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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/01/07 06:30  | by Konan |  コメント(2)

Vol.11: セントラルバンカーと黒い魔法使いの誕生


明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。皆様にとり良い1年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

昨年8月に連載を再開し、6か月目となります。年末年始に少し考えてみましたが、良い知恵が浮かばないので、暫く再開時の方針を続けようと思います。具体的には、原則月2回、第1、第3月曜日に掲載します。うち1回はその時々でネタを考えます。もう1回は、前月に公表された内閣府月例経済報告と日銀金融政策決定会合を紹介します。なお日銀は年8回公表なので、内閣府のみ紹介するケースも出てきます。

内閣府月例経済報告や日銀金融政策決定会合をフォローする狙いは、ぐっちーに及ばないことは承知のうえで、日本経済に関する指標を丁寧に追うことでした。しかし、まだその段階に至っていません。

・9月3日のVol.3で、経済統計で良く使われる言葉を解説しました。
・9月17日のVol.4で、内閣府がみている経済指標の範囲・種類を説明しました。
・10月1日のVol.5で、内閣府と日銀の景気判断の違いを説明するとともに、経済指標としてGDP・需給ギャップと景気動向指数を説明しました。
・11月19日のVol.8で、輸出との関連が深いIMFの世界経済見通しを説明しました。
・12月17日のVol.10で、設備投資関連指標を説明しました。

残るGDP需要項目は、個人消費、住宅投資、公共投資です。ただ、このうち公共投資は予算で姿が定まります。住宅投資は米国では極めて大事ですが、日本のGDPに占める比率は限定的です。このため、個人消費を解説すれば、経済指標を追う準備は整うと思います。今月2回目(1月21日予定)に個人消費の背景として重要な雇用関連指標を、来月中に個人消費そのものに関する指標を取り上げます。3月以降は、これまでのように単に内閣府や日銀の判断やその変化・違いの紹介にとどまらず、判断の背景となる経済指標の動きにも踏み込んでいければと思います。

さて、今年最初となる今回は、昨年一部で話題を集めたある本を紹介します。

「中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年」 白川方明 (東洋経済新報社)

筆者は前日銀総裁の白川さん。本文758頁、定価(税前)4500円の文字通り大著で、昨年10月に発売されました。3部構成で、第1部は「日本銀行でのキャリア形成期」、第2部は「総裁時代」、第3部は「中央銀行の使命」と題されています。日銀の何人かに聞いたところ、内部では爆発的な売れ行きのようで、とくに第1部、第2部に関し、過去に何があったか知るためのとても便利な辞書的存在として評価されているそうです。私も一言一句読んだ訳ではありませんが、確かに第1部、第2部は読みやすく、過去を知るのに便利な内容です。因みに第1部、第2部の章立ては以下の通りです。

・第1部:日本銀行でのキャリアのスタート、バブル経済、バブル崩壊と金融危機、日本銀行法の改正、ゼロ金利政策と量的緩和政策、「大いなる安定」の幻想
・第2部:日本銀行総裁に就任、リーマン破綻、デフレ議論の高まり、日本経済の真の課題、欧州債務危機、「包括緩和政策」、東日本大震災、「六重苦」と「通貨戦争」、財政の持続可能性、金融システムの安定を目指して、政府・日本銀行の共同声明

旧CRUのひとり言で、例えば六重苦について連載したことがあり、今では全く聞かなくなったこの言葉を懐かしく思い出しました。白川前総裁、この言葉に苦しんだようですね。また、リーマン破綻、欧州債務危機、東日本大震災と何度も危機に直面され、ある意味悲運の総裁だったかもしれません。

2013年3月、この白川前総裁を引き継ぎ颯爽と登場したのが黒田総裁です。黒田バズーカ砲により、日本経済は大きく変わりました。まさに黒い魔法使いの誕生です。

昨年11月のある場で、黒田総裁は「白川さんの本をどう思うか」と質問されました。私は偶々その場に居合わせましたが、黒田さんの答えは概ね以下の通りでした。

「物価が上昇しないことにいくつか理由があることは否定しない。しかし物価の安定が中央銀行の使命である以上、中央銀行が逃げることは許されない。やるべきことをやる。」

私は白川さんとも黒田さんとも話しをしたことがありますが、二人を詳しく知っている訳ではありません。ただ、二人の金融政策や日銀の役割に関する立ち位置は大きく異なるように感じています。

白川さんも、物価安定に対する金融政策や中央銀行の役割を否定しません。例えば、循環的な景気後退時に金融緩和で需要を喚起することは可能です。ただ、人口減少を始めとする供給面の課題に関し、金融政策の役割は無いと考えます。金融政策で経済が良くなるとの期待から、供給面の構造改革が遅れることは良くないとの発言も聞かれます。また、過去の経済の大きな混乱は金融不均衡(バブルやその崩壊をイメージください)に起因しており、それを防ぐことが大事との考えが、白川さんのバックボーンにあるように思います。要は金融緩和のやり過ぎは危険との発想です。

元々法学部出身(しかし経済学は素より数学や哲学にも通じる博学者)で役人でもあった黒田さんは、組織のマンデート・役割・責任を大事にします。物価安定に責任がある以上、デフレを続けたままでは日銀は責任を果たしていないと考えます。このため、量、質、金利の全てを駆使して物価安定目標達成に挑みます。副作用懸念もありますが意に介しません。その代わり、歴代日銀総裁と異なり「消費税率は確り引上げよ」など財政規律問題にも口を出します。白川さんは金融政策を過激にしないことで不均衡を防ごうとする一方、黒田さんは金融政策を全開する代わりに、政府への口出しを通じて日本国債の信認低下を防ごうとします。

この二人の議論、何となく異次元ですれ違っているように思えます。大事なことは、金融政策の効果と副作用の冷静な検証であり、また、財政、構造政策に関する同様な検証と必要な政策の実行です。過去5年間を振り返ると;

(1)安倍総理一強で政権を批判できる雰囲気が乏しかったこと、
(2)金融政策に関しても、2%物価安定目標は達成していないとは言え、日本経済は5年前より良くなっており、「効果が無い」との批判が当てはまりにくいこと、
(3)金融政策の副作用に関し様々な意見はあるが、まだ目に見えた形での副作用が出ている訳でないこと、
(4)構造改革についても「裁量労働」「外国人」など与野党対決の図式でしか報道されないが、少しずつ労働市場の構造改革が進んでいるのは確かなこと(白川さんの「金融緩和が改革を遅らせる」との批判が完全には当てはまらないこと)、

などを背景に、文字通り白黒つけ難い状況が続きました。ただ、財政政策がかなり積極的に使われることで問題を繕ってきた面も少なくありません。今年以降、白黒の決着がついていくのでしょうか。

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2 comments on “Vol.11: セントラルバンカーと黒い魔法使いの誕生
  1. ペルドン より
    消費税

    実行されれば・・
    白黒つくのではありませんか・?!

    気付くのが遅れて失礼・・

    おめでとうございます。
    本年も宜しくお願い致します・・・

    ( ^ω^)

  2. 健太 より
    妄想

    戦前シナにおける軍事行動を昭和天皇の意向を受けて停止させた軍人に白川義則がいたが上海で朝鮮人のテロリストのテロによって、殺された。そのテロリストを南朝鮮は学校教育で英雄として教えている。その後の我が国の展開は言わずと知れたことでしょう。
     確か白川方明氏は任期満了前に辞任している。
    この意味を考えることではないか?
    素人勉強に過ぎないが現在の日銀の政策は戦前の金解禁以降の流れと似ているのではないか?
     その当時の金埋金擁護というより、その目的は我が国の産業構造を変えることに意味があった。そのためには不況,恐慌は仕方がないという意見を読んだ。
     それを高橋是清が巧みな政策で乗り切り、その政策の変更をしようとしたときに暗殺された。
     今回は暗殺ではなく、黒田氏がした政策の変更をsるのではなく、再任という形で」、そのままの政策をつずけることとなり、高橋を暗殺した(政策の変更ができなか卯なった)こと同じではないか?
     結果軍部が台頭したが、問題はその金をどこから調達したかでしょう。現在と同じで、最終的には何が起きたかは説明の必要はない。
    ただ当時と違うんは自由貿易が現在あることで、これがアメリカの行動で危機に瀕している。ここに戦前と同じ構造が生じている。もともとアメリカの国是は保護主義だがそれを壊したのは真珠湾攻撃でしょう。
     戦前は軍事対決みるのも一つの見方だが我が国の自由貿易とアメリカの保護主義の戦いとしてみると、現在の日米関係は恐怖に震える。
    多分自動車関税はかけてくるが、ワシントン軍縮会議のようなことが多分起きる。我が国は数量規制はにまず関税で逃れることが多分一番損が少ない。
     つまりワシントン軍縮会議と同じように我が国は行動することだが、果たしてできるか?
     ここに我が国の席券基盤というより明治以降の政府の成り立ちがあり、これが壊れれば安倍政権など吹っ飛ぶとみている。
     あやういなあ。

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