2019/02/18 06:30 | by Konan | コメント(2)
Vol.14: FRBの金融安定レポート
今回は、ぐっちーの領域に越境しFRBの金融安定レポートを取り上げます。公表は昨年11月28日と3か月近く前です。この間、FRBの金融政策についてかなり変化がありました。そうした中で本レポートを取り上げるのが遅れたのは、このレポートに気付いたのが(不徳の致すところですが)最近だからです。米国では、財務省中心にFRBも加わるFSOC(Financial Stability Oversight Council)という委員会が国際金融危機後作られ、このFSOCは例年レポートを公表しています。他方、FRB単独でFinancial Stability Reportを出すのは初めてです。因みに日本では新旧CRUのひとり言で取り上げるように、日銀が継続的に同種のレポートを公表しています。とても簡単に骨子を紹介した後、「BIS View対FRB View」に触れます。
レポートは、「目的」「枠組み」「概観」「目先のリスク」の構成です。
「目的」でこのレポートの目的が記載されます。大事なのは次の一文と思います。
Promoting financial stability is a key element in meeting the Federal Reserve’s dual mandate for monetary policy regarding full employment and stable prices.
「枠組み」では、shocksとvulnerabilitiesを峻別し、後者をみると宣言します。shocksは金融や経済環境に対する突然の変化で、この予測は難しいと割り切ります。他方、後者(日本語では「脆弱性」でしょうか)は時間をかけて積み上がり、ストレス時に問題をもたらす(原因のような)ものとします。この脆弱性に関し4つの観点を提示します。
1. 資産価格評価の歪み(英語はAsset valuation pressures)
2. 企業と家計の債務(Borrowing by businesses and households)
3. 金融セクターのレバレッジ(Leverage in the financual sector)
4. 金融機関のファンディング(Funding risk)
「概観」で示された主な分析内容は下記のとおりです。
1. 資産価格評価の歪み
・全体として、資産価格評価とリスク選好は高まっている。
・国債市場では、イールドもタームプレムアムも低い。
・信用リスクが増しているにも拘わらず、ハイイールド社債とレバレッジ貸出のスプレッドは小さい。
・株価は予想企業収益対比で幾分高い。
・商業用不動産価格はここ数年間賃料の上昇に比べ上がり方がはやい。
・農地の価格は歴史的に見て高い。
・住宅価格も上がっている。ただここ数か月はそうでもない。
2. 企業と家計の債務
・家計の借入れは所得との対比で低~中水準に止まっている。
・企業部門の債務はGDPとの対比で歴史的に見て高い水準にあり、信用判断基準劣化の兆しがある。
・民間部門全体の債務は概ね経済活動と整合的な形で増えている。
・ただ、企業部門の債務は歴史的に見て高く、またリスクが大きい債務の発行が最近増えている。
・また、企業向け貸出の一部の信用判断基準が一段と劣化しているように見える。
・企業の中にはレバレッジが過去20年間でほぼ最大に達する先もある。
・家計の借入の増加は所得増加と整合的な動きで、かつ、一部の信用度が低い借り手に集中している。
・住宅ローンの信用リスクはほぼ問題ないようにみえる。
・ただ一部の家計は返済に苦労しているようである。
3. 金融セクターのレバレッジ(Leverage in the financual sector)
・金融セクターのレバレッジは近年低い。
・銀行の資本は強固。
・証券会社や保険会社の健全性も国際金融危機以降強化されている。
・その他の非銀行金融会社に借入れ増加の兆しはあるが。
4. 金融機関のファンディング(Funding risk)
・流動性や資産・負債期間のミスマッチから生じうる脆弱性は現状低い。
・銀行は高水準の流動性資産と安定的調達を実現。
・国際金融危機後、短期資金調達市場で「取付け(run)」が起きるリスクは大きく低下。MMFも同様。
・ミューチュアルファンドの企業債務保有は増加。
・生命保険会社の低流動性資産保有も増加。ただ、危機時に直面したような取付けに見舞われやすい資金調達は減っている。
・金融取引の清算集中増加は金融安定をもたらしている。ただし監視は必要。
「目先のリスク」では、某経済紙と似て(笑)以下の点に触れています。
・英国のEU離脱とユーロ圏の財務問題が米国市場や金融機関にリスクをもたらしうる。
・中国や他の新興市場国経済の問題も米国に影響を与えうる。
・貿易問題(trade tensions)、地政学的な不透明性、その他の事象が一般論として投資家のリスクテイクに抑制的な影響を与えうる。
ぐっちーに批判されないよう正確に訳した積りですが、和訳は意外に難しいですね。個人的には、FOMCに比べて様々なリスク要因に言及している印象を受けました。如何でしょうか?
さて、JDさんは良く「事実」と「推測」を峻別せよと仰ります。全く同感です。ここまでは「事実」(誤訳が無い前提で、FRBレポートの内容を紹介した部分)です。以下は「推測」というより「憶測」として読んでください。
最初の方で「BIS View」対「FRB View」と書きました。過去の経済を振り返ると、通常の景気循環を超えて景気が悪化する(=危機に陥る)際、多くの場合その契機は金融システムにおける不均衡の増大と崩壊(言い換えればバブル生成と崩壊)でした。ところが、金融システムで不均衡が増しているかどうか、その判断は容易ではありません。単純に言えば、過去FRBは「不均衡に事前・同時に気付くことは難しい。出来ることは不均衡が崩れ始めたら即座に大胆に金融政策を緩和することだけ」との立場を取り、実際グリーンスパンはこのように発言しました。これに対しBIS(国際決済銀行)のエコノミストは「いや。きっと何かに気付くはず。気付いたら早めに金融政策を引き締めて不均衡を小さくしようよ」との立場です。日本では日銀の白川前総裁がこの立場と言われています。
最近、「FRBもBISの考え方に近付きつつあるのでは」との話しを聞くようになりました。この見方が正しいかどうか分かりません。ただ仮に近付いているとすると、従来の物価や雇用に加え、金融システムの状況も金融政策運営に勘案し、例えば「物価上昇率は2%近傍で推移しインフレではないけど、金融システムの不均衡拡大が心配だから金融引き締めを続けようか」といったことも考えられるようになります。本当に変化しているかどうか分かりません。また変化しているとしても、FRBは金融規制当局でもあり、金融政策ではなく金融規制強化により不均衡を抑制することが可能です(日銀には出来ません)。そのうえで、注目してよい論点と思いました。ぐっちーの感想も聞きたいところです(笑)。
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2 comments on “Vol.14: FRBの金融安定レポート”
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わざわざ言及いただきありがとうございます。
今後も様々な分野への「越境」を期待しております(笑)。
ノーパン・シャブシャブを・・
経営しながら・・
大口の客にもなっている・・
しかも・・
付で・・・
何時か・・勘定しなきゃいけないにしても・・
総裁以下・・
食い逃げ態勢なのかな・・・??!!
( ^ω^)