プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2020/06/08 06:30  | by Konan |  コメント(2)

Vol.59: 今回も短く


諸般の事情で今回も短く。次回は元に戻れればと思います。

Saltさんが詳しく解説してくれると思いますが、先週最大の事件は米国雇用統計のポジティブ・サプライズでした。株価も急伸しました。IMF世界経済見通しが悲観的過ぎたかと思えてきますが、ここで少し頭を整理してみたいと思いました。

株価は、個別企業業績の集積です。今回の危機の下でも勝ち組はあります。指標の動きも企業の組み入れ方次第で異なります。結局のところ、ぐっちー、そしてSaltさんが言う通り、丁寧に各種データを追って考えるしかありません。

他方、マクロ経済は、様々な企業・家計の動き、海外の動き、政策対応が影響します。国・地域により展開が大きく異なり得ます。当面の動きは概ね以下の点に左右されると思います。

(1)今年初までの経済の強さ
・土台の良し悪しはその後の動きに影響します。
・遠い過去に思えますが、昨年の世界経済はリーマン危機後最低の成長率に止まりました。米中貿易戦争など不確実性が高まる中、製造業中心に投資が控えられたことや、いくつかの新興市場国の不振が背景でした。
・その中で目立ったのは「米国独り勝ち」でした。米国の動きは盤石な一方、欧州、アジア、その他新興国は不調という二極化が目立ちました。
・要は、この観点では米国が他国対比有利な状況にあります。

(2)新型コロナウイルス感染症の影響の大きさ
・この要因は複雑です。感染症自体の深刻さ(感染者数、死者数)、感染症対策の強度(ロックダウンか自粛かなど)が主な要素ですが、相互に連関します。
・最近「ファクターX」が話題です。日本を始めアジア諸国の感染症の深刻度が低いのは何故か?仮に深刻度が低く、このため感染症対策を緩めることができれば、感染症の経済への影響は限定的にとどまります。
・逆に、いくつかの研究で、感染症対策を早期かつ強力に行うほど、短期的な経済の落ち込みは大きいが、中期的な回復は確りとなるとの見方が有力になっています。
・感染症対策が緩く、感染症が深刻になるケース(ブラジルが典型的でしょうか)もあります。この場合、短期的に良く見えても、結果的に経済への影響が深刻化してしまうかもしれません。
・この観点では、中国に一日の長があるように思います。

(3)産業構造
・例えばタイのような観光立国は、感染症の大きな影響を受け、回復も困難が伴います。
・日本にとっても、インバウンド需要を含めた輸出(以前も触れましたが、インバウンド消費はGDP統計上、個人消費でなく輸出に計上されます)の減少はダメージが大きいと思います。

(4)経済対策の強度
・日米欧の中央銀行は精一杯の政策を行っていますが、財政政策はどうか?
・財政政策の規模が大きく、実行のスピードが速いほど、当然経済にプラスです。
・米国の規模は大きく、「目詰まり」は日本と同様に指摘されますが、相応に実行されているようです。
・欧州は国ごとに対応余力が異なります。ただ今般、各国の対策と別途EU共通の枠組みとして、7,500億ユーロの復興構想案が公表されました。うち5,000億ユーロはgrant(贈与)という、合意されればかなりの大判振る舞いです。
・日本の対策は事業規模200兆円を超えます。前回その真水(GDPに直接貢献する部分)を「50兆円」としました。一次補正まで(20兆円弱)に今回の国家予算規模を加えました。しかし、高橋洋一氏など(元財務官僚にも拘わらず)財務省に辛口の論客は「二次補正の真水は10兆円に過ぎない」と指摘します。そうだとすれば、計30兆円、GDPの5%ほどに止まります。また、その実行の遅れは何度も指摘したところです。

(5)国の信認保持
・先進国、新興国とも目一杯財政政策を吹かします。これが国の信認低下に結び付くことは論理的にあり得ます。
・私は先進国について楽観しています。米国は基軸通貨国であること、欧州はこれまでイタリアを除き財政規律が厳格に守られてきたこと(=余力がある)、日本も全く円安や金利上昇の兆しが見えないことが理由です。
・他方、中南米諸国、トルコ、南アなどへの懸念は市場でも話題にされます。

短く抽象的で申し訳ありません。こう書いてみると、やはり世界2強の米中が危機から抜け出す蓋然性が高く見えてきます。米国では、感染症と重なりつつも別の問題として人種問題が火を噴いています。経済にもマイナスの影響があるかもしれません。そのうえで、今回のメッセージは「新型コロナウイルス感染症の影響は一様でない。企業・産業・国・地域により回復のパスが大きく異なり得る。だからこそ、ぐっちーやSaltさんの教えを守り、丹念にデータを見ていこう!」となります。

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2 comments on “Vol.59: 今回も短く
  1. 有賀 より
    的確で分かり易い

    なかなか自分ではまとめ切れない今のリアルな出来事が、すっきりと理解出来ました。優しい文体は、ご性格でしょうかね。今後も楽しみにしています。

  2. X より
    バブルになる

    日本の今回の財政政策は、真水が少ない、遅いと言われています。
    しかし、実際の影響とその広がりの速さは、これまでになく大きく速いものかも知れません。これまでは幾ら金融緩和しても金融庁の方針が狂っているので市中貸出に回りませんでしたし、財政政策も幾ら注ぎ込んでも内部留保に回すような限られた地元既得権企業に注がれていました(この20年で増えた内部留保の大半は、大企業では無く中小企業のものです)。
    しかし今回は、後先考えずに浪費してしまう様な個人や事業者まで融資や補助が回り出しています。実際にそれを受けた個人や事業者で早速それを投機に回そうとしている話もよく聞きます(本当は駄目なはずですが・・・)。これはこれまでには無い傾向で、その動きを見ていると、バブルの気配を感じます。
    政策当事者が、コロナの影響と事業者のダメージを過大に見積もる一方で、単純な金額で政策の影響を判断し(金融庁の方針が狂っていたので市中に回らない実態を理解でいていなかった)、政策影響を過小評価している様に感じます。私はプラザ合意の頃をよく知らないのですが、その時もこんな感じだったのでは?

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