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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2020/03/30 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.49: 月例経済報告2020年3月


今回は26日に公表された内閣府月例経済報告を紹介します。Twitterで触れたとおり、また各種媒体でも報道されたとおり、「回復」の文字が6年9か月振りに消えたことが話題となりました。

(現状)
・全体:景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、足下で大幅に下押しされており、厳しい状況にある
・個人消費:感染症の影響により、このところ弱い動きとなっている
・設備投資:おおむね横ばいとなっている
・住宅建設(投資):弱含んでいる
・公共投資:底堅く推移している
・輸出:弱含んでいる
・輸入:感染症の影響により、このところ減少している

(先行き)
・全体:感染症の影響による厳しい状況が続くと見込まれる。また、感染症が内外経済をさらに下振れさせるリスクに十分注意する必要がある。金融資本市場の変動等の影響を注視する必要がある
・個人消費:感染症の影響により、弱い動きが続くと見込まれる
・設備投資:成長分野への対応等を背景に、持ち直しに向かうことが期待されるが、感染症の影響に十分注意する必要がある
・住宅建設(投資):弱含みで推移していくと見込まれる
・公共投資:関連予算の執行により、底堅く推移していくことが見込まれる
・輸出:海外経済の減速から弱い動きが見込まれる。また、感染症によるインバウンドへの影響及び海外経済の更なる下振れリスクに十分注意する必要がある
・輸入:感染症による供給制約の影響が続くと見込まれる

一言で言えば総崩れです。因みに前月の判断は「景気は、輸出が弱含むなかで、製造業を中心に弱さが一段と増した状態が続いているものの、緩やかに回復している」でした。

なお、3月16日に日銀の景気判断も公表されています。政策対応が前面に出たためスタイルが通常と異なりますが、

・現状:わが国の景気は、新型コロナウイルス感染症の拡大などの影響により、このところ弱い動きとなっている
・先行き:当面、新型コロナウイルス感染症の拡大などの影響から弱い動きが続くとみられる。その後は、各国の対応などにより感染症拡大の影響が和らいでいけば、所得から支出への前向きな循環メカニズムに支えられて、緩やかな拡大基調に復していくと考えられる
・リスク要因:新型コロナウイルス感染症拡大の帰趨、それが内外経済に与える影響の大きさや期間、保護主義的な動きとその影響、地政学的リスク、最近の原油価格の動向

と、政府より少しお気楽な印象も受けます。

最近、森友学園問題が再び世間の注目を集めています。私は佐川前国税庁長官を存じ上げているので複雑な気持ちで見ていますが、この問題の核心とも言える「忖度」が、内閣府の景気判断を歪めてきたのではないかとの批判が根強くあります。

現在の景気局面は2012年11月を「谷」として始まり、もし昨年2019年1月まで景気拡張が続けば、過去最長だった小泉政権時の「73か月間」(通称いざなみ景気)を越え、戦後最長になっていました。ところが、まさにその頃から景気動向指数が下降し始めました。また、昨年10月の消費税率引上げの影響で昨年10~12月期の経済成長率は前期比年率で-7.1%と大きく落ち込みました。それにもかかわらず「回復」との表現が維持されました。ここには、消費税率引上げを実現したい、その後の批判をかわしたいとの忖度的思いが働いていたように思います。

また、以前も何度か書きましたが、景気の「山」「谷」判断はすぐ行われる訳ではなく、1、2年経過後、様々な経済指標を振り返ったうえで専門家により決定されます。安倍政権下における景気回復の「山」がいつだったか、その判断は恐らく来年に持ち越されると思います。その時点で安倍さんが総理にとどまっているか分かりません。ただ、今の内閣における様々な出来事を考えると、ここでも「忖度」が働き、無理やりにでも「山」を2019年1月以降に設定しようとするのではないかと思います。そうすれば、安倍総理のレガシーのひとつとして「戦後最長の景気回復を実現した」「小泉総理より上」と言えるわけです。

さて、暫く前に中国、世界、日本の経済見通しに触れたことがありました。その時点から各種の予測は大きく下振れています。

中国は1、2月の各種指標が衝撃的なマイナス幅となり、また、4月以降の回復もV字でなくU字と言われるようになりました。このため、2020年の成長率は精々+2%程度との見方が有力になっています。

世界についても、リーマン危機後最低だった昨年(+2.9%)を下回ることは勿論、欧州や新興国の落ち込みに足を引っ張られ、2020年マイナス成長が視野に入ります。

日本はオリンピック延期による需要先送りもあり、本年マイナス成長がほぼ確実な情勢です。

こうした数字作りには難しさもあります。ひとつは感染症の影響が読めないこと。中国における終息が仮に確かとしても、欧州、米国、新興国、そして日本における終息時期は誰も予見できません。また、サプライチェーン混乱や中国人インバウンド減少を遥かに超え、各国の経済活動が停止状態に陥っていますが、終息後これが元の水準まで回復するか、回復までどの程度時間がかかるか、ネット販売やUber Eatsのようなサービスでどの程度埋め合わせが出来るかなど、なかなか読めません。

また、米国はじめ各国で巨額な経済対策が打ち出されています。これが景気にプラスであることは言うまでもありません。ただ、経済対策がGDPをどの程度押し上げるか、効果の大きさには不確実性が残ります。例を3つ挙げます。

ひとつは企業の資金繰り支援。倒産を回避出来れば従業員の雇用が維持され、GDP上は従業員の個人消費がある程度維持されます。また、感染症終息後企業が活動を再開しやすいので、GDP回復の可能性も高まります。ただ、感染症が続く間、その企業の活動が停止しGDPが落ち込むことまでは回避出来ません。

次に以前も触れたヨガの先生。素敵な先生の例をまた持ち出すのは気が引けますが、そのうえで、先生に失業給付が支払われれば、先生の個人消費落ち込みをある程度防ぐことができます。しかし、先々の不確実性が恐く給付の一部を取っておこうとするかもしれません。感染症が続く間、ヨガ教室というサービス需要が消える事実を変えることも出来ません。なお、旅行券や商品券的な発想は、感染症終息後の需要回復を助けることを狙ったものですが、実際にどの程度使用されるか効果は未知数です。

もうひとつは対策実施のスピード感。企業の場合、月末や期末など資金繰りの節目に間に合わないと、効果が大きく減じてしまいます。トランプ大統領の2兆ドルは評価されていますが、各州の当局が実際に失業手当支給事務を捌くことが出来るか、疑問視する声も米国メディアでは聞かれます。

残念ながら霧はなかなか晴れそうもありませんね。

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