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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2020/04/20 06:30  | by Konan |  コメント(4)

Vol.52: コロナにまつわるエトセトラ


新型コロナウイルス感染症の話しに辟易とするこの頃ですが、今回も続けます。IMF世界経済見通し、安倍内閣の混乱、感染症が露わにした不都合な真実の三題話し構成です。

IMF世界経済見通しについて。JDさん含め既にFacebook・Twitterで触れ、各種媒体でも報道されたように、今年の成長率見通しはマイナス3.0%と、リーマン危機時(マイナス0.1%)を大きく下回り、1930年代の世界大恐慌以来の大きな落ち込みとなりました。世界大恐慌は更にすごかったということにも改めて驚きますが、世界大恐慌が第二次世界大戦の遠因・一因だったと考えると、新型コロナウイルス感染症が今後の世界を大きく変える契機になることを十分予感させる数字です。因みに、2021年は+5.8%成長への回復が見込まれています。しかし、このベースライン・シナリオの下でも、2020年から21年にかけて累積で世界が失うGDPは9兆ドルに上り、その美貌で一躍有名になったIMF・Economic CounsellorのGita Gopinathさんは「日本とドイツ2国分のGDPが失われる」と説明しました。

詳細の説明は省略しますが、2点強調しておきたいと思います。

まず、通常は先行きに関し上振れ・下振れ両方向のシナリオが用意されますが、今回は下振れシナリオしか用意されていないことです。下振れシナリオは3つに分かれます。なお、ベースライン・シナリオは今年前半で感染症が大体終息(収束)する、第2波が無いことを前提にしています。

・終息(収束)への時間が5割長引く・・・GDPがベースラインを3%下回る
・2021年に現在よりは弱いが第2波が襲う・・・GDPがベースラインを5%下回る
・上記2つとも起きる・・・GDPがベースラインを8%下回る

世界のGDPは大体90兆ドルくらいですので、大きさが実感できると思います。

第2に、IMFは先進国のことも心配していますが、それ以上に新興市場国・発展途上国・低開発国のことを心配しています。ひとつには、今回の危機を契機に既に新興国からの巨額の資本流出が起きています。また、これらの国々で感染症が深刻化しても、医療体制や財政余力の不備・不足から対処し切れない恐れがあります。IMFでは先進国に向け金融・財政政策の全開に加え、途上国等の債務免除など支援を強く求めています。この点は日本では余り報道されないので、あえて強調しました。

次に安倍内閣。給付金問題(限定30万円から一律10万円へ)や緊急事態宣言対象の拡大(47全都道府県へ)で、安倍内閣のドタバタ感が如実に表れました。本件について元官僚仲間やマスコミからのインサイダー情報は現時点で無く、個人的感想を書くにとどめますが、給付金については、最近公表された各世論調査で内閣支持率が急落した(産経や読売のような親自民メディアを含め!)ことに焦ったことは間違いないと思います。お尻に火が付いた二階幹事長(加えて30万円案をまとめた岸田政調会長潰しもあったかもしれません)や山口党首に押され、方針転換に舵を切りました。宣言対象拡大については、地方における脆弱な医療体制に加え、大型連休を控え、東京から茨城にパチンコに出掛けたり熱海の温泉に出掛けたりする動きを止める必要性に漸く気付いたということでしょうか。

元々の30万円案の「困った人に集中して多く」というロジック自体はおかしくないと思います。しかし、そのロジック実現のため複雑な条件設定を行う必要に迫られ、「すぐに支給されない」「自分に届かない」との大きな不満を生みました。別途の中小企業等への給付金についても、前回取り上げた資金繰り対策にしても、スピード感が何より大切です。所謂モラルハザード問題に目を瞑り、兎にも角にも早く出すことが優先されるべきでした。危機時に平時の発想を持ち込んだ官邸や財務省の完全な失策です。なお、麻生大臣が10万円を申請しないようプレッシャーをかけているようですが、皆がもらい、そのうえで医療関係あるいは困っている馴染みのお店等に寄付してお金を回す方が良いと思います。

対象拡大について、以前このコーナーで学校休校に関し「中途半端」と書いたこととも関連しますが、大型連休期間中、飛行機、新幹線や在来線特急を止め、高速道路も食料や医薬品等生活必需品を運搬する車両以外の通行を止めるくらい思い切った措置を取るしか無いように思います。台風や大地震などの際には現に行われる措置です。接触8割減、出勤7割減と言われますが、多くの人は本音では「そんなことはできない」と感じていると思います。「自由を縛られたくない」「経済が立ち行かない」「出社しないと仕事にならない」など様々な事情によりますが、突き詰めていくと「倒産・廃業や生活困窮」への対応が不十分であることと、「武漢やイタリア・スペインやニューヨークのように深刻化しないのでは」との漠たる期待感に帰着する気がします。様々な医療関係者が後者の期待感に関し「それは間違い」と指摘しますが、安倍総理のように「妻の大分への旅行は問題無い」と言われると、説得力を失います。「家にいてもあなたの生活は壊さないことを保証する。家にいないと感染症は終息しないし医療は崩壊する。だから家にいて欲しい」と本当に説得的で信頼されるメッセージを出せない首相は、最早存在意義を失っている気がします。逆に言えば、信認があれば、飛行機や新幹線や高速道路が1週間止まっても我慢します。

最後に。日本にも当てはまりますが、欧米で以下の点が意識され始めています。

ひとつは格差との関係。IMFが言う先進国と途上国の格差もその一面ですが、先進国の中でも、例えば(以前Twitterで一部紹介しましたが)米国では、

・シカゴでは黒人の比率が30%だが、新型コロナウイルス感染症の死者に占める比率は68%
・米国の所得上位25%層の在宅勤務可能比率は6割だが、下位25%層の比率は1割にとどまり、感染・失業双方のリスクに晒されている

という話しが聞かれます。日本でもJALやANAを除く大企業からの悲鳴はまだ上がりませんが、中小・零細企業や個人事業主等から「破綻寸前」「在宅などできない」との怨嗟が聞かれます。因みに、日本の大企業はこれまで内部留保を溜め込み、ぐっちーが良く批判していました。この危機の局面で、その無駄に見えた内部留保が大企業を助けています。しかし、中小・零細企業に余裕はありません。

もうひとつは、民主主義との関係。とくに欧州(EU)では2年ほど前からGDPRと呼ばれるスーパー個人情報保護法が施行され、プライバシー保護が価値観の中核のひとつです。しかし、中国などで明らかになったように、個人の位置情報を集積・分析することが、感染症対策上きわめて有効な手段となり得ます。プライバシー保護とのバランスを保つため、スマホに位置情報をため、自分が感染しかつ同意した時に限りその蓄積情報を当局に提出する方策も考えられているようです。更に言えば、ロックダウンと移動や経済活動の自由の相克など大きな問題を孕み、米国では反ロックダウン運動も起き始めています(これは民主主義というより経済困窮との関係が深いと思いますが)。日本では、(米国と逆に)産経新聞等が非常事態条項を中核とした憲法改正論と結び付ける議論を起こそうとしています。

新型コロナウイルス感染症が第三次世界大戦の引き金になるとは思いませんが、社会の仕組みや価値観を大きく動かしていく契機となるのでしょうか。

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4 comments on “Vol.52: コロナにまつわるエトセトラ
  1. 健太 より
    民主主義と選挙

     自民党も公明党も武漢ウイルスを防ごうとして、また経済苦境を回復しようとして、10万円をしているのではない。選挙に負けるからしているに過ぎない。
    する気があるなら、法制上強制できる東名体制ではないから、要請しているという憲法上の欠陥、国家無答責と戒厳令がないことを言うはずです。
     伝統的な倫理観、習慣がものを言うに過ぎない。
     堅気の商売でないから、困るのが当たり前
    が伝統的な見方でしょう。
     いずれにしても10万円配ることが有効か、上記の考えが有効化は一年もすれば見える。
     現状は戦争と同じで戦場がそれぞれの国内というに過ぎない。
    マスクについては、いろいろな業者がぼろもうけできるとみて、サンユウしているのが実情で、知人はいつの間にかマスクを多く持っており、来たお客に確か一枚ずつ配っているという、商魂たくましいわけだが、彼らがこの苦境を乗り切る原動力となるでしょう。
     本日も専業でないところから、日本製で、50枚2750円でどうですかときた。買わないけど、経済が動く方向へと、政策をしないとうまくいかない。
     本質は風俗業に働いている女性の救済ができるような政策なら、うまくいくがないなら、二の策、三の策に過ぎない。
     負債経済だからその負債の返済ができなくなるから、金融危機へと進むが、お金はすればいいから、それをすることになり、それが一番コストが少ないと思う。
     個人的には政府は無策で、実質何もしないとみている。政府組織が今回のような事態に対応する仕組みがないからで、戦争をする相手に対応する戦備を持ていない、ことと同じです。
     伝えられるような状態が続くと自殺者が続出する。治安が悪化する。
    それを政府関係者は予測しているだろうか?
     平等、公平、差別といった概念を破壊していく。貧富の差はさらに開くが、その先は何だろうか?わが町内を見ると怖い。

  2. itea より
    100

    今回は読んでいてぐっちーさんが乗り移っているかのような感があり
    感銘を受けた。ホントこの分析の通りだなと思った。

  3. itea より
    100%同意

    今回は読んでいてぐっちーさんが乗り移っているかのような感があり
    感銘を受けた。ホントこの分析の通りだなと思った。
    こいいうこと言ってそう。

    アナリストの矢島さんだか副島さんだったか忘れたが、平時と緊急時の
    差があまり理解できてないのが日本の政府と言ってたのを思い出した。
    それは現実で変えられないのだから、
    我々は批判しながら付き合っていくしかないのだろう。
    完全な政治なんてどこの国にもないし。

  4. X より
    できない理由は皆同じ

    格差是正・貧困救済・休業補償なら、単純に消費税30%にして、20%分を人口で割って均等に配れば宜しい。一人当たり、生活保護費の1.5倍くらい貰えるので格差も是正され貧困も救済されコロナで休業しても困らず、増税分も全てばら撒かれるので景気に悪影響もなく全て解決します。
    それ以前に60歳以上のみ自粛隔離外出禁止にしておけば、犠牲者も最小限、経済的被害も最小限で抑えられ、補償も不要でした。
    そして上の二つができない事と、政府が機敏に危機に対応できない事、そのような時に十分な信任が得られない事は全て同根です。それが日本社会安定の基盤でもあるのでしょうが、欠点でもあるわけです。これこそ不都合な真実の三題です。
    6月で一旦落ち着きますが、コロナ恐怖症は簡単に克服できないので、その後も必要以上に慎重な対応が続くでしょう。これは新型インフルエンザの時と異なる展開です。実際に色々な場所に行って町を見てみると、今経済活動を戻せば、力強く回復する感触があります。しかし、来年まで延びればどうなるか?
    経済危機は古いプレイヤーが退出して、新しい参入者を増やす効果もあるので、今後倒産や失業者が増える事自体が将来の経済見通しを必ずしも暗くするものではありませんが、今回はどうでしょう。

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