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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2013/08/05 09:00  | by Konan |  コメント(0)

Vol.204: 国際金融規制回顧(その1)


何をこのコーナーのネタにするか、アイディアが枯渇してきたこの頃です。そうした中、金融規制を巡る国際的な議論に関ししばらく書いてこなかったなことを思い出し、2回ほど書いてみようと思いました。タイトルに「回顧」と付けたのは、国際金融規制を巡る議論が終焉しそれを振り返る意味ではなく、久しぶりに触れるので以前の内容を思い出しながら、というニュアンスです。最近のG20財務大臣・中銀総裁会議の声明での位置付けはさすがに低下してきましたが、金融安定理事会(Financial Stability Board、通称FSB)では相変わらず熱心な議論が行われ、各国の監督当局や中央銀行は引続き相当の資源をこのテーマに注ぎ込んでいます。FSB議長であるカナダ中銀のカーニー総裁は、初めて非英国人として英国中銀総裁に就任するなど、この「業界」での有名人です。

金融規制の議論は様々な分野に亘りますが、大きく言えば金融機関に対する規制と、金融市場に対する規制の2つに大別できます。リーマン危機を振り返ると、ひとつにはバーゼル規制が行われていたのに、金融機関の破綻が相次いだことについて、強い反省がありました。これがバーゼルⅢのような金融機関に対する規制強化につながります。他方で、とくに店頭デリバティブ市場やレポ市場の混乱が、過去の危機とは異なるリーマン危機の特徴でした。この対応として市場規制の話しが進められてきました。今回はそのうち前者を振り返ります。

金融システムの中核である銀行に対しては、20年以上前からBIS規制(BISはBank for International Settlementの略で、スイスのバーゼルという街に居を構える世界の中央銀行の総本山(BIS)を舞台に規制が作られたことから、BIS規制ないしバーゼル規制と呼ばれます)が作られ、それに基き国際的に活動する銀行や投資銀行は規制・監督を受けてきました。しかし、その健全性はリーマン危機を契機とする世界的な信用バブル崩壊の前に脆くも崩れ去りました。

その反省はとくに2つの規制強化を生み出しました。ひとつは、バーゼル規制の核であった自己資本比率規制について、その分子である自己資本項目への計上が認められる範囲を、普通株式など金融機関の経営悪化時に実際に使い得る「質が高い」資本に絞り込むとともに、銀行の中でもとくにその破綻時に国際的な影響が大きいG-SIB(Global Systemically Important Banks)に対し、普通の銀行以上に厳しい自己資本比率を求めることです。この自己資本規制強化に関しては国際的な作業がほぼ終わり、現在その段階的な実施に向けて詰めが行われています。

もうひとつ、今回の危機では、自己資本は相応にあるのに資金繰りがつかず破綻する例が相次ぎました。危機が深刻化する中で、例え相手先の自己資本が規制を満たしていたとしても、資金の出し手側からみた不安感が解消されず、お金を出し渋る動きが強まったためです。この対応として、バーゼル規制の中に「銀行は一定以上の流動資産を保有すべき」「資金調達を極力長めの安定的なものにすべき」という流動性規制が導入されることになりました。ただ、予想を超える危機の長期化、とくに欧州系銀行の苦境が続いているため、規制内容は骨抜きになってきています。

さて、金融システムは銀行だけで成り立っている訳ではありません。銀行以外の業態についても規制の新たな導入や強化の議論が続いています。ひとつは「影の銀行」と呼ばれるものの規制です。例えばヘッジファンドが典型的で、最近では中国の影の銀行問題がすっかり有名になりましたが、これまでの議論の過程では、MMF(Money Market Fund)の規制が最大の焦点です。日本でも証券会社がMMFを販売していますが、米国ではこの規模が巨大で、危機前は銀行預金と同じ感覚で、投資家や個人の資金運用先となってきました。しかし、集めた資金の主な運用先であった金融機関等が発行するCP(Comercial Paper)の格下げの影響でMMFの元本割れが生じ、不安を感じた投資家がMMFから資金を引き揚げた結果、米国、さらには世界の金融市場は大混乱に陥りました。MMFがこうした元本割れを生じないよう余裕資金を持たせること、あるいは元本が保証されるという「幻想」を持たれないよう、変動価格商品に純化させることなどが議論されています。このほか、例えば保険会社への国際規制導入(銀行と違い保険にはバーゼル規制のような国際規制はありません)も、来年のG20サミットまでを目途に議論されています。

さらに、どのように規制を強化したとしても、金融機関の破綻を完全に防げるものではありません。万一破綻した場合でもその影響が最低限にとどまるよう、各国の破綻処理制度を改善する動きも続いています。

次回は金融市場の規制を取り上げます。

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