2019/01/21 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.12: 内閣府月例経済報告と日銀金融政策決定会合2018年12月
今回は、公表から時間が経ちましたが、昨年12月のな内閣府月例経済報告と日銀金融政策決定会合(いずれも12月20日)を紹介します。例によってまずは比較から。
(現状評価)
・全体:緩やかに回復している(内閣府)緩やかに拡大している(日銀)
・個人消費:持ち直している(内閣府)振れを伴いながらも、緩やかに増加している(日銀)
・設備投資:増加している(内閣府)増加傾向を続けている(日銀)
・住宅建設(投資):おおむね横ばいとなっている(内閣府)横ばい圏内で推移している(日銀)
・公共投資:このところ弱含んでいる(内閣府)高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している(日銀)
・輸出:おおむね横ばいとなっている(内閣府)増加基調にある(日銀)
・輸入:持ち直しの動きに足踏みがみられる(内閣府)記述無し(日銀)
(先行き見通し)
・全体:緩やかな回復が続くことが期待される(内閣府)緩やかな拡大を続けるとみられる(日銀)
・個人消費:持ち直しが続くことが期待される(内閣府)(国内需要をまとめて)増加基調をたどると考えられる(日銀)
・設備投資:増加が続くことが期待される(内閣府)
・住宅建設(投資):横ばいで推移していくと見込まれる(内閣府)
・公共投資:次第に補正予算の効果の発現が期待される(内閣府)
・輸出:持ち直していくことが期待される。ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響には留意する必要がある(内閣府)基調として緩やかな増加を続けるとみられる(日銀)
・輸入:持ち直していくことが期待される(内閣府)記述無し(日銀)
内閣府は、公共投資に関する現状評価が弱くなり、その代わり先行きに関して補正予算の効果に言及しました。日銀の方は、前回10月と変更がありません(11月はお休み月)。
今回も引続き内閣府は「回復」、日銀は「拡大」の表現です。以前説明したように、内閣府は長きにわたり拡大という表現を避けています。他方、日銀は「需給ギャップ」(実際の需要と供給能力の差)がマイナスからプラスに転じた後、そのプラス幅が大きくなる過程を「拡大」と呼びます。日銀の推計では、需給ギャップは2016年第4四半期にプラスに転じた後、順調にプラス幅を広げました。実はこの需給ギャップ、2018年第3四半期(7~9月)にプラスを維持しながらも少し縮小しました。今回は詳しく触れませんが、昨年第3四半期のGDPは様々な災害の影響もあり冴えない結果となり、これが需給ギャップの縮小につながりました。日銀はこの動きは一時的なもので、トレンドは変わっていないと判断しているようです。
さて、今回は経済指標シリーズの続きです。雇用関連の指標を取り上げます。
米国に比べ比率はやや低いとは言え、個人消費はGDPの約6割を占める最大の需要項目です。個人消費そのものに関する指標の解説は来月に回しますが、個人消費の強弱を占うのに有用な指標は何でしょうか?
例えば「天候」は意外に大きく影響します。冷夏か猛暑か暖冬か厳冬かにより、個人消費は大きく振れます。また、先ほども触れたように大きな災害が立て続けに起きると、個人消費に悪影響が及びます。また、米国ほどではありませんが、「資産効果」も大事な要素です。単純に言えば、株価が上がれば個人消費が強まり、下がれば弱まる現象が日本でも見られます。
将来に対する不安感も大事な要素です。安倍総理は、70歳までの雇用延長に言及します。この背景は(無論元気な高齢者の増加もありますが)年金財政の苦しさです。現行の制度は65歳までの雇用と65歳以降の年金受給を前提に動いていますが、これを70歳までの雇用と70歳以降の年金受給に変えようとの方向感です。こうした考え方が、「もっと働ける」との安心感を呼ぶのか、「70歳まで年金をもらえない」との不安感を呼ぶのか、見通し難いのが正直なところですが、安心感は個人消費にプラスに、不安感はマイナスに働くことは間違いありません。
いろいろ書きましたが、個人消費の強弱を占ううえで最も着目されるのが雇用関連の指標です。ここにも前置きが必要です。サラリーマンとして働かれる方もいれば、個人事業主の方もおられます。年金に収入を頼る高齢層も多数おられます。そうした中で、GDPの動き・変化を占うという観点に特化すると、「すぐ変化が分かる」指標が重要となります。状況が年1度しか分からない指標はこの観点では役に立たず、毎月分かる指標は役に立ちます。こうした便宜上の観点から用いられるのが、現金給与総額と雇用者数です。前者は厚生労働省が作成する毎月勤労統計により、後者は総務省が作成する労働力調査によります。雇用者数は読んで字の通りです(就業者数から自営業主数と家族従業者数を引くと雇用者数になります)。現金給与総額は、雇用者1人当たりの給与収入を表します。
日銀の分析をみると、「雇用者数」と「1人当たり現金給与総額」を掛けた数値を「雇用者所得」と名付け、その前年比を追うグラフが出てきます。例えば雇用者数100、1人当たり給与1、掛けた数字100を出発点として考えます。1人当たり給与が1%増えると掛けた数字も1%増えて101になります。1人当たり給与は不変、しかし雇用者数が1増えると、掛けた数字はやはり101となります。この2つの101が同じ意味を持つと割り切ります(厳密には消費性向の違いを考えないと正確ではありませんが、割り切ります)。次に101は名目値です。もし物価が1%上昇していたとすれば、実際に買えるものは変わりません。物価が横這いなら買えるものが増えます。要は掛け算の結果出てくる雇用者所得の変化と物価の変化を見比べ、人々の購買力が上がったか下がったか判断するプロセスになります。因みに実際の数字では、雇用者数は6000万人弱、現金給与総額(1人当たり月平均)は32万円ほどです。給与は正規雇用者と非正規雇用者で大きく異なり、前者は41万円台、後者は9万円台です。雇用者所得は最近は前年比+4%ほど増加しており、物価上昇率をかなり上回っています。
ただ、この+4%は残念ながら眉唾物です。これは日銀のせいではなく、最近大問題となっている通り、毎月勤労統計を作る厚労省の問題です。報道しかみていませんが、私の誤解でなければ、この統計を作る際、本来は従業員500人以上の大事業所は全先から、その他はサンプルを抽出し、合計数万先からデータを集める必要があります。ところが実際には、大事業所が集中する東京で、その1/3からしかデータを集めていなかったことが発覚しました。これを隠して補正しようとした過程で、給与水準が高い大事業所のデータが加算されるようになり、結果として2018年から現金給与総額の伸びが格段に高まりました。ということで、上記の雇用者所得に基づく分析、とくに+4%の数字は信じることができません。残念です。そのうえで、雇用者数の増加は一応信じることができます。また給与の方も、統計ほど上がっていないことは間違いありませんが、下記のような最近の雇用需給情勢を考えると、少しは上がっているとの推測は誤りでないと思っています。
さて、この数字を追うと雇用の現状は掴めますが、先を読むにはどうすれば良いでしょうか?単純に言えば労働需給がひっ迫していれば給与が上がり雇用者数が増える可能性があります。この逼迫度合いをみるために用いられる有名な指標が有効求人倍率と失業率です。前者が高く後者が低いほど、市場は逼迫しています。因みに今は歴史的に見ても前者が高く後者が低い状況にあります。また、逼迫度合いを企業の目からみたアンケート調査もあります。最も使われるのが日銀短観の雇用判断D.I.です。この数字をみると、企業の人手不足感は中堅・中小企業ほどひどく、バブル期に迫る水準となっています。繰り返しで恐縮ですが、上記のように現金給与総額の最新データは誤りで、+4%を信じることは出来ません。しかし、それでもそれなりに上がっていること、先々も上昇傾向が続くであろうことは、こうした諸指標(有効求人倍率、失業率、雇用判断D.I.)をみる限り間違いないようです。
最後に、雇用者数をみる前提として、労働力人口の動きも重要です。労働力人口は、15歳以上で働く意思と能力を持つ人の数を指します。学生や専業主婦、お病気で働けない方などは含まれません。日本の総人口は既に減少が始まっていますが、労働力人口はこのところ増加しています。女性や高齢者の労働参加が増えているからです。この動きを背景に、雇用者数もここ数年で数百万人増えています。上記の例で言えば、今の日本の状況は、どちらかと言うと1人当たり給与は不変だが雇用者数が増えて100が101になる状況に近いと言えます。
今回はここまでとします。
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