2020/07/06 06:30 | by Konan | コメント(3)
Vol.63: 短観と気候変動問題(5)
今回は1日に公表された日銀短観と気候変動問題の5回目です。
短観は各メディアで報道されたように、最も注目される製造業大企業の業況判断が前回の-8から-34へと26ポイントの大幅悪化となりました。因みに全体(全産業全規模合計)では、前回の-4から-31へと27ポイントの悪化です。また、今回最も影響を受けたとみられる宿泊・飲食サービスの業況判断は-91(大企業)、日産の苦境が話題になる自動車は-72と、とんでもなく悪い数字です。業況判断は全社が「悪い」と回答すると-100、「良い」「悪い」が拮抗すると0、全社が「良い」と回答すると100になるので、如何に悪いか実感できると思います。
今回はこれに尽きますが、「意外に悪くない」面もないではありません。この点を並べると以下の通りです。
・業況判断は確かに悪いのですが、過去の三大超悪局面だった「第一次オイルショック」「1997、8年の金融危機」「リーマン危機」時に比べるとマシです。GDPの悪化が1930年代の世界恐慌以来の大きさであることを考えると不思議に思えますが、今回の影響が「輸出関連」や「飲食・宿泊・旅行関連」に集中して表われ、例えば情報サービスのような勝ち組もあることが背景と考えられます。また、例えば製造業大企業の先行き予想はー27と現状(-34)対比改善が見込まれます。GDPも4~6月期が底とみられていますが、これと整合的です。
・設備投資計画は大企業でプラス(2020年度+3.2%)、全体でも-0.8%と意外に底堅い数字です。
・雇用判断は前回対比大幅に悪化しましたが、それでも全体では「不足超」です(前回-28、今回-6。マイナスが大きいほど人手不足感が大きいことを意味します)。
・資金繰り判断も同様に悪化しましたが、「楽である超」を維持しました(前回13、今回3)。
そうは言っても、世界的に感染者数が増加を続けるなど、不確実性はなかなか払拭されません。そうした中で、倒産・廃業・失業の増加も心配されます。3か月後の次回短観が今回より悪化する可能性も多分にあるとみています。
次に気候変動問題。熊本はじめ九州南部の大豪雨で被害に遭われた方にお見舞いを申し上げます。この豪雨が気候変動のためとの証拠はありません。ただ、石炭火力発電の廃止・停止など日本でもこの話題が増えているように感じます。今回は、気候変動問題と新型コロナウイルス感染症の関係に触れたいと思います。
直観的には、新型コロナ対応で各国や企業の余裕が無くなり、気候変動問題を顧みることが出来なくなるように思えます。実際、COP26は来年に延期されましたし、途上国では本当に余力が消失しています。
しかし、先進国の間ではしぶとく生き延び、むしろ勢いが加速する感すらあります。理由は4つです。
・感染症と生態系の関係への注目が高まったこと。狭い意味の気候変動とは異なりますが、生物多様性など環境の良し悪しと感染症の発生・拡散度合いに関係があるとの認識です。
・テールリスクを馬鹿にすると痛い目に合うと分かったこと。感染症に対し一部の専門家は警鐘を鳴らし続けてきましたが、多くの人は無視してきました。しかしそのリスクが現に顕在化しました。気候変動問題も、それを信じる人を覚めた目で見る多くの人が存在する点で、似た構図にあります。新型コロナを目の当たりにして、目覚めた人が出始めています。
・景気回復の牽引役にしたいこと。感染症終息後の回復局面では、投資の増加が鍵を握ります。欧州ではグリーンリカバリー(green recovery)と称し、気候変動対応のための投資を増加させようとしています。
・エネルギー価格が下がり、消費も減ったこと。これは一見すると「化石燃料への先祖返り」を助長しそうですし、実際にそうした見方もあります。しかし、こうした時ほど炭素税を導入しやすいと考える人たちも同様に存在します。担税負担感が低いうちに導入してしまえ、という訳です。
このような背景から、気候変動村はむしろ活気付いています。日本の石炭火力発電の話しもその表れかもしれません。
東京を中心に新規感染者数が増加に転じ、再び危機感が高まりつつあります。他方で「動き出したものは最早止められない」との受け止めも多くあります。折角再開したプロ野球やディズニーランドを止めるにはとても胆力が必要です。
少し前のTwitterで、ドイツの感染症学者と経済学者の共同研究で「0.75の実効再生産数が最適」との結果が導かれた話しを紹介しました。研究の詳細は見ていませんし、0.75の是非も判断できません。ただ「最適(optimal)」という経済学でもよく用いられる枠組みには親しみを感じます。単純に言えば以下の通りです。
・強力なロックダウンを行うと、実効再生産数が低下し感染が短期間で終息することと引き換えに、経済活動(GDP)が大きく落ち込みます。
・何もしないと、実効再生産数が上昇し感染が長期化します。経済の落ち込み幅はロックダウン対比小さく済みますが、長期化するので積分するとかなりの大きさになる可能性もあります。仮に人命を経済価値換算すれば、その損失も大きくなります。
・今回の共同研究は、上記の2つ間に「損失が最も小さい=最適な」ポイントを見出すことが出来ないかとの発想です。計算はかなり難しいと思いますが、概念的にはピンときます。
こうした議論が日本でももっと行われると良いのですが。2期目に入った小池都知事の捌きも注視したいと思います。
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3 comments on “Vol.63: 短観と気候変動問題(5)”
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最適値を極小値としてみるのか、本物の谷としてみるのか。過冷却なのか凝固点なのか。ギブスの自由エネルギーに鑑みて、その値がエネルギーの底であることを祈るばかりです。
>担税負担感が低いうちに導入してしまえ、という訳です。
もうずいぶん前だが、地方のそれなりの企業に勤めていた時、ぜう負担を計算したことがあった。15年位前だったと思う。我が国のデータは確かに正しいが妙な仕組みがあり、実態を反映しない。
サラリーマンで持ち家で、計算した。その時、健康保険と厚生年金負担を二倍にして、その分給料が増えたとして計算した。その時確か税負担が40パーセントだった。消費税、ガソリン税、も計算した。そのほか町内の付き合いも含めて計算した。お祭りの寄付も計算した。
四公六民だなと笑った。今はそれ以上でしょう。
もう増税という選択はないが帳面上において考えるとある。
ただ昔と違って税負担があとで帰ってくる仕組みがあるから一概に言えないが、今後それも含めて、三公六民にすることではないか?
近くの土手の草は昔はたい肥にするために、権利のようなものがあり、農家が刈っていたが今は誰も駆らないから市が刈っている。
このような現象があちこちに起きていると思う。
銭で解決ができない状態なものが多いのではと思う。
石炭火力を少なくさせることは一種の戦争で、どんどんして、敵をせん滅することではないか?
何が敵かは難しいことだが。
今は三島由紀夫が示したようにやがて尽きる命より大切なものがあると日本人は自覚しないと現前の問題はたぶん解決できない。そのように見ている。
増加しているのは感染者ではなく、PCR検査で陽性とされた人の数です。4月の東京都のPCR検査数は1日200〜300軒程度だったのに、今では1日2,500件を超えています。これは検査能力を拡充しようとした政府の努力の結果なのでこれ自体は良い事ですが、一旦拡充した検査のキャパシティを維持するためには、フルに検査をし続けないといけないので、それが人々に大きな誤解を与える副作用を生んでいます。
元々、どの国でも真の感染者数はPCR検査で陽性とされた人の10倍から100倍くらいはいる事が明らかになっていますので、検査数を増やせば、単純に比例して陽性と判定される人の数も増えます。その証拠に、東京の死亡者数と重症者数は4月には1日あたり、それぞれ20〜30人いた一方で、7月は、どちらもほぼ0にへばりついています。検査を増やしたために、本来感染させるリスクも低く放置して良いような無症状者、軽症者を検出しているだけであることがわかります。
はっきり言って、これは全く無意味な数字ですし、これを見て騒ぐマスコミや政治家はリテラシーが低すぎると残念ながら言わざるを得ません。軽症、無症状の感染者は東京だけでも5月時点で数十万人はいる事が、抗体検査の結果からかなり強い確度で推定できますし、それをPCR検査で潰そうと言うのは全くの無理筋です。出来るはずがない。
そもそも日本が新型インフルエンザ以来採用してきた戦略はピークカット戦略ですので、医療機関の余力を保てる範囲でならば感染が幾ら拡大しようが問題ではありません。連鎖ブドウ球菌の肺炎で毎年数万人死んでいますが、これまでそのために経済活動を犠牲にしようなど議論されたことも無いはずです。医療のキャパシティを超えないからです。
コロナに対する取組も同様であるべきで、重症者が全く増えない現況で、陽性とされた人の数だけを見て、リスクが増したかの様に騒ぐ政治家やマスコミは、邦家の敵ですね。まあ、個人的にはコロナで経済活動一切停止、財政政策金融支援による支援も無し、グレーとリセッション再び、と言う方が投資のチャンスが増えて良いのですが。