2020/05/25 06:30 | by Konan | コメント(2)
Vol.57: 気候変動問題(2)+先週の出来事
今回は、気候変動問題の2回目に加え、先週の出来事、具体的には1~3月期GDP、日銀金融政策決定会合と麻生副総理兼財務大臣・黒田日銀総裁共同談話、検察庁の話しを振り返ります。
気候変動問題。今回は様々な類義語の関係を説明します。類義語は以下の4つです。
1.気候変動(climate change)
2.Green、environment
3.ESG(Environment、Social、Governance)
4.SDGs(Sustainable Development Goals)
気候変動は4つの中で最も狭い、しかし影響力が強い言葉です。この言葉はパリ協定と結びついています。とても単純に言えば、(1)気温の上昇を産業革命前対比+2度、できれば+1.5度以内に抑えたい、そうしないと(前回説明したように)大変なことが起きる、(2)気温は大気中の二酸化炭素の量に規定される、従って二酸化炭素排出量を減らす必要がある、(3)少し長い目で見てネット二酸化炭素排出量をマイナスに抑えよう、という枠組みです。ネット排出量とは、光合成に代表されるように二酸化炭素を吸収する活動もあるので、それを差し引いて排出量を測る考え方です。
GreenやEnvironmentはもう少し広く環境問題を捉えます。例えば、農薬により生物多様性が失われる、マイクロプラスチックにより海洋が汚染されるなど、「二酸化炭素、気温」に限定せず、幅広く環境問題に取り組むアプローチです。
ESGは読んで字の如くSとGが加わります。投資の世界でESG投資の言葉が良く使われるようになりました。元々Gucci Postは「ぐっちーさんの金持ちまっしぐら」の標語を掲げスタートしたので、読者には個人投資家が多くいらっしゃると思います。その意味で、このESGが最も大事な言葉かもしれません。Socialは日本語的に「社会問題」のイメージでしょうか。典型的な例では、サプライチェーンの中で子供を労働者として酷使する企業はアウトです。今回の新型コロナウイルス感染症では、例えばネット販売の配達員の感染症対策の熱心さが問われています。Governanceには様々な側面がありますが、代表例は役員の「多様性」です。取締役会での男女、人種、年齢などの分散が小さいとガバナンスが弱いと見られます。
SDGs(持続可能な開発目標)は国連が定めた用語で、以下の17の概念を含む幅広い言葉です。テレビに出演する財界人が良く円形のカラフルなバッジをつけていますが、これがSDGsバッジです。日本で流行っていますが、海外でつけている人をあまり見かけません。次回で書く予定ですが、日本は気候変動やSDGsの発想が欧州等に比べ遅れて広がりました。バッジについても、海外での流行が一段落した中で、日本で遅れて流行ったということと思います。さて、17の概念は、
1.貧困をなくそう、2.飢餓をゼロに、3.すべての人に健康と福祉を、4.質の高い教育をみんなに、5.ジェンダー平等を実現しよう、6.安全な水とトイレを世界中に、7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに、8.働きがいも経済成長も、9.産業と技術革新の基盤をつくろう、10.人や国の不平等をなくそう、11.住み続けられるまちづくりを、12.つくる責任 つかう責任、13.気候変動に具体的な対策を、14.海の豊かさを守ろう、15.陸の豊かさも守ろう、16.平和と公正をすべての人に、17.パートナーシップで目標を達成しよう、
です。すごいですね。
次に経済関係。
18日に公表された1~3月期GDPは、前期比マイナス0.9%、年率換算マイナス3.4%になりました。昨年10~12月期は消費税率引上げの反動で前期比マイナス1.9%成長だったので、2期連続マイナス成長となります。米国では2四半期連続マイナス成長=景気後退(recession)と定義されますが、日本もまさにこれに該当しました。因みに2019年度通期もマイナス0.1%成長と5年ぶりのマイナス成長でした。今回は内容面で付け加えることはありません(分かり切った結果ですよね!)。4~6月期も前期比マイナス成長を予想する向きが多い状況です。とても直観的に言えば、1~3月期は中国関係を除き3月から急に落ち込んだ(3か月のうち1か月悪い)一方、4~6月期は4、5月と2か月間が壊滅的、6月に立ち直り始めるとしても3か月のうち2か月悪いからです。7~9月期は流石に前期比プラス成長に戻ると思いますが、一足早く緊急事態宣言が解除された地域の状況を見ても、力強い回復は期待薄です。
次に22日の日銀臨時金融政策決定会合。お題は”中小企業等の資金繰り支援のための「新たな資金供給手段」の導入”です。詳細は省略しますが、日銀はこれまで企業の資金繰り支援に関し、(1)主に大企業を念頭に置いたCP・社債等の買入れ(残高上限約20兆円)、(2)銀行等民間金融機関が下記の無利子・無担保融資導入以前から実施してきた企業・個人向け融資へのバックファイナンス供給(=新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ、約25兆円)を行っていました。今回これに、(3)政府の緊急経済対策に基づき5月から実施された無利子・無担保融資へのバックファイナンス供給(約30兆円)が加わり、総枠75兆円の資金供給手段を揃えました。
さらに同日共同談話が出され、二人揃って記者会見を行いました。ポイントは政府・日銀一体となって企業金融の円滑化と金融市場の安定に努め、事態の収束や感染症収束後の確かな成長軌道への回復を図っていくとのメッセージです。Twitterでも書いたように、メッセージや政策自体に間違いはありません。ただ、今問われているのは、実際に企業に支援が届くか否かです。本件に限らず、10万円にしても雇用調整助成金にしても、総理自らの表現を用いればとんでもない”目詰まり”が起きています。これが解消されないと、取り返しのつかない事態になりかねません。
最後に「検察」。内閣支持率も急落したようです。経緯は振り返りませんが、今後以下の4点が問われると思います(処分の重さは余りに個別の話しなので立ち入りません)。
1.国家公務員の定年延長・・・検察官を含む国家公務員の定年を65歳まで延長する法案の今国会成立は見送られ、「世間より公務員の定年が先に延長されるのは如何なものか」として、廃案の可能性も浮上しています。元役人の私の意見が読者の皆さんと合わないことは承知で私見を述べれば、高齢化が進み年金支給開始年齢も引き上げられる中で、社会全体として定年を延長することは不可避であり、廃案には反対です。ただ、現実には実現がかなり遠のくと思います。
2.検察官の役職定年個別延長・・・法案では、検察官を含む国家公務員の定年は65歳まで引き上げられますが、検察庁を含む各省庁幹部は原則として役職を63歳で退くこととされています。しかし、内閣の判断でこれを個別に延長できる条文が盛り込まれました。今回の経緯の中で元検事総長を含む検察OBが反対し、野党も削除を求めたのは、この条文を検察官にも適用する点です。検察官は他省庁に比べ一段と政治からの独立が求められるので、検察官にまで個別延長制度を導入するのは良くない、との主張です。これに対し「所詮内閣が任命するのだから、役職定年延長も五十歩百歩」との反論もありますが、私は検察OBが「危うい」と感じる条文は避けるべきと感じます。
3.省庁や検察庁の幹部人事のあり方・・・上記は法律の話しですが、黒川問題のきっかけは、現行法の解釈を変更してまで黒川氏の定年を延長し、かつ、その理由や経緯に関し森法務大臣が珍答弁を繰り返したことでした。なぜ黒川氏の定年を現行法の下で延長したのか、「菅官房長官に近く政治への配慮が期待できたから」との通説が正しいか否か私に判断はつきません。ただ、黒川氏はさて置き、一般論として次官、長官等の人事のあり方は一考に値します。元々各省庁が人事を勝手に決め「省あって国無し」と言われた状況を変え、「国士」をつくる目的で官邸の人事権が強化されました。このこと自体は正当と思います。ただ、恐らく安倍政権のように長期政権が生まれ、中でも官房長官が続投する事態は想定されていなかったように思います。私は幹部人事の実態を知りません。元同僚から「次官、長官が案をつくり、官邸にお伺いを立て、最終的には菅官房長官の了解を得る」との話しを聞きますが、都市伝説かもしれません。ただ、もしこの話しに一定の真実味があるとすれば、「官邸の顔色を窺う」ことも理解できます。要は「各省庁勝手」の旧システムも「官邸の顔色を窺う」現在の長期政権下のシステムもそれぞれ欠点があり、何か中間的な解決策が求められます。あるマスコミ関係者は「賢人会議を設ける」案を主張しています。株式会社の人事委員会は社外取締役で構成され、会社の主要人事を外部の目線で決めますが、その類推と思います。実現は難しいと思いますし、今後二度と安倍政権・菅官房長官のような長期政権は登場しないかもしれませんが、何らかの知恵が求められる気がします。
4.マスコミと官の関係・・・検察官僚の賭け麻雀(しかも緊急事態宣言下)は言語道断と思います。他方、官とマスコミの間で様々な関係を持つルートがあることは否定しませんし、大事とも思います。私もいくつかルートを持ち、引退後の今も何人かの記者と付き合っています。そのうえで、今回はその私から見ても異常に思ったことが2点あります。ひとつは頻度の多さ。月2回も同一のメンバーで麻雀をする(飲み会も同じことです)のは、流石に官もマスコミも公正性を疑われます。もうひとつは水と油の関係にある産経と朝日が同席したこと。良し悪しはさて置き、記者の源泉は「特ダネを抜く」ことです。無論取材の場で一緒になってしまうことはありますし、黒川氏の求めで集められたとすれば、記者を責めることは出来ません(黒川氏の異常さが更に際立ちます)。そのうえで、同業他社がいる中で「抜き」はあり得ません。その意味でマスコミ側の職業倫理感に疑問を持ちました(更に、真偽は不明ですが、一部報道では文春にネタを持ち込んだのは産経記者とされています。事実とすれば酷い信義則違反です)。
今回も長くなりました。次回は休めると良いですが、緊急事態宣言解除など話題満載の一週間になりそうですね。
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2 comments on “Vol.57: 気候変動問題(2)+先週の出来事”
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経済のみならず、気候変動と検察についてのコメントも興味深いものでした。メディアとの距離感には、色々と考えさせられますね。
1960年代の初めは寒かった。我が家の近くの川が氷結し、スケートができた。また農業用の池が凍り、そこで遊んでいた生徒がさらし者になった。
後年なぜその時は寒かったかと調べると、核実験が多くあり、粉末が上空に舞いあがり、太陽光を遮ったからだと思った。雲が多くできれば、あっという間に寒冷化する。
二酸化炭素がというなら、この排出量は産業活動と関連するが、ふざけた意見かもしれないが適当に大気圏内核実験をすればいいのではないか?
それと検察に対して政府の圧力が強まるというが、事は検察官に資産があれば、それに抗議して、やめることが可能であればそれだけに過ぎない。
個人的見解だが局長以上は政治任命にしてはどうか?つまり制度を変えることです。もしくはその位置に立つ人の資産は10億以上という制限をつければいいのでは。
新聞など昭和の初めから、普通の家庭は子供には読ませなかったという。大人が読めば嘘とわかる記事が子供にはわからないからだったという。
これはその後も続き、新聞が何か大きな仕事をしたという事はなかった。新聞が機能したのは明治の初めの30年間だったに過ぎないと思う。
その昔は死亡欄と株式市場とテレビ番組だけが事実だといわれたが、今はテレビ番組だけとなった。新聞はもう経営が成り立たなくなったから騒いでいるに過ぎない。
制度上のあれこれではなく現在問題となっていることはそれほど大げさなことではなく、調べれば実に単純なことがもとに過ぎないと思う。
教科書問題でもあれは親が買うことにすれば、起きないことでしょう。つまり只だからに過ぎない。そのほかいろいろあると思う。