2021/01/18 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.89: 今年のこと(3)経済
今年の展望の3回目。「経済」を取り上げます。米国に関してはSaltさんにお任せなので、日本中心に最後に広めのテーマに触れます。
経済と言いながらも、結局コロナ禍やオリンピック・パラリンピックと切り離すことは難しく、前々回、前回の繰り返しになってしまう面があります。そのうえで、昨年の日本経済を振り返ると、昨年の今頃は下記が主要なテーマでした。
「2019年10月の消費税率引上げの影響から落ち込んだ経済が、オリンピック・パラリンピックを契機に立ち直ることが想定されるが、その後はオリンピック・パラリンピック需要の反動もあり、再び冴えない状況に陥る可能性がある。この再度の落ち込みを防ぐことが出来るか?」
コロナ禍により想定は悪い方向に外れました。3四半期マイナス成長を続け、その後10月から11月にかけて、輸出の回復やGoToに支えられた個人消費の復調もあり少し良い方向に向かいましたが、第3波の影響で再び不確実性が増しています。また、四半期ごとの対前期比でプラスになったと言っても、前年比はマイナスのままです。多くの予測では、今年は流石にマイナス成長を脱するが、2021年の経済活動の水準(=GDP)は2019年水準に戻らず、コロナ禍前への復調は2022年を待つしかないとされています。私もこの予測に違和感ありません。緊急事態宣言も加わり、既に下振れリスクが顕在化しているとも言えます。
あえて上振れ要因を探すとすれば、結局のところワクチンとオリンピック・パラリンピック開催です。曲がりなりにもオリンピック・パラリンピックを開催でき、かつ年後半にかけてワクチン接種が普通に行えるようになれば、「自信」が戻ってきます。そして個人消費の回復が期待でき、年末にかけて尻上がりの展開となります。こうなって欲しいのですが、良くて五分五分でしょうか。また、仮にこうした展開になったとしても、2019年まで経済を支えたインバウンド消費(GDP統計上は個人消費でなく輸出に計上されます)が年内に戻ることは難しいと思います。その意味で、上振れシナリオであったとしても、水準が2019年に戻るは2022年でしょう。
株価はこうした実体経済と離れた動きです。過剰なまでの金余り、日銀始め各国中央銀行の極めて寛容な政策サポート、そしてワクチン期待が背景です。株価の予測は難しいですが、注意するとすれば、現時点でワクチン期待をかなり織り込んでしまったとすれば、今後の上げ余地はさほど大きくないかもしれないこと、論理的にはコロナ禍が収束すれば政策サポートも終了するはずで、それは市場にネガティブに働く可能性があること、などでしょうか。
政策面では、日銀は3月に「点検」を行います。2%の物価上昇目標や長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みを変えない範囲で、政策の持続性や実効性を高める余地を探るとされており、この点については3月に改めて取り上げようと思います。
日銀は何年もの間物価上昇目標を達成できない「狼少年」状態になり、政策は完全に行き詰っています。目標や枠組みに加え、マイナス金利やETF買入れなどそのパーツに対しても批判が寄せられます。ただ、潜在成長率が+1%を下回り、期待インフレ率も+2%に全く届かない長期停滞経済において、かつコロナ禍で景気が一段と落ち込む中で、日銀が緩和的でない政策を選ぶことはあり得ず、多かれ少なかれ現状と似た政策を取らざるを得ないことは否定できません。この点では日銀に同情しており、また「点検」もマイナーチェンジに止まると予想しています。
財政も行き詰っています。長期金利や円相場をみても、財政の信認が揺らぐ兆候はありません。現在の超低金利下では、国債残高が増えても利払い費は増えず、財政悪化度合いを抑えています。この構図が維持される限りは大丈夫ということになります。
そうは言っても、最近の財政政策には「未来」を感じません。少子高齢化・人口減少が進むことは不可避で、そのことを皆が知っています。10年後、20年後、30年度に我々の暮らしはどうなっているのか、社会制度はどう維持・変更されているのか、各種インフラはどの程度劣化・改善しているのか、全く見えません。別の言い方をすると、「最低限の生活は保障されるのか(ベーシックインカム的視点)」「年金や医療制度は維持可能なのか」「道路、交通、電気、水道、通信などのインフラは維持可能なのか」などの点について、財政が発散し信認を失わない範囲で実現できるのか、実現できないとすれば何を捨て何を耐えるべきか、もっと見えて然るべきなのではないでしょうか。透明性と具体性を持った政策議論に期待します。
最後に世界に目を転じると、日本と同様金融・財政政策を巡る論点に加えて、米中対立も絡みつつ、「技術」「貿易」「貧富の差」「ワクチン」「債務」「租税」などが引続き論点になると思いますが、1年延期のうえ11月に英国で開催されるCOP26に早くも注目が集まっています。昨年このコーナーでも取り上げた気候変動問題です。
コーナーで取り上げた後、中国や日本もカーボンニュートラル達成目標を掲げました(大分遅れますが、昨年12月25日に経産省中心にまとめられたグリーン成長戦略を近々紹介したいと思います)。また、バイデン政権誕生で米国の政策も大きく変わります。
この問題について、読者の方の関心は高い一方、賛否が大きく分かれる論点と感じました。本件は明らかに欧州主導で物事が進み、欧州の言いなりになる面が拭えないことが、「否」の背景と思います。例えばトヨタの豊田社長は、ハイブリッド車がグリーンと扱われない可能性があること、軽自動車の価格が上昇してしまうこと、電気自動車の普及に伴い日本の機械部品産業が衰退してしまうことなどに強い警鐘を鳴らします。
私も欧州の言いなりになることに釈然としません。しかし、日本が有効な発信を行えなければ、包囲網が狭まり、結果的に言いなりになる以外の選択肢が残らないことを危惧します。欧州でハイブリッド車すら売れなくなることは不可避としても、他地域で売れる環境を確保できるか、日本経済の生死を決します。日本の諸官庁の中では機動力と先見性を持つと言われる経産官僚の真価と、日本企業の底力が試される一年になるのでしょうか。
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