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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/11/18 06:30  | by Konan |  コメント(5)

Vol.35: 日銀金融システムレポート2019年10月


今回は、10月24日に公表された日銀金融システムレポートを取り上げます。旧ひとり言の頃は金融庁からまとまったレポートが公表されていなかったので、公的当局の金融システムに対する見方を紹介する場合、日銀のレポートしか手掛かりがありませんでした。最近では年1回金融庁からもレポートが出されますが、慣例を守り、4月、10月と年2回公表されるこのレポートの紹介も続けたいと思います。日銀からは、全文、概要、要旨の3バージョンが公表されていますが、下記には概要のURLを載せておきます。

この概要の5頁を見て頂くと、日銀の関心が良く分かります。大きな環境認識として、金融機関の国内預貸業務の収益性の低下が続いています。この原因を作っているのは日銀のマイナス金利政策なので、金融機関からすれば「反省して欲しい」となると思いますが、要は金利水準が低下する過程で、金融機関間の競争激化もあり貸出金利が大きく低下している一方、預金金利をマイナスには出来ないので、貸出と預金の利鞘が縮小している訳です。

こうした事態に直面した金融機関では、収益確保に向けたリスクテイクの積極化を図っています。メガバンクなどの大手行では、とくに海外での貸出や投資を増やしています。地域金融機関では、国内で不動産業向け貸出やミドルリスク企業向け貸出を増やしているほか、海外の金利、株、為替、信用等のリスクを内包した有価証券投資を増やしています。

こうした貸出や投資の増加は「背に腹は代えられない」事情にあり、致し方ないことです。しかし、例えば将来国内景気や海外景気が悪化したら、リスクが顕在化し金融機関経営に悪影響を及ぼします。金融機関にはこうしたリスクへの備えや管理を確りとしてもらいたいものです。では、金融機関にそうしたリスクへの備えがあるのか、このレポートを通じて分析がなされていきます。

日銀が気にしているのは、主に次のような点です。

・国内で、既に水準としては低いとは言え「信用コスト」(専門用語ですが単純に言えば貸倒れ率と思ってください)が増加し始めていること。
・同じく国内で、不動産業向けの貸出がバブル期を上回って増加しており、その対GDP比率のトレンドからの乖離幅がバブル期以来の水準になっていること(これも分かり難い表現です。不動産業向け貸出の対GDP比率水準はバブル期の方が低かったのですが、その伸びの勢いが激し過ぎました。この勢いに近付いてきたという含意です)。
・国際金融面では、外銀からの外貨資金調達が増え、また、外銀と同じ先への貸出や投資が増える傾向にあるので、欧米等海外金融環境の影響を受けやすくなっていること。

いろいろと分析したうえで、以下のように結論付けています。

・わが国の金融システムは全体としては安定性を維持している。リーマンショックのような事態が仮に再来しても、これに対する相応の備えを持っている。
・ただ、とくに地域金融機関では、リスクテイク積極化に見合うリターンを確保できておらず、自己資本比率が緩やかな低下を続けている。こうした事態が続くと心配。
・こうした中、金融機関では経営効率性の改善に必死に取り組んでいる。この努力は長い目で見た金融システムの安定にある程度の効果を持つ。

上記以外にも様々な記述がありますが、骨子はこんな感じと思います。

さて、前回紹介した金融政策決定会合では「次は利下げ」との考え方が滲み出る新たなフォワードガイダンスが設定されました。こうなると、とくに地域金融機関は一段と追い込まれます。この点に関しいろいろな考え方があり得ます。

(A)金融政策を考え直すべき。学界でもリバーサルレートと言う概念が真面目に議論され始めています。旧来の経済学では金利は下げれば下げるほど経済を刺激すると考えられてきました。しかし、金利低下に伴う金融システム不安定化の可能性を考慮に入れると、一定限度を超えた利下げは経済にとって却ってマイナスの効果を及ぼすという議論がリバーサルレートの骨子です。この考え方を採用すべきか?

(B)金融機関がもっとリストラや統合をすべき。まだまだ雑巾を絞る余地はあるだろう。実際、政府は独禁法を来年の通常国会で改正し、地域金融機関統合を促進する方向です。また、私は実態を良く知りませんが、SBIと福島銀行の提携のように、この手助けを買って出るファンドも登場しています。

(C)預金口座維持手数料を導入し、預金者に負担させるべき(ないしは預金金利マイナス化を認めるべき)。日本の金融業の手数料収入は(読者の方の直観に合わないと思いますが)欧米より低いことは事実です。ただ、この方向への理解が得られるか?

来年以降、答えが迫られてくるように思います。なお、次回はもう12月。9日と23日に掲載しようと思います。今年は本当にはやかった…

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5 comments on “Vol.35: 日銀金融システムレポート2019年10月
  1. ぺルドン より
    昨今

    確かに流れが速いですね。
    これは内外共にでね。大統領選挙が終われば、又時の流れが緩慢になるかな共考えられるのですが、まだまだ不透明感は拭えない。

    否応なく、大手銀行は外に打って出なければならず、力量が試される。まさか
    中国に深入りしてないでしょうねとは、思いますがはてさて、それも怪しい。

    地方銀行の統合はさけて通れそうにない状況だとすると、日本橋も霞が関も永田町も、安眠は出来そうにない雰囲気なのか・・konanさんの分析が楽しみではあります・・・( ^ω^)

  2. 健太 より
    素人考え

     資本不足の世界では預金を集めて、それを貸し出し、経済を動かす。やがて経済が成熟して、資本が余りだすと、貸し出しはふえない。国内の資本は貿易で生み出された、主戦後日銀は貿易手形をもとに紙幣を発行したことをみればいい。
     貸し出しの需要がない。それならその資金は貿易を通じて海外へいく。
    ところが我が国国民は投資をしない。生活面や意識面においても投資を日常的に扱う資質がない、一部の人にあるだけで、逆にその落差を利用して、海外投資をして利益を得ている。これを別の形態に持っていくには意識を変えないと無理だと思う。
     クラウンディングによる資金を得て、できるように税法その他を替えることが必要で、金融政策ではむりではないか。
     つまり経済の問題ではなく制度、意識の問題だと思う。
    意識の変革は簡単ではないから、現状がずるずるつずく。その間に経済は動き、どこへ行くかは不明でしょう。
     国内の貧困化は進んでいることはスーパーにおける買い物の様子を見ればいい。
     素人勉強で思っているが
     経済をよくする方法はないが悪くする方法はいくらでもある、これは公理のようなものだ、したがって経済政策はそれをすると悪くなる可能性が大である認識を最初にしてするしか道はない。それはかかわる人だれでも共通の認識として進むことではないか?
     今度の消費税増税はそれからみると、思わぬ影響が出てくる。それは事前の予測とはまったく、違うものでしょう。ただ単に消費がへって、GDPが減るだけでははない。税収の減少を心配しているだけのようで、しかもそれは問題とはならないと思っているようだ。
     思うに経済政策は戦争を始める決断の前のような、あの震えるような恐怖心を持つ必要があるが、我が国の上層部は何をしてみても、腹の底では何とかなるとしか思ていない気がする。
     勤めていた会社は従業員が徐々に減らし、最後には閉鎖となった、資金を持っていたので閉鎖となったが、それがなかったなら次の一手を考えたかもしれない。しかし、従業員が減っていくことが何を意味して、それがどのようなものかは少し知った。残ったもの負担が増え、荷重労働がふえ、疲労が重なる。その上仕事の規模も小さくなり、以前ならできたものができなくなった。
     我が国経済はあらゆる場面でその現象が起きるとみている。
    そして。我が国の多くの企業経営者はそれを知って行動しているとみている。

  3. 健太 より
    素人疑問

     黒田バズーカを出して、その目的が達成されたか?達成されていない。ならばそれは有効なやり方ではなかったと判断するのが常識人のすることだと思う。そのあとはどこを間違えたかを調べることになると思う。科学実験などは前提や、方法をいろいろ調べる。再現性があるからだが、経済政策はそれができない。最初の分析に元ずく判断でした経済政策によって、前の状態が変化しているからです。
     そこで考えることになるが、世の中にはそれを考えられる人はどこにもないという前提で考えることになる。
     何が言いたいかというと、現状における日銀の政策は今後いくらやっても、効果はなく、無駄ではないか。ほかの方法を考えないとだめだということで、その時ほかの方法というが日銀ができる範囲の事しかなく、方法がその範囲内にあるならいいが(見つけることができる)、ないなら、日銀は何もできないことになる。だったら相手にする必要はないが、それが外の物ならいいが、中のもので、付き合わざるを得ないなら、相手にせざるをえないが、そのあいてが、何ら方法を持っていないとなると、つきあって、落ちぶれるだけではないか?
     関係者全員が其れを知っておりながら、その是正をしないということは戦争でいえば、負けること意味する。

     一つ不思議に思うことは、これだけ金融緩和して、その資金はどこへ行っているか?
     外国ではないか。その外国がますます経済発展をして、その分国内が疲弊する政策を常識ある日本人がとるだろうか。

     確かリーマンショック前に、日銀が引き締めをしたことによて、円キャリーの資金に、巻き戻しがおきて、それによってニュウヨーク株式が下落して、リーマンショックにつながったという文章を読んだ。当時は円キャリーなど知らなかった。
     現在同じ状態ではないか。ただ確かグッチー氏がレバレッジが規制されているから、前回ほどではないと書いていたと記憶する。
     それにしても為替が円安へと進まないのは意外と国内資金は外へ出ていないのではと思うがわからない。又は実質、金融緩和をしていない。

     一つ疑問がありますがどなたか答えていただきたい。
    アメリカ株を買うとするとドルが必要で、円をドルに換える必要がある。それはドルを円に換えることになり、株を買う人の行動は分るが、その時ドルを円に換える人は何を目的にしているか?
     証券会社の人はそれは両替のことで、ドルを買うことではないというようなことを言われた。

     例えば108億円の円をドル投資にするとき、その両替をするとは思えない。
     108億円をドル(1億ドルになります)に換えて投資をするとき、そのシーケンスはどのようなもがあるでしょうか?

     円買い、ドル買いということがどうにもわからない。
    閲覧者のかたで、事例をご存じの方は、お願いします。

  4. 有賀 より
    株投資と為替

    質問の答えになるかわかりませんが、ドル建ての株を購入したなら、ドルで支払いをする必要があり、手持ちにドルが無ければ、円売りドル買いをして調達する必要があります。この行為を両替というのでしょうか。やってる事は同じですね。ドル高になれば、為替差益も得られます。

  5. 健太 より
    両替

     両替は通貨の交換に過ぎなくて、例えば外国へ行ったとき、円を他の通貨に換える。実質通貨が交換されており、その交換業者、両替商がいる、観光に行ったとき、闇ドルの交換と同じでしょう。
     それと外国為替とは為替手形の売り買いで、それは貿易が盛んだと、取引は盛んだが、いまは資本市場が自由化されているから、別に為替手形そのものがなくても、交換できると思う。
     一番疑問に思うことは円売り、ドル買いがあることはドル売り、円買いがある。
    円売りして。アメリカ株を買うとき、その円を買ったドル売りの人は日本国内で、何をするか?
     どうもこの時、円売りと言われているが、内実はそれはされていないのではと思うが、よくわからない。
     いろいろ考えるが、とにかくわからない。

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