴えないのはユーロ圏で、前回対比-1.0%も下方修正され2021年+4.2%成長が予測されています。

2020年の上方修正は、昨年第3四半期に世界的に感染状況が一時的に緩んだ際に予想を上回る成長を実現したことが背景です。日本のGoToを上回る盛り上がりを各国が経験していた訳です。最近の感染拡大により2021年初頭には勢いが鈍化していますが、IMFではワクチンと治療法の普及につれ、とくに2021年後半以降成長に勢いが出ると予想しています。そして「ワクチンの利用可能性が高まり、治療法が改善され、検査・追跡が行われれば、どの場所においても2022年末までには域内でのウイルス感染を低水準に抑えられる」との期待を示しています。そしてこの期待がベースラインシナリオの前提となっています。

更に、米国、日本、EUでは追加的な財政支援策による景気浮揚も期待されます(EUはこうであっても下方修正された訳です)。ただ、それ以外の多くの国では、2021年は財政赤字縮小(GDPにとってはマイナス効果)が見込まれています。このことや、原油価格低迷が続くこと、国際的な旅行の正常化に時間がかかることなど、国や地域により2021年も苦しい状況が見込まれる場合もあります。

見通しには上振れ・下振れ双方のリスクがあります。上振れは感染の一段と早期の収束ケースで、2021年にはベースライン対比+0.75%、2022年には約1%もの上振れが見込まれます。下振れはワクチンの普及遅延やワクチンが変異種に効かないケースで、この場合は2021年にベースラインを-0.75%下回ります。

政策面ではいろいろ書かれていますが、グリーン投資強化、ワクチンへのアクセスに対する国際協調が主なものでしょうか。

GFSRは、一言で言えば「投資家が恒常的な救済策の維持を前提として行動し、資産価格が上昇を続ける中で市場の危機感の緩みが蔓延している現状があり、市場の調整が起こるリスクにも当局は備えるべきである」とのメッセージが最大のポイントです。

このメッセージは完全な狼少年です。こうした当局の警戒を無視する形で、時折乱高下を繰り返しつつも、株価を始めとする資産価格は順調な上昇を続けてきました。怖さを感じない人は流石に余りいないと思いますが、怖がった人は損をしてきたのが昨年央以降の相場展開です。結局のところ、FEDを始めとする世界中の中央銀行が市場に優しい政策を取り続ける限り市場は下支えされます。ただ、中銀が未来永劫この政策を転換しない保証もありません。コロナ禍が収束し景気が回復しインフレ率が戻り始めれば、ここまで優しい政策は継続不要なはずだからです。しかし、もしそこで市場が崩れ大混乱が起きれば、また中銀は手を差し伸べてくれるのでしょう。中銀が「その時は見捨てるよ」と腹を括らない限り、資産価格上昇に賭ける方が分があります。こうした一種のゲームの中で、IMFの仕事として警鐘を鳴らし続けるしかないのだと思います。

その他報告書で大事な点は、新興国やフロンティア市場国の脆弱性への指摘と、現状では安定している銀行システムに関し「低金利の下で収益性の低下から銀行が融資を継続・拡大する能力や意欲が将来的に低下する恐れがある」と指摘している点でしょうか。

簡単ですが以上です。これまでIMFが見通しを上方修正する時に限り実態が悪くなることが良くありました。良くも悪くもIMFは保守的なので、漸く上方修正する頃に実体が先に動いてしまっている場合があるということかもしれません。今回は当たってくれると良いのですが。

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