2020/07/20 06:30 | by Konan | コメント(3)
Vol.64: 日銀決定会合2020年7月+Go To
今回は恒例の日銀金融政策決定会合(7月15日公表)の紹介です。最後にGo Toキャンペーンについて一言。
日銀は例年は7月末開催ですが、オリンピック・パラリンピック開催が予定されていたため、日程が通常より2週間早く設定されました。この間の大きな環境変化を改めて感じます。内容面では、政策変更はありません。他方、1月、4月、7月、10月には「経済・物価情勢の展望」(通称展望レポート)が公表され、日銀政策委員会メンバーの先行き見通しが具体的数字で示されます。
(現状)
全体:経済活動は徐々に再開しているが、内外で新型コロナウイルス感染症の影響が引き続きみられるもとで、きわめて厳しい状態にある
個人消費:飲食・宿泊等のサービスを中心に大幅に減少してきたが、足もとでは、持ち直しの動きがみられる
設備投資:横ばい圏内の動きとなっている
住宅投資:緩やかに減少している
公共投資:緩やかに増加している
輸出:大幅に減少している
(見通し)
全体:経済活動が再開していくもとで、ペントアップ需要(抑制されていた需要)の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、本年後半から徐々に改善していくとみられる。もっとも、世界的に新型コロナウイルス感染症の影響が残るなかで、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられる。その後、世界的に感染症の影響が収束すれば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済はさらに改善を続けると予想される
国内需要:感染症の影響が和らいでいくのに伴い、水準を回復していくと考えられるが、感染症の影響が残る間は、低い水準にとどまるとみられる
うち個人消費:大きく落ち込んだ状態から持ち直していくとみられるが、人々の感染症に対する警戒感が続くもとでは、抑制的な状態が続く
うち設備投資:輸出や消費の大幅な減少の影響を強く受ける業種を中心に減少したあと、感染症の影響が和らぐもとで持ち直していく
輸出(インバウンド消費を含む):海外経済の回復に伴い、徐々に増加していくとみられるが、当面、抑制された動きが続くと考えられる。インバウンド消費については、入国に制限がかかり続ける間、落ち込んだ状態が続くとみられる
(リスク要因)
・新型コロナウイルス感染症による内外経済への影響:不確実性の大きさ、とくに大規模な感染症の第2波の可能性
・企業や家計の中長期的な成長期待:今回のショックで成長期待が低下する可能性、逆にイノベーション等を促進する可能性
・金融システムの状況:リスクは大きくないが、実体経済の悪化が金融システムの安定性に影響を及ぼし、それが実体経済へのさらなる下押し圧力として作用する可能性
日銀の表現は基本的に楽観的ですが、それでも、感染症に関する不確実性の大きさを受け、リスク要因を含め今までより丁寧に現状や先行きを説明した印象を受けます。
次に数字を簡単に。9人の政策委員の見通しの中央値(上からみても下からみても5番目の数字)は以下です。
実質GDP:2020年度-4.7%、2021年度+3.3%、2022年度+1.5%
消費者物価:2020年度ー0.5%、2021年度+0.3%、2022年度+0.7%
今年度大きく落ち込んだ後、余り力強いとは言えない回復を2021年度以降見込んでいます。日銀は四半期や半期ごとの見通しを公表していませんが、恐らくこの4~6月期が水準としてボトムで、7~9月期以降、前期比でのプラスを見込んでいると想像します。ただ、新規感染者数の増加を受け、6月より7月の方が落ち込む可能性も現実味を帯びてきています。きわめて予測が難しい状況が続きます。
また、日銀の場合+2%の物価上昇目標が大切ですが、2022年度を見据えても全く届きません。黒田総裁の任期は2023年春までなので、任期中の達成は不可能とも言えます。総裁が変わると、物価目標自体の変更も議論されるかもしれません。ただ、例えばFEDの議論を見ていると、物価上昇期待が失われてしまうことをとても恐れています。言い換えれば、インフレは制御できてもデフレになす術は無いとの感覚です。このため、多少無理をしてでも高めの物価目標を掲げ続けることが米国の考え方で、欧州もそれに近い感覚です。そうした中、日銀だけ物価目標を引き下げることも円高リスクを考えると難しく、気は早いですが、次の日銀総裁は本当に難しい判断を迫られると思います。
さて、東京外しとなったGo Toキャンペーン。いくつか感想を並べます。
・安倍内閣がまた失敗したと受け止められ、支持率低下要因になると思います。ただ、トランプ大統領ではないですが、安倍内閣にも30%程度の岩盤支持があり、合流に手間取る野党の存在感の無さも相俟って、急落はないように思います。
・東京外しが正解か、そもそもGo Toキャンペーンにどれほど意味があったか、よく分かりません。言い換えると、東京外しで感染者(陽性者の方が適切な表現かもしれませんが、世間の言葉に合わせます)の拡大がどの程度防げるか、Go Toキャンペーンで元々どれほど個人消費押上げ効果が期待できたのか、定量的な効果は判然としません。ただ、感染症はこうした定量的(科学的)なことだけに規定されるものでもなく、「東京は恐い」との心理を非難することも出来ません。各都道府県ごとに東京発着を外すか否か選択できれば良いのでしょうが、難しいのでしょうね。
・ワクチンができるまで、感染の波は繰り返し訪れます。今回、一旦波が下がり緊急事態宣言が解除されてから2カ月近く経過し、漸くキャンペーンが始まる訳ですが、波のボトムからそれだけ時間が経つと波が上がることは当然で、キャンペーン開始が遅過ぎたと言えます。波のボトムに開始し波が低い時間を極力長く享受しないと意味がありません。企業により7月まで飲み会を解禁せず、解禁された途端の感染者数増加で怯んでいる例がみられますが、それと同じことが起きています。スピードが大事です。
・経済活動と感染防止の関係に関し各所で様々な議論が行われています。私に正解は分かりません。ただ、以下のことを思います。
1) ロックダウンや緊急事態宣言中のような一律8割削減が不適切とすると、またマスク着用や手洗いや換気が大事で有効だが万全でないとすると、的を絞った対策を行うしかありません。的を絞るとすれば、「弱い」ところか「危ない」ところです。「弱い」に関し、高齢者の危険度が高いことは統計的に見て確かと思います。高齢者施設の安全対策(数カ月前には施設でのマスク・消毒薬不足が問題になりました)、スーパー等の場所で高齢者優先時間帯を設けるなどの対応が必要と思います。他方、高齢者に何某か自粛頂くことは不可避かもしれません。
2) 「危ない」に関し、仮にホストクラブやキャバクラが危ないとすると、その休業より廃業を進める方が結果的に良いかもしれないと思い始めています。廃業時のコストや借金返済の支援、雇用者の生活保障と転職支援などです。ワクチンが出来るまでこの事態は繰り返されます。既存の業態にこだわり続けることの是非を考えるべき時期に来ている気がしています。
3) 最終的には医療崩壊が起きないか否かが最も大事です。Go Toキャンペーンにしても、医療体制が弱い都道府県が身構えることは自然です。しかし、3、4月の教訓が生かされているか、最近増加している若く症状も無い(軽い)患者を入院させていると、どこかで病院の能力を超えてしまうのではないか、不安です。そうした人に確保していたホテル施設も手放していたと聞きます。それで良いのでしょうか?世界的に見て感染者数も死者数も格段に少ない日本でこのような心配が必要なこと自体、どこかおかしいように感じます。
今回はこの辺で。
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3 comments on “Vol.64: 日銀決定会合2020年7月+Go To”
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ご了承のうえ、ご利用ください。
日本は、コロナ自粛が本当に必要なのかという疑問は置いておいて、現状から思う感想コメントです。
・資本蓄積できない産業が、コロナで潰れること自体は構わない。内需大国の日本産業の個別プレーヤーは、少子高齢化で内需が減れば潰れて行くので、早過ぎるのが困るだけ。
・コロナ自粛で収入が激減しても、国民の生命維持は、国が本気になれば何とかなる。そこは、日本の政治家と役人を信じてます。
・コロナ自粛終了後、倒産・リストラで放り出された中高年会社員が、まともに転職出来ないだろう日本文化さえ消えれば、あとは何とかなる。
・日本は、少子高齢化で国力衰退して行く確実な未来を受け入れているるんだから、コロナ自粛でGDPが減るのは、早過ぎるのが困るだけ。
・「インフレは制御できてもデフレになす術は無いとの感覚です」「的を絞った対策を行うしかありません」「その休業より廃業を進める方が結果的に良いかもしれないと思い始めています」「最終的には医療崩壊が起きないか否かが最も大事です」。YES。付け加えるなら、デフレと人口減がセットになると、更になすすべ無いです。
2)についてですがもともとまともな商売ではないから、捨てておくが常識です、従って補償は必要ないが、それが言えない世界でしょう。何故か?これが今回の武漢瓜巣の背後にある問題でしょう。
原発事故の対応とおなじで、わが国の社会組織、思想はこのような事態に対する方策は持っていない。
一例をあげれば、聞くところによると学校で、感染者が出たらどのようにするかの指示が出ておらず、現場任せだという。
先生の負担が多きなる事、東電の現場と同じです。
あれはウジ虫のようなものだから捨てておいてもまたできる。それに外国人が多い世界で、経済ではなく警察マッターでしょう、不法滞在で出入国管理の問題です。
今回はいくところまで行くとみている。
日銀の物価上昇目標が未達なのは、日銀の物価指数に家賃を含めているからです。
近似値として消費者物価指数を眺めれば分かりますが、総合指数が2013年から2019年で6%ほど上昇しているのに対し、個別項目を見ると殆どの項目で10%近辺まで大幅上昇しています。
何が足を引っ張っているのかと言うと、家賃及び帰属家賃で、同じ期間で2%以上下落しています。家賃は家計の中で最大の支出であり、特にマジョリティとなった年金生活者の消費に比して帰属家賃の割合は非常に大きなものがあります。帰属家賃を除くと物価は7%以上上昇した事になり、さらに通常の家賃を除くと8%超の物価上昇になるはずです。
6年間で8%超。特に2016年以降は、家賃の下落が激しくなる一方、それ以外の物価は上昇が激しく、厳密に家賃を除いて計算すれば2%を達成した年もある可能性が高いです。
家賃の下落が激しい最大の理由は、金融緩和と人口減少です。まず人口増加が見込めないため、都心ですら長期的には悲観的な見方が多く、キャピタルゲインの期待値が低いので、ヤクザが介入してきません。ヤクザが介入しない状態で、金利が大幅に下がり、一般のサラリーマンですら1%を切る金利で不動産投資を行っている例が散見される状態になっているので、個人・企業の不動産投資が非常に活発になりました。また人口減少=高齢化により、相続税対策としてアパート建設やタワーマンション購入が激増しました。どちらも自分で住むためでは無いので、当然、それらの物件は賃貸に回されます。日本は人口が減少しているのに、賃貸物件は激増しているのですから、当然家賃は下がります。都内の一等地でも、リーマンショック前と比べて家賃相場は1〜2割下がって居ます。リーマンショック前は敷金2ヶ月分礼金2ヶ月分が相場でしたが、今や敷金1ヶ月礼金なし、が都内一等地でも当たり前になりました。元々割安だった足立区では、築数年で単身用が2万円を切る例もあります。下落が激しく、想定以上に下落してローンを返せなくなり、家主が自己破産する例も増えているほどです。
これが、黒田総裁が首を捻っていた、金融緩和をすればするほど物価が下がるカラクリです。例えば2千万円借金し、新築ワンルームを買って賃貸に出す場合、金利が3%下がれば年間の金利支払が60万円減るので、家賃を同額の60万円下げても損しません。月5万円下げる事ができる計算になるので、金利が下がれば下がるほど大家が増えて競争が激化し、家賃が下がるのは理の当然です。実際には物件の購入も競争が激化して価格が上がるので、金利が下落した分、家賃が下がるわけではありませんが。
資産価値は上昇し(しかしこれは資産取得なので物価統計に含まれない)、家賃は下がるのですから、これは悪い物価下落ではありませんし、類を見ない素晴らしい住宅供給のイノベーションと言えます。一方で人手不足による物価上昇は随所に見られ、同じ住宅関係で言えば、建築単価やメンテナンス費用は、10年前の倍近くになっており、これは悪い物価上昇と言えます。特にタワーマンションなどでの修繕積立金は多額な上に10年、20年分のほぼ無利子の長期積立によるものなので、このまま行くと大幅な不足の恐れがあります(管理会社は過去の実績を元に長期修繕計画を組むところが多いので、多くの管理組合が気付いていないと思いますが・・・)。
イノベーションによる物価下落は異常値として除外してインフレターゲットを考えないと、家賃下落を相殺して余りある物価上昇を目標にする事になり、道を誤ります。