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The Gucci Post [国際政治・経済・金融 × プロフェッショナル]

2020/04/06 06:30  | by Konan |  コメント(1)

Vol.50: 短観のこと


今回は、Twitterでも簡単に触れた日銀短観(4月1日公表)の紹介です。最初に短観とは何か解説し、次に今回の特徴や次回の予想を説明します。最後に、短観から離れ最近聞いた「感染症と戦争が経済に与える影響の違い」について触れてみます。

短観は「全国企業短期経済観測調査」の略称です。四半期に一度、日本銀行調査統計局が作成・公表する統計で、公表時期は4月初(3月短観)、7月初(6月短観)、10月初(9月短観)、12月央(12月短観)です。1957年に開始された歴史ある統計です。

短観は全国1万社弱を対象にしていますが、回答義務も無いのに回答率が99%に達する驚異的な統計です。この高い回答率は、速水総裁や白川総裁時代のように日銀の評判が悪化した際も維持されました。対象企業からもこの統計の大事さが十分認識されているからではないかと想像します。

対象企業は、製造業/非製造業、大企業/中堅企業/中小企業に分けられます。短観の弱点は、大企業のカバー率が高い一方、中小企業は5千社ほどで、中小企業数の多さに比べカバー率が高くない点です。また、中小企業と言っても資本金2千万円以上に対象が限られるため、所謂零細企業は対象外です。このため、「短観は実態を反映しない」と批判されることもあります。この批判はその通りですが、過去との比較、あるいは今回のように「上澄みの中小企業ですらこれほど悪化」という実情を知る上で、十分有益な情報と思います。

短観調査は大きく分けて2つに分かれます。ひとつは、報道等で良く用いられるDI。Diffusion Indexの略です。簡単に言えば企業に三択のアンケート(「良い」「普通」「悪い」とか「増えた」「横ばい」「減った」など)を行います。例えば1万社のうち「良い」が1千社(10%)、「普通」が3千社(30%)、「悪い」が6千社(60%)とすると、真ん中の30%を無視して10%から60%を差し引いたマイナス50がDIとなります。このDIの中で最も注目されるのは「業況判断」で、報道も大体この数字に焦点を当てます。この他 「雇用」「資金繰り」「需給」などの項目があります。

もうひとつは、売上高、経常利益、設備投資などに関する「実額」で、前年比増減額で結果が示されます。

DIは「1社1票」で、超大企業の回答も資本金2千万円の中小企業の回答も同じに扱われます。他方、実額は当然大企業が圧倒するので、全体の数字が大企業の動きに左右されます。こうしたこともあり、大企業/中堅企業/中小企業の区分けが重要になってきます。

以上が前置きですが、では今回の3月短観はどうだったか?このブログの弱点は計表が上手く書けないこと。形が崩れるかもしれませんが、以下が業況判断DIの前回調査(昨年12月)、今回調査(3月)、6月までの先行き見通しの変化です。

   大・製 堅・製 小・製 大・非 堅・非 小・非 全体計 製造業 非製造業 
前回   0   1  -9  20  14   7   4  -4  11
今回  -8  -8 -15   8   0  -1  -4 -12   1
先行き-11 -20 -29  -1 -14 -18 -18 -22 -14

特徴をいくつか挙げます。

・前回を見ると、製造業(全体)は既にマイナス4でしたが、非製造業(全体)はプラス11と「良い」と答えた企業が「悪い」と答えた企業を上回っていました。中小企業に限ってもプラス7でした。消費税率引上げ後も意外に非製造業の業況感は持ち応えていた訳です。製造業は、新型コロナウイルス感染症問題発生前の段階で、独り勝ちだった米国以外の景気悪化の影響を受け、既に業況感がマイナス圏内に落ち込んでいました(大企業製造業ですらプラスマイナス0)。

・今回は、製造業(全体)がマイナス12に、非製造業(全体)がプラス1にそれぞれ大幅悪化しました。短観の報道では、製造業が日本の中心だった時代の名残で「大企業製造業」の業況判断DIに注目が集まりますが、マイナス8と7年振りのマイナスとなりました。また、新型コロナウイルス感染症の影響が大きい宿泊・飲食サービス業では、大企業でマイナス59(前回プラス11)と極めて大きく落ち込みました。

・しかし、報道によると今回調査では約7割の企業が3月上旬中に回答を済ませたようで、新型コロナウイルス感染症の影響がフルに反映されているとは思えません。例えば売上高(全体)は2020年度プラス0.1%と、僅かながらも増収予想です。設備投資計画(全体)も2020年度マイナス0.1%とほぼ横這い予想です。雇用人員判断(全体)も前回マイナス31(「不足」の回答が「余剰」の回答を上回るとマイナスなので、このDIはマイナス幅が大きいほど景気が良いことを示します)より少し落ちましたが、それでもマイナス28です。資金繰り(全体)も前回プラス16から今回プラス13と小幅悪化にとどまります。

・今回調査でも既に先行き大きな業況判断悪化が予想されています(全体で今回マイナス4からマイナス18への悪化を予想)が、7月1日公表予定の6月短観は、その予想通りあるいはそれを上回る悪化になると考えて間違いないように思います。

短観の紹介は以上です。最後に、最近「感染症」と「戦争」という人口が大きく減少する危機を比較し、戦争後はインフレの可能性が高まるが、感染症後はむしろデフレリスクが高まるとの考え方を続けて見聞きしました。

とても単純に言えば、戦争では建物や設備が破壊されるため、戦後の復興で投資が増え、それが需要増、金利高、物価高を招きます。他方、感染症の場合は建物や設備は維持されます。また生存者の貯蓄性向も高まり勝ちです。こうした状況下ではむしろ物価や金利は低下傾向を示します。

これは必ずしも悪いだけの話しではありません。感染症対策のため財政出動した場合、国債の金利負担が少なく済むからです。財政を気にして感染症対策の手を緩めることは許されないとの主張につながります。アベノマスクや現金給付で「世帯」が改めて注目されています。この是非はさて置き、一世帯30万円は必要な額に比べとても少なく見えます。しかし、(実際は所得制限が入るのでこれよりずっと少額に止まりますが)日本の世帯数約5,700万を単純にかけると17兆円と結構な金額になります。米国の一人千ドルも似た構図です。これをケチってはいけないという話しになります。

今週、経済対策が出されます。現金給付には(そしてアベノマスクにも)ピンとこない面があります。次回(以降)改めて取り上げたいと思います。それにしても緊急事態宣言、今週出されるのでしょうか?個人的には飲食店や旅館を経営する知人たちがとても心配です。

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One comment on “Vol.50: 短観のこと
  1. 健太 より:
    強者と弱者

     結局、弱いところが打撃を受けるにすぎず、それは誰も知っている。
    統計資料より近辺の家庭を見ると、経済が縮小すれば、ローンで家を建ている人の割合から考えると、大変なことになる。支払う原資がなくなるからです。104件のうち22件がローンを抱えている。パーセンテージで22パーセントです。ここが支払い不能になれば、何が起きるか?そのほか一人家庭などがあり、アパートに住む人まで含めると、所帯は104ばかりでない。
     30万配って何ができる、配って解決ができる問題ではない。
    自動車産業で10人に一人食っているという。その自動車産業が現状を維持できるか?
     誰も先が見えない。
    治安の維持もできなくなる可能性もある。その上。南北朝鮮で戦争の可能性も見える。それと金融機関の危機が発生する。
     6,7月になると風景がさらに寒々とした世界が来ているのでは、いや来るとみている。
     大体政府はやるきがない。その証明は公的機関の給料を30パーセント削減し即座に実施すると宣言しない。そのわけは税収が減るから払えない。それが政府の置かれた位置で、それすら把握していないんでは?
     

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