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The Gucci Post [国際政治・経済・金融 × プロフェッショナル]

2020/08/03 06:30  | by Konan |  コメント(4)

Vol.66: 気候変動問題(6、最終回)


8月になりました。前回書いたように、今月は元来の月2回ペースに戻り少しゆっくりする積もりです。ただ、過去を振り返ると8月に事件が起きることも多く、その場合は執筆を増やします。

今回は気候変動問題の最終回。「食」の問題を取り上げます。気候変動問題にはいくつかの難しさがあります。ひとつは、トランプ大統領も言うように「根拠があるのか」、あるいは根拠があったとしても「火山の大噴火ひとつで事態は変わるのでは」といった、その実現可能性への疑問です。復習的に言えば、気候変動派の主張は「このまま温室効果ガスが増え続けると地球の温度が上昇し、産業革命前対比+2度を超える。そうなるととてもまずいことが起きる」というものです。しかし、本当に+2度を超えるか、それを超えたらまずいことが起きるか、実証は容易でありません。唯一言えることは、世界の研究者の間でこの説が正しい可能性を支持する人が増え、多数派を形成していることです。また、これまで説明したとおり、この説が正しいことを前提に欧州中心に政治的な行動が強まっています。

似て非なる難しさは、ここ数年世界各地で起きている異常な気象(日本で言えば先月の豪雨など)を気候変動問題と結び付けることの是非です。推進派にとっては格好の宣伝材料になります。米国西部の山火事やハリケーンの原因を気候変動と信じさせることが出来れば、米国内の推進派にとり大きな前進です。しかし冷静に考えると、単年の動きを気候変動に結び付ける科学的根拠は強くないように思います。「太平洋高気圧の張り出しが今年は弱い」ことと気温上昇の因果関係がどの程度あるか?ただ、気候変動の考え方は「気温上昇により気象のボラティリティが高まる」というものです。毎年豪雨が起きるというより、豪雨の激しさが高まる、毎年熱波が訪れるというより、熱波が来ると気温が尋常でなくなる、との考え方です。この点は素人の私も何となく「そうかもしれない」と思います。

前置きが長くなりました。気候変動問題、そしてより広義の環境問題の最大の難しさは、先進国と新興国・途上国・低開発国の格差です。エネルギーについて言えば、「石炭は環境に悪いので使うな」となると、新興国・途上国・低開発国の経済成長が止まりかねません。このため、パリ協定は奇跡的に合意にされたものの、昨年のCOP25は大した合意なく閉会しました(因みに今年予定されたCOP26は新型コロナのため来年に延期されました)。エネルギーだけ取れば、再生可能エネルギーのコストが劇的に低下し、石炭との価格差が急速に縮小しています。こうした技術革新による突破口がみつかるかもしれません。

これ以上に深刻な問題が「食」です。恐らく皆さんは農業は環境に良いとのイメージを持たれると思います。ところが欧州ではこの正反対の議論が進んでいます。欧州の統計を見ると、温室効果ガス排出源の1割は農業です。農業は気候にやさしいどころか害を齎します。さらに気候変動に止まらずより広く見ると、農薬や化学肥料による生物多様性の破壊も大問題になりつつあります。農業で温室効果ガスを排出するのは「畜産」です。要は牛や豚の呼吸等です。とても単純化して言えば、気候変動派・環境派は「肉を食べるな」と主張することになります。同時に「有機を進めろ」となります。欧州委員会は先日Farm to Forkという政策案を公表しましたが、煎じ詰めればこのような主張がなされています。

なお、やや脱線すると、新型コロナ前、小泉環境大臣がニューヨークで「sexy」発言を行い物議を醸した際、彼が息抜きに有名なステーキ屋に行ったことも話題になりました。上記の点からみて、環境大臣がステーキを食べに行くことは非常識な行動です。

しかし、こんなことを肉食に憧れて成長を目指してきた人たちに言えるのか?また、食物連鎖の最上位にある肉食を減らせば、同じ量の穀物や大豆等の生産により支えることが可能な人の数も増えます。しかし、有機では生産性が低減するので、食料不足問題を加速する恐れもあります。石炭か再生可能エネルギーかという問題を超えた難問と言えるかもしれません。別の言い方をすれば、「欧州のそんな綺麗ごとには付き合いきれない」として、世界的合意のモメンタムが瓦解するかもしれません。国連の持続可能な開発目標の中の「飢餓をゼロに」と「気候変動に具体的な対策を」が相反し得ると言うこともできます。

そのうえで、いくつかの可能性が模索されています。

・食の無駄を無くす・・・食料の多くは輸送・保管の過程で廃棄されます(とくにインドでこの問題が深刻です)。先進国でのフード・ロス(食べ残し)も問題です。こうした点を改善できれば、同じ食料生産で支えることが可能な人数が増加します。

・生産性を上げる・・・品種改良、生産技術の改善により、単位面積当たりの収量を増加させ安定させることは十分可能です。ただ、これを「有機」で実現する壁は高く、この点では当面ある程度の妥協もやむを得ないかもしれません。

・海洋を活かす・・・乱獲を防ぎつつ、魚を育てる(養殖を含め)ことも大事です。この観点では、マイクロプラスチック問題への対応も重要です。

・肉食からのシフトを図る・・・肉食をゼロにすることは現実的でありません。ただ、大豆等を用いた代替肉の開発が進み始め、一部で受け入られ始めたことも事実です。実は日本人の食文化(別の意味でインド人もそうでしょうか)を考えると、日本では進めやすいことかもしれません。

・補助金政策の転換・・・日本に限らず世界的に農業は保護され、多くの補助金がつぎ込まれます。補助金の行き先を気候や環境に良い農業に振り向け、農家のインセンティブ構造を変えることも議論されています。

・食品の「起源」表示の充実・・・消費者が例えば牛肉100グラムが何を意味するか(どの程度二酸化炭素が排出され、どの程度飼料を食べてきたか)分かるような仕組み作りも欧州では議論され始めています。

・林業の活性化・・・森林が環境に良い影響を与えることは間違いなく、如何に森林を守りそして育てるか、問われています。ブラジルに世界の環境派の注目が集まるのもこのためです。

・気候変動の抑制・・・循環論法的ですが、気候変動は農業や水産業に悪影響を齎し得ます。気候変動の抑制が、農漁業の生産を安定させる効果を持ち得ます。

読まれて違和感(嫌悪感)を持たれた方もいるかもしれません。私も数年前はそうでした。とても非現実的で馬鹿げた議論に思えました。ただ、欧州から(そしてバイデンが勝てば米国からも)こうした変化が実際に起き始めています。読者の中で投資をされている方に、好き嫌いを超えこの現実を認識頂けると幸いです。こうした分野で成功を収める企業の業績が上がり、無頓着な企業の業績が下がることも現に起きつつあります。ぐっちーがこの問題に関心を持ち、Gucci Post上で何度も警鐘を鳴らしたのも、こうした理由からと思います。

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4 comments on “Vol.66: 気候変動問題(6、最終回)
  1. rimzap より:
    環境問題

    有料化になる前からのグッチーブログファンです。環境問題に関するグッチーさんのスタンスには従前から疑問を持っていました。環境問題は、衰退する欧州が、他の地域の発展を阻害するための戦略であり、それが賛同を得られれば、その件に関して欧州がリードしていけることになる、いわば欧州戦略の生命線ではないでしょうか?1990年頃から、中国はITハード、米国はITソフトに注力し、欧州に従って環境問題に傾注していった日本が、今の状態になってしまったのは、日本の戦略の誤りではないでしょうか?環境問題って本当に存在するの?温暖化と言っているが、温暖化すれば食料危機から逃れるのでは?マイクロプラスティックって、微細なプラスティック(すなわち炭素の塊)は微生物のステーキと言われますが、何が問題なのでしょうか? たとえ環境関連企業が業績や株価を伸ばしたとしても、日本はそこにこだわらない、もっと大局を見据えた戦略をとるべきではないでしょうか?沈みゆく欧州に追随しても、たそがれるのみ。レジ袋が有料化され、万引きが増加し、消費が落ち込むだけ、国民の幸福を考えればとるべき政策ではないのではないでしょうか?

  2. oda_susi より:
    本気でやるなら

    白人が本気でやるなら、自然との調和スタンスは考えにくく、必ず自然開拓方向に振る筈です。

    具体的な一例を挙げれば、樹木や植物プランクトンの光合成活動を研究して大規模プラントにして、大気中の酸素・二酸化炭素を人工的に制御する方向に振る。

    本当に、CO2による温暖化起き得て、それが子孫にとって致命的な影響があるのなら、可能性のあることは何でも必死にやる筈です。人類が本気で取り組めば、大気を制御する人工光合成システムは必ず実現出来ます(本気では無いから、それらが前面に出て来ないんでしょう)。

    ※話が飛びますが、クリーン電気自動車は日本国土と相性が悪い。311が再来すると、停電で物流(電気自動車)が壊滅して、餓死者が大量発生します。ボチボチ、首都圏直下型地震や富士山噴火が近づいているかもしれないので、そんなことを考えました。

  3. itea より:
    難しい問題

    この気候変動シリーズは非常に読み応えありました。
    自動車専門誌の欧州動向とも矛盾してなかったしこちらはむしろ政治的考察が深く
    流石!という感想でした。

    コロナでヒマだったので4月からとうもろこし栽培を始めてみました。
    そこで感じたのは農薬の必要性。気温が高い地方では5月下旬から虫が発生し
    実を食べられてしまう。温度が低い寒い地方なら低農薬でもいけそうですが、
    東海地方では農薬が必須でスーパーみたいにキレイなのはスゴいと体感。
    お店のはどれくらい農薬入ってるのかと少し怖くなった。
    農業やってみると害虫が多くて無農薬栽培はありえないと思うが、
    はたして今のやり方の持続性はどれくらいあるのだろうと疑問も感じている。
    この長雨では同時期に始めたジャガイモが収穫前に腐ってしまった。
    今季は日照時間が少ない為サイズも大きくならず小粒ばかり。
    農業の難しさを実感させられました。

  4. X より:
    警鐘感謝

    環境ビジネスに関する鋭い視点、いつもながら感謝です。同時に日本への警鐘にもなっていますね。
    仰る様に、日本もこの流れを認識して先手を打つべきです。それにより百害あって一利無い環境ビジネスを有益なものに転換できるよう努力すべきです。流れから外れるのではなく、流れに乗って中から改革すると言う事です。
    まず着手すべきは、ソーラーパネルの厳格且つ世界的な環境基準を日本主導で提案すべきです。今現実に起きている事は、ソーラーパネルが有史以来、国土にとって最大の環境破壊&災害リスクをもたらしつつあるということです。
    https://mobile.twitter.com/sukinisitemokei/status/1294097810787188737
    これはまだ序の口で、放置しておけば全世界で同様の事態が起こり、未曾有の惨禍をもたらします。エコのためのソーラーパネルで人命損失と国土破壊を招いては、原発事故を遥かに上回る愚行中の愚行で、次世代に申し訳が立ちません。一刻も早く、従来より遥かに厳格なソーラーパネル設置の環境基準が必要です。

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