2018/11/05 06:30 | by Konan | コメント(2)
Vol.7: 金融庁の行政方針
今回は、公表から時間が経ちましたが、金融庁の行政方針を記した「変革期における金融サービスの向上に向けて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)」(9月26日公表)を紹介します。なお、後日日銀の金融システムレポートも紹介する予定です。以前CRUのひとり言を連載していた際、必ず後者の日銀のレポートを取り上げました。前者の金融庁のものは3年前から公表が始まり、このコーナーで取り上げるのは初めてとなります。
読者の中には金融庁に興味を持たれる方もそうでない方もおられると思います。金融庁は、平成10年、当時の大蔵省から独立発足しました。丁度20歳になりますね。発足当初は不良債権処理に邁進し、その後も金融機関の不祥事対応等に力を注いだため、「金融処分庁」と揶揄されました。ところが、3年程前に就任した森前長官時代から大きく方針転換し、今回の新方針でも「金融育成庁を目指す」と宣言しています。
因みにこの森前長官、当初2年間はとても評判が良く、任期3年目の途中まで「4期目」が囁かれました。しかし、仮想通貨(暗号資産)業者コインチェック社やスルガ銀行の問題で大きく躓き、そうなるとこれまで陰に隠れていた世間の不平不満が一気に噴き出し、結局この7月に遠藤新長官にバトンタッチされました。
そのうえで、森前長官時代の最大の変化は、金融庁の目的を、単なる「金融システムの安定維持」ではなく、「国民の安定的な資産形成」と「金融・経済の持続的成長」を通じた「国民の厚生の増大」と定めたことです。金融システムの安定は、銀行が安定的に企業や個人に融資を行い、経済発展に貢献するうえで必要不可欠な前提です。しかしそれは「単に前提に過ぎない」と位置付けます。また、預金志向が強い日本では、個人の資産構成が預金に偏っており、株価の上昇や海外経済の成長の恩恵を享受できません。このため、つみたてNISAに代表されるように「少しずつ根気よく様々な金融商品に分散して投資する」投資信託商品を作り、非課税のメリットを与えることに取り組みました。単純に言えば「銀行は預金を売らず投資信託商品を売れ。企業や個人に役立つ融資をせよ。こうしたことを通じ国民に役立て」というメッセージになります。
今回の新たな方針では、7つの主要施策を定めています。URLもつけましたが、以下の通りです。
1.デジタライゼーションの加速的な進展への対応~金融デジタライゼーション戦略~
2.家計の安定的な資産形成の推進
3.活力ある資本市場の実現と市場の公正性・透明性の確保
4.金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保~経営者の役割とガバナンス~
5.顧客の信頼感・安心感の確保~金融機関の行為・規律に関する課題~
6.世界共通の課題の解決への貢献及び当局間のネットワーク・協力の強化
7.金融当局・金融行政運営の改革
このうち、1.は要するに金融界も世の中の技術革新の動きに遅れないよう頑張ろうとのメッセージです。2.は上記の森前長官の方針を引き継いだものです。3.は2.と裏腹の関係にあります。国民が日本株に投資する前提として、日本企業が確りガバナンス機能を発揮し、無駄に内部留保を積み上げるのでなく、成長に向け投資を行うことが大事です。それを監視する機関投資家等の役割も大事です。そうしたことが書かれています。1つ飛ばして5.はまさにコインチェック社やスルガ銀行問題の対応です。6.は来年日本が議長国となるG20対応方針を示します。7.は金融庁自らの改革です。読んで面白い文章ではありませんが、Gucci Post読者の中に投資家の方が多いとすれば、金融庁も3.のような努力を行っている点は知っていて良いことかもしれません。
ところで、なぜ3.を飛ばしたかというと、実はここに恐ろしいメッセージが含まれているからです。地域銀行の経営状況の酷さが淡々と記述されます。
金融庁は「本業利益」という言葉を良く用います。銀行のバランスシートを単純に言えば、負債は預金、資産は貸出と有価証券です。別途様々な手数料(身近なところでは振込手数料など)を徴求します。銀行の利益は、資産(貸出、有価証券)運用から得られる利息と預金に支払う利息の差、有価証券の売買で得られる利益(失敗すれば損失)、手数料等の収入の合計から、経費を差し引いたものです。このうち「本来銀行がやるべき仕事は貸出」ということで、有価証券に関係する部分を差し引いたものを本業利益と定義します。この本業利益が赤字の先が106行中54行に及び、赤字が2期以上続く先の比率が49%に達すると指摘します。
また、有価証券で儲けて本業赤字を補えば構わないのですが、その有価証券の含み益(時価と簿価の差。時価が簿価を上回れば、売却により利益を出すことが可能です)も減っていると指摘します。極めつけは、本文74頁で、信用コスト率が少し上昇しただけで赤字になりかねない銀行数が示されます。信用コスト率と聞かれてもピンとこないと思います。貸出には貸し倒れリスクがあり、貸し倒れると損失が発生します。90年代のバブル崩壊後、まさにこの損失が巨額に発生し多くの銀行が破綻しました。今の日本経済の下では、廃業は多いのですが倒産は少なく、銀行の貸し倒れも低い水準にとどまっています。景気が少し悪化し、貸し倒れが少し増えただけで赤字になる地域銀行が出てくるという話です。
無論金融庁も手をこまねく訳でなく、確り手を打つとされています。また、銀行の経営体力を示す自己資本比率は高いので、少々赤字が出てもすぐ潰れる訳ではありません(安心してください)。それでも注意は怠れないという、静かながら強いメッセージです。
金融政策との関係でもこの地域銀行問題が浮上します。マイナス金利政策のせいで銀行収益が苦しいことが、将来金融システムの不安定化をもたらしかねないとの主張です。この点は今後重要な論点になると思います。いつかこのコーナーでも取り上げたいと思います。
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2 comments on “Vol.7: 金融庁の行政方針”
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我が国の銀行は結局質屋が近代化(?)舌だけでしょう。之を替えないとないを何をしても無理ではないかと思う。
随分昔のことですが、自裁された伊丹監督が自ら作る映画の資金を国内の銀行に求めたが担保を求められて、できずアメリカの銀行から借りたと言う話があった。この落差はどうしようもないのではと思う。どちらが良いかはわからない。
いつものことですが、抽象的でわからない。
2.家計の安定的な資産形成の推進
とあるがそれでは具体的に各家庭に何ができるか?
資産は1)収入から支出を引いたものと(労働から得られるもの、具体的には給料)2)資産から得られる配当に相当するものを加えたものです。
一帯、いどのくらいの家庭に其れができるか?
平均給料から算出すれば、其れがどのくらいにできるかは計算できるはずです。とてもではないが安定的な資産形成など現実的にありえない。
まるで大東亜戦争時における海軍や陸軍が立てた策千系買うの問うなものではないかと思う。
すでにあることで各家庭に資産形成をさせるなら、具体的にありうるものは減税と配当への課税を無しにすること以外にない。
これは政府収入を国民に配置換えすることに過ぎず、実施の話無理でしょう。
大体二重課税で、ガソリン自動車にも二重課税です。
これらのことは今すぐにもできるが実際其れができないから結局
2.家計の安定的な資産形成の推進
ハエに書いたもちか、作文に過ぎない。
経済全体を見れば経済を拡大することが資産形成に寄与するから、之をすることですが、現状ではある得るのか?
今必要なことは
2.家計の安定的な資産形成の推進
ではなく、それ以前の給料をあげる政策ではないか?
外国人の入れるという行動派それに反するから、なおさら何を考えているのかと思う?
私はあるときから銀行預金は必要程度にして、あとは資本主義の牙城である株式、先物のポジ、保険にかえた。これは気が気ではない状態を生み出すが、大金があればそれはないが、普通の人では無理です。もちろん私も無理をしているが、それらをして、現代社会の経済の原則にまったく無知だったことを自覚した。
素人が見て地銀の行く先は倒産しかないと見ている。つまり達観している。
じたばたすればするほどひどくなる。
金融庁の動きが・・
緩慢なのではありませんか・?
内内で片付ければ・・という惻隠の情と組織保全の意識が絡み合った背景が・
あるのではと業界・市場に懐疑心で憶測されているとすれば・・国民も同調すれば・不安定要素になりかねないのでは・?
何もパトカー並に・・迅速に現場に走れとは言わないまでも・・金融庁も出動の機敏さは必要かと。
それと銀行のメインになる「投資信託商品」・・リーマンショックの総括が本当に吟味されているのか・・まさか中身はハンバーグ商品ではと購入者が・・猜疑心に駆られない保護システムの構成が出来ているのか・?
金融庁の課題は大きいと思われますが・・・( ^ω^)