プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2020/01/20 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.40: 今年のこと(2)


前回に続き今年の展望めいたことを書こうと思います。今回は経済編です。前回(政治編)は当たり外れはさて置き「予想」でしたが、今回の経済編は予想ではなく、今後の経済をみる上での留意点をいくつか並べることとします。

テーマは5つです。
1.米国と他地域の違い
2.地政学の影響
3.格差の拡大
4.気候変動
5.金融政策、金融システム

1.米国と他地域の違い
ぐっちーやSaltさんのメルマガ読者は、ここ数年米国経済の好調さを叩き込まれてきたと思います。実際米国経済は好調です(先行きについてはぜひメルマガをご覧下さい)。他方、IMF(国際通貨基金)の世界経済見通しによると、昨年(2019年)の世界経済成長率は+3.0%と、リーマン危機後最低の水準に落ちこみました。IMFは3か月に一度見通しを更新しますが、その都度下方修正された格好です。要は世界経済は良くありません。

私が子供の頃、「米国がくしゃみをすると日本は風邪をひく」と言われました。読者の中でこの表現をご存知の方が何割程度おられるか興味あるところですが、それほど世界経済における米国の存在感が大きかった訳です。今でも米国は世界第一の経済大国です。米国の好不調は間違いなく世界経済に波及します。しかし米国単独で世界を牽引する力は最早ありません。他方、ぐっちーが何度も書いたように、米国経済は輸出依存度が低い自立(自律)した経済です。非米国経済の不調に拘らず好調を続ける実力を持っています。

米国以外の主な経済圏は欧州(EUないしユーロ圏)、中国、日本、東南アジア等の新興市場国、中東等の資源国です。これらの地域は中国経済の好不調の影響を受けやすくなっています。現在、中国経済には3つのことが同時に起きています。第1にかつて2桁成長を続けた力は最早ありません。成長率は6%台から5%台に低下しつつあります。これは例えば戦後の日本にも起きた成熟化に伴う自然な流れです。第2に過剰設備や債務への対応の必要性です。中国は過去にかなり無駄な投資を行いその整理が必要です。このため、成長率が一段と押し下げられます。第3は以下の「地政学」で記します。

日本や東南アジアは中国とサプライチェーンでつながります。資源国経済は対中輸出に左右されます。欧州の中でも例えばドイツは中国向け輸出にかなり依存しています。「中国がくしゃみをすると、(風邪までひかないとしても)他国もくしゃみをする」状況と言えるでしょうか。

なお、ややテクニカルな論点として「半導体サイクル」の存在が指摘されます。様々な技術革新が進み電子機器が新世代に入ることが世界経済の牽引役となる一方、それが停滞すると経済にマイナスの影響を与えるという4年周期ほどの「波・サイクル」が存在すると言われます。昨年はこの下降局面にあったようで、世界経済減速の影の主役となった可能性があります。このサイクルが今年は上昇に転ずるという見方が有力な一方で、先日「世界シェアが圧倒的なインテル社がプロセッサの世代交代に失敗を続けており、サイクルは当面上昇に向かわない」というとてもマニアックな(しかし大事な)記事を見かけました。真偽の判断能力は私にはありませんが、注意したいと思います。

2.地政学の影響
米中貿易戦争は、米国経済には余り影響を与えていませんが、中国経済には結構なダメージを与えています。中国の輸出が減っていると言うより(対米輸出を例えばベトナム経由で行うなど抜け道があるようです)、元々成熟化に伴い成長率が減速傾向にあり、また過剰設備・債務の処理を進めていた中で先行きに対する不透明感が強まったため、投資や自動車購入が落ち込んだことが背景のようです。米中貿易戦争の帰趨についてはJDさんの分析にお任せしますが、単に政治的な意味合いに止まらず、世界経済にとっても重要な論点であることは意識するべきと思います。

経済への影響の点では、中東とくにイラン情勢も見逃せない論点です。米国シェールの増大、後述する再生可能エネルギーの拡大、また世界経済の減速により需要が然程強くないことなどの需給緩和要因があるため、原油価格急騰といった事態は避けられるように思いますが、それでも日本を含む世界経済にとって引続き大事な点と思います。

3.格差の拡大
日本でもこの話題を多く聞くようになりました。世界全体をみると、中国やインドのような人口超大国の成長に伴い貧困が減っているとのデータもあるようで、恐らくこれは事実と思います。他方、米国や欧州のような先進国で不平等・格差に対する意識が強まっています。最近ある米国のPodcast番組で聴いたのですが、米国では平均寿命(余命)の伸びが止まったそうで、その背景に貧困層の薬物等への依存問題が指摘されるとのストーリーでした。この真否を確認出来ていませんが、ロシアでは現にこの問題が深刻な現実になっているとの話しは良く聞きます。

民主党大統領候補者選びでは、サンダース、ウォーレン両氏が引続き生き残っています。仮に米国人の1/3が民主党支持(1/3が共和党、1/3が中間)、その4割が2名何れかの支持者と考えると、米国の13%が「左派」であることになります。社会主義という言葉をトランプ大統領は悪口として使いますが、見方によっては米国の1割は社会主義に近い考えを持っていると言えるわけです。欧州の選挙では、日本では右派の躍進ばかり報道されますが、実際には中道がへこみ、右派と左派・グリーンがそのへこみを奪う構図です。

この問題は、ひとつには各国・地域の政治情勢(誰が大統領に選ばれるかなど)に大きな影響を持ちますが、経済との関係では財政政策のあり方と関連してきます。MMT(Modern Monetary Theory)は「財政赤字は問題ない」と主張しますが、このMMTはウォーレン候補と結び付いていると言われます。日本では財務省が引続き頑張っていますが、低金利の継続を背景に「国債の利払いが気にならないのだから、もっと財政をふかせ」との声が強まる可能性もあります。

4.気候変動
類義語としてSDGs(Sustainable Development Goals)やESG(Environment、Social、Governance)もありますが、ここでは気候変動に焦点を当てます。日本でも小泉大臣の活躍ないし失態や、スウェーデン少女グレタさんの存在で急速に関心が高まっていますが、欧州は完全にモードが異なり、日本の遥か先を進んでいます。

単純に言えば、産業革命前に比べ気温上昇を+2度(できれば+1.5度)以内に抑えないと世界は大変なことになる、抑えるためには二酸化炭素のネット排出(排出マイナス吸収)をゼロに抑える必要があるという話です。昨年の日本の異常気象や今も続くオーストラリアの森林火災をみても、この議論を無視できない気持ちになってきます。

この問題は短期的には風水害や山火事の被害(これを受けた損害保険会社の損益)に結び付きますが、少し長い目で見ると、例えばオランダや中国沿岸部が水没するといった問題、EV等を生産できない自動車会社が淘汰されるといった問題、発電が石炭・石油依存から再生可能エネルギーにシフトするといった問題に結び付いていきます。食生活も、二酸化炭素排出が多い畜産業が縮小し、ビーガン的なものに変化していくかもしれません。

ぐっちーも時々書いていましたが、この問題は地球規模で極めて重要な死活問題となり得るのみならず、個社株式投資のような側面でも企業間の差が大きく出得るテーマです。今後このコーナーでもう少し詳しく書こうと思いますが、重要性が益々高まる論点と思います。

5.金融政策、金融システム
日銀の金融政策については今後も追いますが、今回はもう少しざっくりとした話しです。米国を含む先進国では潜在成長率(経済の実力)が徐々に低下しています。中国も同様です。他方、期待インフレ率は落ち着いています。名目金利は原理的・中期的には「実質経済成長率+期待インフレ率+リスクプレミアム」で形成されますが、先進国では最早余り金利が上昇しない構造となっている訳です。

ベースとなる金利水準が低いので、マイナス金利政策が可能とは言っても中央銀行の金融緩和余地は限られ、「異次元」「非伝統的」政策にしか活路を見出すことができません。このため、ひとつにはMMTのような拡張的財政政策への期待が高まる構図にあります。

もうひとつ大事なのは、金利が低い環境はバブルを引き起こしやすいという点です。バブルの崩壊は金融システムに打撃を与え、12年前の二の舞(日本で言えば1990年代の二の舞)となる恐れがあります。世界経済はこうしたナローパスの中を歩んでいると言えないでもありません。

6.最後に
今回は書きなぐりとなりました。落ち着いたところで各テーマを少し掘り下げてみたいと思います。また、人口動態(高齢化や人口減少)のように今回取り上げていない重要テーマもあります(手が回りませんでした)。

なお、焦点を「今年の日本経済」に絞ると、消費税率引上げの影響の大きさ、オリンピック・パラリンピック後の坂の大きさ、世界経済の回復度合いの3つに規定されると思います。ある程度の落ち込みは財政政策で補うことも出来ますが、そもそも人手不足の状況下、予算を増やすことは出来ても公共投資の実行を増やす余地は無く、経済を上向かせるというより落ち込みを防ぐ機能しか持ち得ません。

とりあえず今年は地政学で異常なことが起きず、世界経済が少し回復に向かうことを祈りたいと思います。

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