2020/09/28 06:30 | by Konan | コメント(1)
Vol.73: 政権交代と中央銀行(その3)
ぐっちー一回忌が過ぎました。改めてご冥福をお祈りします。未だに信じられない気持ちでいます。
さて、今回は政権交代と中央銀行シリーズ最終回、実践編・菅内閣の巻です。既に様々な情報があるので、その紹介を中心に書き進めます。
菅総理が総理・総裁の最有力候補になった頃から、マスコミ等のインタビューで黒田日銀の評価を質された菅総理は、「黒田総裁は良くやっている」と、その政策を全面的に支持しました。そして、「日銀の政策の影響で、地域金融機関の経営基盤が弱まっているのでは」との更問いに対し、黒田総裁を擁護しつつ「むしろ地域金融機関の数が多すぎるのが問題。再編が必要」と答え、地域金融機関や金融庁の幹部が慌てる格好になりました。このように菅総理のスタンスは明確です。因みに、各種報道で菅総理のブレインの一人に竹中平蔵元大臣の名前が挙げられています。竹中プランを打ち出した竹中さんの影響を受けているとすれば、この菅総理の答えは極めて自然です。
また、黒田総裁の方も、17日の記者会見で安倍内閣の感想や菅内閣への対応を聞かれました。記者会見の模様のURLを掲げておきますが、一言で言えば、「アベノミクスの下で一心同体に動いてきた。今後もそうする」との内容で、2%の物価上昇目標達成に向け引続き努力する姿勢を鮮明にしました。
更には「安倍総理と一緒に身を引くのでは?」とのストレートな問いかけに対し、「私の任期は後2年半くらい残っていると思いますが、何か途中で辞めるようなつもりはありません」と明確に回答しました。
記者会見では、楽譜さんの質問にもあったETF買い入れに関しても結構な質問が寄せられました。これに対する答えも明確です。ETFに関しては、日銀財務の健全性との関係のほか、コーポレートガバナンスとの関係で中央銀行の保有比率が高まるのはよろしくないとの批判、あるいは株価形成を歪めているとの批判がよくあります。これに対し、
・市場にあるETFの相当部分を日本銀行が保有しているというのは事実ですが、東京証券取引所の株式時価総額からみれば6%くらいかと思います。従って、日本の株式市場を歪めるということにはなっていないと思います。
・ETFについては、組成している資産運用会社が、コーポレートガバナンスコードその他も踏まえて、適切に株主権を行使しています。ETFがこのぐらいあることによって、ガバナンスが低下するなどの問題になっているとは全く思いません。
と明確に言い切りました。なお、現在新型コロナウイルス感染症対策でETF買い入れ額が一時的に増えています。感染症が収束すれば、増加分を削り元のペースに戻すことになると思いますが、それ以上はしないとの意思表示です。
では2%の物価目標が達成されたらどうなるか?とても達成しそうもないので無駄な質問かもしれません。ただ、論理的には買い入れ額を減じ、そしてその後新規買い入れを停止することになると思います。ただ、売却まで踏み込むには勇気が必要です。仮に残高減らしに取り掛かるとしても、(自社株買いやTOBに応じるケースなどは別にして)かなり長期にわたり徐々にということにならざるを得ないと思います。因みに、SaltさんがTwitterで紹介されたように、日銀は最近ETF貸付け取引を始めました。ETF購入を続けるにしても、市場流動性の維持には配慮する姿勢を示した訳です。逆説的に言えば、そこまで配慮しているから、買い続けても構わないだろう!ということかもしれません。
ということで、菅内閣と日銀の関係はとりあえず明確です。そのうえで、最後に下世話な話しと大きな話しを書き、このシリーズを終えたいと思います。
下世話な話しは人事です。菅総理は来年9月に自民党総裁選に臨みます。再選の可能性が極めて高いと思いますが、そうでない確率がゼロとは言い切れません。また、再選された場合も、2023年春に黒田総裁の任期が訪れます。2期務め高齢の黒田総裁の再々任はあり得ず、必ず人事が行われます。財務省出身者が10年続き、民間に有力者不在の中、次期総裁が日銀出身者となる可能性は相応にあります。その場合、巷の噂では3人の副総裁経験者(山口(元)、中曽(前)、雨宮(現))が候補と言われます。そして、今回の自民党総裁選の3人の候補者との関係では、菅-中曽、岸田-雨宮、石破-山口と言われることもあるようです。2年半も先の話しですが、政権交代と中央銀行の関係は、最後はこうした生臭い話しに収斂する訳です(苦笑)。
大きな話しは2%の物価上昇目標です。前回の最後に書いたことを言い換えれば、今の政策は2%の達成がほぼ無理であることを内々分かりつつも、欧米が2%を目指す中で2%の看板を下ろすことが出来ない、前にも後ろにも進めない状況です。政権交代があり、あるいは総裁が代わっても、この構図が変わる訳ではありません。政策の細かい内容(イールドカーブをコントロールするか、ETFを買うかなど)は変わり得ても、「2%を目指し頑張る」という枠組みの変更は難しいことになります。
この「無理なのに頑張る」ということについて、変に感じる読者も少なくないと思います。ただ、事の本質は今回のFEDの政策変更も同じです。2%達成が容易でないのに「平均的に2%」などと言い切りゼロ金利を長期に続ける姿は、実は日銀とさほど変わりません。結局のところ「問題さえ起きなければ、こうしたやり方で騙し騙し進むしかない」という割り切りと思います。「問題」は2つあり得ます。ひとつは、突如2%を突き抜けるインフレが起きること。もうひとつはバブルが起き、それが崩壊して金融システムが壊れることです。前者について、中央銀行は過去のハイパーインフレーション退治の経験を持っています。後者について、リーマン危機の経験を持っています。なので大丈夫と考えるか否か?そして、そのことを決めるのは中央銀行か政府(そして国民)か?
この問いに関し答える自信は今のところありません。このため、今回のシリーズはこの問いの投げ掛けで終えます。ただ、この問題が「技術革新や人口動態と生産性の関係」、「グローバリズムに代表される効率性と平等の関係」、「気候変動問題に代表されるマクロ制約と成長の関係」と並ぶ、世界経済を巡る大テーマのひとつであることは間違いありません。
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One comment on “Vol.73: 政権交代と中央銀行(その3)”
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>東京証券取引所の株式時価総額からみれば6%くらいかと思います。従って、日本の株式市場を歪めるということにはなっていない
さて,日経平均株価連動型ETFの1日の売買総額が3000億だとして,1200億の買いだけ行えば「どうなるか」,流通量を6%減らして一切売らなければ「どうなるか」,誰かが質問してても良さそうなものですが….
全くの金融音痴の観点から愚推いたしますと,これは資本主義に対する日本の挑戦なのかも知れません.国が一部の企業の時価総額を引き上げるのも構わない,買うのみで売る見通しの無い資産を買い込むのも問題ない.
国が株価を操作する方法として,最も効率の良い方法を選んでいる.正しいか正しくないかという議論は別問題.
ところで物価,上がる筈ないです.実質賃金が下がっているという事は,寧ろ物価は今より安くならなければおかしい.経済政策や金融政策の方々は,まだトリクルダウンを信じているのでしょうか.この8年間,平均年収において,averageは30万近く増えましたがmedianは10万しか増えてません.一部の「うまくいった」人だけ美味しい思いをして,残りは辛酸をなめているという構図です(これはある意味健全にアメリカ化しているのですが…).
その方針の際たる例は円安政策(例えば原料を買う下請けは損をし,製品を売る本社は得をする)だと思うのですが….いずれ機会が御座いましたら,なぜ日本が円安政策を進めるのか(これも生前ぐっちー様が最も罵倒されていたことです),御教授頂けましたら大変幸甚に存じます.