プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2013/04/01 00:00  | by Konan |  コメント(2)

Vol.186: キプロス


今日から新年度。エイプリルフールでもありますが、一応真面目に書こうと思います。六重苦シリーズを続けていますが、不人気でもあり一休みすることとして、今回と次回は最近の出来事を取り上げようと思います。

今回は、ぐっちーもブログやメルマガで取り上げたキプロス問題について簡単に。預金カットと言えば、このコーナーを書き始めた頃、預金保険について取り上げたことがあり、懐かしく思い出します(2009年11月、Vol.8でした)。キプロス問題を簡単におさらいすると、かつてのアイスランドのように国力対比過大な金融システムを抱えているキプロスの経済が立ち行かなくなり、ユーロ圏で支援を行う必要が生じました。支援側、とくにドイツなどは「支援を受ける側も汗をかかない限り、自国民に説明出来ない」ということで、支援の条件としてキプロスに自らも血を流すことを求めました。観光以外に大した産業がないキプロスでは、結局銀行業から資金を捻出する必要に迫られました。その際最も簡便な手段として預金カットが選択されました。債務である預金をカットすれば、その分銀行に余裕ができ、それが原資になるとの仕掛けです。偶々大口預金者の多くが非ユーロ圏であるロシアの預金者であることもあって、正義の観点(ユーロ圏がなぜ非ユーロ圏の国民や企業まで助ける必要があるのか)からもこれが正当化され、一定の大口預金がカットされる方針が公表されました。一種のペイオフですが、むしろロシア人を始めとする大口預金者への突然の大口課税と考える方が分かりやすいかもしれません。

しかしながら、当然のこととして預金者は驚き取り付け騒ぎが起こり、それを防ぐため銀行が暫く閉鎖される事態となりました(bank holidayと呼ばれます。1930年代の米国での大恐慌の際など、過去の取り付け騒ぎでは必ずと言ってよいほどこの銀行閉鎖が行われます)。それに慌てたキプロス政府や支援側が、カット対象となる預金の基準を切り上げたり、カットされる預金者に銀行株式を交付するなどの懐柔策を考え、ようやく話しがまとまり、キプロスへの支援も実行される運びとなり、預金者の騒動も一旦は沈静化しました(ただし、大口預金のカット率がかなり大きくなったことから、騒ぎが再燃する恐れもあります)。

ぐっちーと異なり欧州情勢についてかねてより暖かい目でみている私ですが、それでも今回の件で2つの感想を持ちました。まず、キプロスですらユーロから切り離すことが出来ないのかとの驚きです。ギリシャ問題が深刻化していた頃、通貨ユーロの崩壊、あるいはギリシャのユーロからの離脱が取り沙汰されました。結局現在までそうした事態には立ち至っていませんが、キプロスまで救おうとすることは、ユーロの当局者自身が「ユーロへの信認が脆く、壊れ易い」と恐れていることを、端的に示したように思えます。当局者が不安を抱えるほど、市場から足下をすくわれる危険性も増してくることを危惧します。

次に、その割に当局者の行動が雑過ぎたとの感想です。今のところユーロは昨年までのようには下落していません。これは、市場関係者などが、キプロスは他のユーロ諸国、例えばスペインやイタリアと比べ極めて特異なケースであると冷静にみているためと解釈できます。伝播(contagion)という言葉が危機の拡散についてよく使われますが、伝播はAとB(例えばA銀行とB銀行、あるいはA国とB国)に関する情報の不確実性が増し、AとBを区別することが難しくなった際に生じると言われます。幸いにして、現時点ではまだキプロスと他国を区別するだけの冷静さは残っている訳です。仮に、当局者がここまで冷徹に見抜いたうえで預金カットに踏み切ったとすれば、称賛に値しますが、事後の慌て振りをみるととてもそうとは思えません。

年初には「9月のドイツ総選挙まで大したイベントが無い」と高を括っていた私ですが、どうやら甘かったようです。もう少し丁寧にユーロ情勢を見ていこうと思います。

メルマガ「新・CRUのひとり言」を購読するためにはご登録のお手続きが必要です。

当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。

2 comments on “Vol.186: キプロス
  1. ぽよんぽよん より
    実際のところすごく怖いかもしれない

    抜け駆けして、失敗したところに責任をとらせることも出来ないし、援助を出したくないとなると

    ユーロ圏全体で、今後の抜け駆け禁止のための、政策に制限を加えることへの検討をしなきゃならなくなります。国家の政策が均質化された状態となると、政策的なチャレンジが行えないことになり、成長の余地が著しく制限されることになるでしょう。

    ただでさえ、船頭が多く舵取りの方向を決めるのに時間がかかってる状況で、個々の国の政策まで均質化されていくことも考えると、先は厳しいを考えざるを得ません。

  2. ペルドン より
    キプロスにしても

    何一つ・・
    確かな情報・・
    伝わっていない・・

    ギリシャに・・負けない・・
    スキャンダルも・・流れてくる・・

    それで・・読みが出来るとすれば・・
    それは・・
    バチカン銀行から・・お声・・きっと・・きっと・・来る・・かかる・・
    法王の祝福を・・
    必ず・・得られる・・

    法王の個室の・・隣室・・貴方の物・・・(笑)

コメントを書く

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。