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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/09/16 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.30: 月例経済報告2019年8月と金融庁実践と方針


8月後半以降疲れ気味で、ぐっちー同様(同級生ですから当たり前ですが)還暦を意識します。早生まれでまだ58歳ですが、とくに視力が急に落ちた気がします。ぐっちーに倣いハズキルーペを買う方が良いでしょうか。

今回は恒例の内閣府月例経済報告8月分(8月30日公表、なお日銀は8月お休み)と、8月28日に公表された金融庁「令和元事務年度実践と方針」(以前「金融行政方針」と呼ばれたものです)を紹介します。8月末の政府の公表物としては、厚労省所管の年金財政検証の方がインパクトがありましたが、このコーナーで消費税や2000万円問題を取り上げたばかりで、また、自分でももう少し勉強してみたいので、来月以降に取り上げることとします。

まずは月例経済報告。

(現状)
全体:輸出を中心に弱さが続いているものの、緩やかに回復している
個人消費:持ち直している
設備投資:このところ機械投資に弱さもみられるが、緩やかな増加傾向にある
住宅建設(投資):おおむね横ばいとなっている
公共投資:底堅さが増している
輸出:弱含んでいる
輸入:おおむね横ばいとなっている

(先行き)
全体:当面、弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響に注意するとともに、中国経済の先行き、海外経済の動向と政策に関する不確実性、金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある
個人消費:持ち直しが続くことが期待される
設備投資:緩やかに増加していくことが期待される
住宅建設(投資):当面、横ばいで推移していくと見込まれる
公共投資:関連予算の執行により、底堅く推移することが見込まれる
輸出:持ち直していくことが期待される
輸入:持ち直していくことが期待される

7月と比べ公共投資の現状評価がやや強くなりました(底堅い動きとなっている(7月))が、その他は変化なく、話題性に乏しい月例経済報告となりました。ここまで来ると消費税率引上げは止められないので、10月以降の変化に身構えているということでしょうか。

さて、金融庁の実践と方針。正式には「利用者を中心とした新時代の金融サービス~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(令和元事務年度)」というタイトルです。2期目に入った遠藤長官2度目の方針のお披露目となりました。遠藤長官はゴリラのような見かけと異なりとても温厚な親しみやすい方ですが、その分、森前長官と比べ目立たない印象も否めません。また、金融庁としては2000万円問題の後だけに、このレポートの表現振りに相当気を使ったものと想像します。実際、今回の実践と方針を読んでみて、内容がおとなしくなった印象を受けました。ホームページでは、「主なポイント」「重点施策の概要」「本文」と3バージョン掲載されていて、下記のURLには一番簡単な主なポイントのみ載せますが、もし興味があれば、概要や本文に挑戦してみてください。

金融庁の一番のメッセージは「「金融育成庁」として、金融サービスの多様な利用者・受益者の視点に立った3+2の取組みを推進し、より豊かな国民生活の実現へ」とされます。3+2は以下の通りです。

1.金融デジタライゼーション戦略の推進
2.多様なニーズに応じた金融サービスの向上
3.金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保

+1.世界共通の課題の解決への貢献と国際的な当局間のネットワーク・協力の強化
+2.金融当局・金融行政運営の改革

1.は、世界的に進展が著しい技術革新の動きに取り残されるな、というメッセージです。2.は、2000万円問題で主張したかった資産形成の重要性や、高齢者・障がい者等への配慮の大事さ、コーポレートガバナンス改革の推進等を記しています。+1.はG20等の枠組みを活用した国際金融規制等の面での貢献や、国連の持続可能な開発目標の推進、+2.は金融庁自らの改革や、検査マニュアル廃止も踏まえた新たな検査・監督の実践方針を記載しています。

さて、3.金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保。最近問題を起こしているゆうちょ銀行・かんぽ生命保険に関しては、割かれたページ数は多くありませんが、本文の114頁以下で厳しい指摘がなされています。

そのうえで、過去数年と同様、地域金融機関に多くのページが割かれています。「企業アンケートによると、地域金融機関の金融仲介機能の発揮面でこれまでに比べて評価が高まってきた」旨の誉め言葉もありますが、引続き収益面の課題が指摘されます。とくに貸出残高対比どの程度貸倒れが発生したかを示す「信用コスト率」が、低水準ながらも上がってきたことへの警戒感が示されます。安倍政権下の景気回復に支えられ、それ以前に比べ貸倒れが少額に止まり、収益環境が厳しい中でも金融機関が持ち堪えることが出来たひとつの大事な背景となっていました。仮にこの構図が崩れると、途端に地域金融機関は窮地に追い込まれかねません。

こうした問題に対応するため、金融庁は飴と鞭を用意します。飴の最たるものは独禁法上の特例を認め合併・統合がしやすくなる方向での検討や、地域活性化や企業の事業承継円滑化に資するケースでの株式保有規制緩和です。鞭は、以前このコーナーで紹介した、先々の収益見通しに基づく早目の行政措置の実施(早期警戒制度の強化)です。この他、技術的で説明は省略しますが、現在一律の預金保険料率(1000万円以下の預金者を全額保護するため存在する預金保険制度の財源は金融機関が預金保険料の形で拠出します(最終的にはこの負担は預金者に転嫁されますが)。この料率は全金融機関一律です)を、金融機関の健全性により差がつく仕組みに改める方向での検討も打ち出されました。

10月には日銀の金融システムレポートも公表されます。この際、改めて地域金融機関問題に触れたいと思います。

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