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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/12/02 06:30  | by Konan |  コメント(1)

Vol.36: 月例経済報告2019年11月+GDP速報7-9月期


今回は、表題通り11月の内閣府月例経済報告(22日公表)と7-9月期GDP速報(1次速報、14日公表)を紹介します。10月初の消費税率引上げの影響は10-12月期の数字まで見ないと見定めることは出来ませんが、その前哨戦的位置付けでしょうか。なお、日銀の金融政策決定会合は11月お休みです。

まずは月例経済報告から。

(現状)
全体:輸出を中心に弱さが長引いているものの、緩やかに回復している(内閣府)
個人消費:持ち直している(内閣府)
設備投資:機械投資に弱さもみられるが、緩やかな増加傾向にある(内閣府)
住宅建設(投資):弱含んでいる(内閣府)
公共投資:堅調に推移している(内閣府)
輸出:弱含んでいる(内閣府)
輸入:おおむね横ばいとなっている(内閣府)

(先行き)
全体:当面、弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題を巡る緊張、中国経済の先行き、英国のEU離脱の行方等の海外経済の動向や金融資本市場の変動の影響に加え、消費税率引上げ後の消費者マインドの動向に留意する必要がある(内閣府)
個人消費:雇用・所得環境が改善するなかで、持ち直しが続くことが期待される。ただし、消費者マインドが消費に与える影響に留意する必要がある(内閣府)
設備投資:高水準の企業収益や成長分野への対応等を背景に、緩やかに増加していくことが期待される。ただし、企業マインドが投資に与える影響に留意する必要がある(内閣府)
住宅建設(投資):当面、弱含みで推移していくと見込まれる(内閣府)
公共投資:関連予算の執行により、堅調に推移していくことが見込まれる(内閣府)
輸出:再び持ち直していくことが期待される(内閣府)
輸入:持ち直していくことが期待される(内閣府)

文言は10月とほぼ不変です。あえて言えば、上記で記していない企業収益に関する表現が、10月の「高い水準で底堅く推移している」から「高い水準にあるものの、製造業を中心に弱含んでいる」とされ、このところの製造業部門の不調が収益面にも表れていることに言及されました。

次に7-9月期GDP1次速報。今回はやや解釈が難しい結果となりました。GDP全体では、前期比+0.1%(年率換算で+0.2%)と僅かなプラスです。国内需要は前期比+0.2%、年率換算+0.9%、寄与度+0.2%。純輸出の寄与度は-0.2%(純輸出=「輸出ー輸入」はマイナスになり得るので、前期比やその年率換算の数字はありません)。要は国内需要の伸びを外需のマイナスが打ち消し、全体として低い成長にとどまった格好です。この辺は海外需要の弱さという最近の状況を素直に表しています。

さて、国内需要ですが、民間需要は前期比+0.1%、年率換算+0.4%、寄与度+0.1%とこれまた低い伸び率です。因みに公的需要は前期比+0.6%、年率換算+2.4%、寄与度+0.1%なので、寄与度は左程ではありませんが、それでも景気を下支えした格好です。

解釈が難しいのは、民間需要の内訳。以下、前期比、年率換算、寄与度順に数字を並べます。在庫変動だけは、純輸出同様数字がマイナスになり得るので(在庫取り崩しの場合)、前期比や年率換算の数字は無く、寄与度のみです。

・民間最終消費支出:+0.4%、+1.4%、+0.2%
・民間住宅:+1.4%、+5.7%、+0.0%
・民間企業設備:+0.9%、+3.5%、+0.1%
・民間在庫変動:-0.3%(寄与度)

まず、住宅投資、設備投資は結構良い数字です。とくに設備投資は息切れが心配されながらも踏みとどまった感じです。次に在庫投資が大きくマイナス方向に寄与しています。内閣府の説明によると、「4-6月期+1.9兆円、7-9月期+0.2兆円と在庫増加額が縮小したため」とされます。この解釈は悩ましいですが、過去の典型的な景気変動を振り返ると、景気が悪化し始めたにも拘わらず生産調整が遅れ、在庫が積み上がり、漸く過大な在庫に気付き、生産を調整する結果、在庫が取り崩されるパターンを描きました。在庫投資がマイナスに寄与するのは、物事が正常化する過程に入ったケースも考えられ、一概に悪いとは言えません。

そのうえで悩ましいのは個人消費(最終民間消費支出)の見方です。9月にかけて間違いなく消費税率引き上げ前の駆け込みがあったはずで(内閣府の説明では、パソコンやテレビの増加が指摘されます)、その割には弱い数字という感じもします。申し訳ありませんが、個人消費の評価には10月や11月のデータを見極める必要がありそうです。

さて、何度か書いたように、世界的に見て製造業部門は不調です。貿易戦争により輸出が実際に減少していると言うより、貿易戦争による不確実性の高まりから投資を控えていることが背景です。他方で、個人部門は概ね堅調です。労働需給の引き締まりに支えられています。この傾向はとくに米国で顕著ですが、欧州や中国でも似たような状況がみられます。

日本の場合、輸出は良くありません。他方公的需要が景気を支え、設備投資も踏み止まっています。そうした中、米国と対照的なのは個人消費好調と言える状況に程遠いことです。消費税率引上げ後、一段と不透明感が強まります。日本でも労働需給はタイト化し、雇用者数は増え、一人当たり賃金も徐々に増えています。しかし、年金を含めた将来への不安のためか力強さに欠きます。

日銀が作っている消費活動指数(実質、旅行支出調整済、2011年=100)をみると、2011年(この年の平均を100として指数が作られます)の後、2012、2013年と指数は少しずつ上昇し、102~104台になります。しかし、前回の消費税率引上げ直前の2014年3月に109.4を記録した後に落ち込み、暫く102程度で停滞します。2017年から103台、2018年から104台、最近では駆け込みもあってか105台(9月は109.5と2014年3月を上回っています)と、ここ数年、少しずつですが回復傾向がみられていました。これが消費税率引上げによりどこまで落ちるか、注意を怠れない状況が続きます。

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One comment on “Vol.36: 月例経済報告2019年11月+GDP速報7-9月期
  1. 健太 より
    誰が考えたって

     消費税そのものは消費を減らすベクトルが働くことは、たぶん誰でも思う。国内経済の6割が消費だそうだから、これが減る。すると税収が減り、国債発行が増え、財政再建は遠のく。
     なぜ、そんな分り切った増税をするのか。
    腹の底では心底、なんとかうまくいくと思っているのではないだろうか?

     確かに10パーセントになったが、商品の中身の重量が減ったものがある。
    書きにくいが、腹の底ではインフレになった方がいいと思っている、上層部ばかりではないか?

     戦前、国内に政治、経済的関心がある人々は、確か局長クラスまで殺しに行った。その象徴が5.15事件や2.26事件だが、その伝統はどこへ行ったのだろうか。

     今回関係ないが裁判員の判決を破棄した高裁、最高裁の判決が出たが、常識がない裁判官と同じように、増税をしたことは、彼らが普通の現象を認識できないのではないだろうか。

     裁判官たちは裁判員裁判の判決を踏襲することは裁判官のメンツが立たないというくらいで、破棄しているとは大半の日本人は思っていることを裁判官たちは思わないだろうか。
     我が国の前途は多難でしょうなあ。それも普通ではないと思う。
     

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