2019/09/02 06:30 | by Konan | コメント(3)
Vol.29: 円高?円安?
比較的安定してきた為替相場の状況に変化が見られつつあります。背景はトランプ大統領が中国とFRBにプレッシャーをかけていることに尽きますが、今回は人民元には触れず、円相場に焦点を絞ったうえで、思ったことを書いてみます。ぐっちーのように円高、円安どちらが良いかきっぱりと結論を出す自信は無く、むしろこの問題が一筋縄ではいかないことをつらつらと書く、読みにくい文章になってしまうと思います。お許し下さい。
(為替相場を読む難しさ)
為替相場の難しさは、複数の通貨間の相対価値を表す点にあります。例えば日本の株価であれば、日本経済や個々の企業業績を主に見れば良いですが。例えば円ドル相場の場合、日本だけ見ても駄目で、日米双方に目を配る必要があります。また、巨額の資金が市場で動き、小さなきっかけから相場が大きく動くこともあります。こうした短期の動きを予測することは極めて難しく、前橋さんのようなプロの方かAIでないと、為替相場で勝つことは容易でないと思います。
そのうえで、為替相場を決定する要因は何か?以下の点が変動要因として挙げられることが多いと思います。
「金利」・・・名目金利が高い方が魅力的と考えると、名目金利が高い通貨が買われる傾向にあります。
「物価」・・・物価が上がってしまうと、折角その通貨に投資しても目減りします。このためインフレ率が低い通貨の方が買われる傾向にあります。
「潜在成長率」・・・ところで、上記の「金利」と「物価」を合わせると、「実質金利」が高い国の通貨が買われる(高くなる)ことになります。短期的には経済実態を離れた金利設定が行われれ、これが為替相場に影響を与えることもありますが、少し長い目でみると、高い実質金利が実現する(別の言い方をすれば高い実質金利に耐えられる)国は実質潜在成長率が高い国です。従って中長期的には、潜在成長率が高い国の通貨が高くなる傾向にあります。
「対外黒字の累積」・・・貿易等で対外黒字が溜まると、その黒字国は対外債権を持つことになります。黒字の累積額が大きくなるにつれて対外債権も増えますが、これは黒字国が保有する赤字国資産の増加を意味し、その過程で赤字国資産の魅力が減るはずです(黒字国からみてお腹が一杯になるので、赤字国資産が値下がりしない限り持ちたいと思わない)。このように考えると、例えば日本のように累積対外黒字額が大きい国の通貨は高くなる傾向にあります。ここでは「累積」と書きましたが、毎月の対外収支の赤字・黒字が材料視されることもあると思います。
「制度」・・・大分変わってはきましたが、中国のように国が為替相場をコントロールする制度下では、当然その国の意向が為替相場を左右します。最近の状況で言えば、我慢して人民元高方向にコントロールしてきたが、貿易問題で我慢できなくなり自然に委ねた結果、ここにきて人民元が安くなったといったストーリーです。日本は今では殆ど為替介入を行いませんが、一昔前までは介入がとくに円ドル相場を左右する大きな要因でしたね。
「需給」・・・短期的な要因に過ぎないかもしれませんが、需給が市場で話題視されることがしばしばあります。東日本大震災後、日本があれだけの大災害に見舞われたにも拘わらず円高が進行しました。保険金支払い原資(円)確保のため日本の保険会社がドル建て資産を売るとの思惑が原因でした。暫く前の話しですが、米国の税制改革により米国企業が海外に溜まった収益を本国に戻すとの思惑が相場に影響したこともありました。
「リスク」・・・何だか危ない国の通貨は売られます。Brexit決定やボリス・ジョンソン首相就任直後のポンドやトルコリラの急落が近年の好例でしょうか。
以上では尽きないかもしれません。また中期的な要因、制度的要因と短期的な要因をごっちゃ混ぜにしてしまった気もします。ただ、こうしたいくつかの要因を、しかも複数国を相対比較しながら判断するので、為替相場の読みは難しいのだと思います。
(為替相場を議論する難しさ)
ところで、日本では良く為替相場(とくに円ドル相場)が論争のタネになります。かつてのG7や今のG20財務大臣・中央銀行総裁会議のコミュニケの中で最も注目を集めるのも為替相場を巡る箇所です。私が子供の頃、円ドル相場は360円に固定されていました。その頃のスタンダードななぞなぞが「ハンドルの値段はいくら?」だったことを懐かしく思います。今の若い方にはさっぱりでしょうね。答えは180円です。その後、米国経済の競争力低下を背景に、ニクソンショックそしてプラザ合意を経て、為替相場は変動相場制に移行し、相場は80円前後まで円高化し、最近は110円近辺で推移しています。こうした過程を見てきた私と同世代や上の世代の中で、為替相場は政治で動き、かつ動かせるものとの感覚が根付いているように思います。このため、円高、円安何れの方向を支持するにしても、「為替相場は市場に委ねよ」との意見はなかなか賛同を得られません。
円高、円安何れが良いか後の方で触れることとして、ここでは為替相場を議論する際の2つの難しさを紹介します。
第1に、円高論者であっても流石に1ドル50円が良いと思う人は皆無と思います。また円安論者でも1ドル200円に戻って欲しいと思う人は皆無と思います。ここ数年の例を取ると、白川日銀総裁時代、1ドル100円を大きく切る水準まで円高が進んだ際、日銀は袋叩きに合いました。その後、黒田バズーカに代表されるアベノミクス下で円安が進むと、経済界や政界は大喜び。しかし120円を超えてくるようになると「もうそろそろこの辺で」との声が出始めました。要するに、円高論者も円安論者も極端な帰結を望んでいる訳ではなく、一定の幅の中での居心地の良さを競っているのが実態と思います。逆に言えば、良く為替相場に関し「経済のファンダメンタルズを反映した相場」との言われ方がなされますが、経済の実態や実力に沿った為替相場水準の一定の幅の中にあれば、その中でやや円高か円安かは大した問題ではないように思えます。しかし、ニクソンショック以降の歴史を経験した者にとり、本当は大したことのない問題を針小棒大に膨らませないと気が済まない、一種の感情論が残ってしまった気がします。
第2は、財務省と日銀の権限や責任です。為替介入は日銀の権限と誤解される方が少なからずいます。しかし為替介入を行うか否か決めるのは財務省です。日銀法には態々「日銀は為替相場を動かすため外国為替を売買してはいけない」との条文すら置かれています。ただ、為替介入の原資である外為特会の実務を財務省の「代理人」として扱うのは日銀です。財務省が為替介入を決めると、日銀に指示して為替介入の実務を行わせます。日銀は単に手足に過ぎませんが、市場参加者と接するのは日銀のため、日銀が為替介入の責任者との誤解を与えるのだと思います。このことと、日銀の金融政策が為替相場に影響を及ぼす、及ぼさないとの話しは別次元です。上に書いたように金利が高い(低い)国の通貨は買われ(売られ)やすいので、金融政策は為替相場に影響します。しかし、白川総裁時代、世間から「円高を放置するのは無策」と批判された日銀は、この金融政策と為替相場の関係の次元でなく、「日銀は為替介入の権限が無い」「円高を所与として景気に悪影響があれば対応することが日銀の役割」と対応しました。これはボタンの掛け違いで、世間の批判の火に油を注いでしまったように思います。
(円高、円安の良し悪しを巡る難しさ)
とりとめもなく書いてきましたが、為替相場を巡り最も厄介なことは「立場により損得が異なる」点です。
例えば、外貨資産運用を資産運用の主に置かれている方には、その外貨の価値が上がる(円が下がる)方が良いわけです。しかし、円安は例えば自らが運転する自動車のガソリン価格上昇のような問題ももたらします。自動車会社は円安が輸出に有利に働きます。また海外グループ会社の収益も円建てで膨れます。しかし円安が進むと輸入原材料価格上昇のような問題が生じ、更には「海外から日本に生産を戻すべきか否か」などとても難しい経営課題に直面してしまう(トランプ政権下でそんな判断は嫌でしょうね)ので、手頃なところで相場の安定を望むと思います。スーパーでは円安による輸入物価上昇を販売価格に転嫁できないことを悩むでしょうし、外国人観光客に人気のホテルや旅館は円安を歓迎するでしょう。白川総裁時代に円高化した際、一部の企業は「海外会社を買収する絶好のチャンス」とときめきました。自国通貨が強いことの本領発揮の場面だったと思います。当然海外旅行も割安になりました。なお、国家公務員が海外出張する際のホテル代の予算は円建てで決まるので、円高下ではリーゾナブルなホテルに泊まれ、円安下では場末の安いホテルを必死に探します。こうした仕事に携わる公務員の本音の望みは円高です。
それでは円高、円安、どちらが良いか?私の暫定的な答えは以下です。
・フローの対外収支は以前ほど黒字ではなく、数年前に資源価格が高騰した際は貿易収支が赤字に転じたことすらある。以前に比べ、この面で円高、円安による有利不利はさほど無くなってきた。しかし、先達のご努力のおかげで、日本は過去に対外黒字を積み重ね、ストックでみた対外純債権国になっている。対外債権の価値は海外通貨の価値が上がる(円安になる)方が高まる。従って、日本全体でみれば円安が望ましいとの意見には引続き一定の合理性がある。
・しかし、(上の方に書いたように)累積黒字はそれだけを取ると円高要因である。従って、累積黒字の中で円安を望むことには限りがある。米国に比べると潜在成長率も低いので、中長期的にはこの要因が累積黒字による円高要因を打ち消すかもしれないが、円安を望み過ぎ、日銀の金融政策への過大な緩和期待を膨らませることは、別の場面で問題を引き起こす恐れもある。
・海外の例(最近ではベネズエラやトルコ。かつてのロシアなど)をみても分かるように、通貨の暴落は国の崩壊をもたらす。自国通貨が弱い方が良いとの考え方が過ぎると、とんでもない帰結を招きうる。とくに日本の場合、公的債務残高の大きさが注目を集め勝ちなので、油断は禁物。
・当面の為替相場を巡る最大の「リスク」はトランプ大統領のツィート。FRBの利下げはそれだけを取るとドル安円高要因となる。また、貿易問題の激化が安全資産とみられている円買い(円高)に結び付く可能性もある。更に日米貿易交渉の帰趨次第で円相場に圧力をかける可能性もある。今の日本がこの圧力に抗すことが出来るかどうか疑問。とくに為替相場対策で日銀がマイナス金利の深堀りに走ることが望ましいか?
・以上のように考えると、現状程度の為替相場で推移してくれれば御の字に思える。7月末以降の円高についても、さらに急激かつ極端に進まない限り、「円高にも良いことがあるよね」と大らかに過ごすことが良いのでは?
冴えない結論で失礼しました。
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3 comments on “Vol.29: 円高?円安?”
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ご了承のうえ、ご利用ください。
珍しく、お迷いですね。
段々哲学に似てきた、経済分析も。
アルゴリズムで考えるか・?
ヒューリスティクに処理し、後で理由付けするか・?
米国のトップにトランプが座って以来、経済の迷宮に迷い込み、
専門家は出口を見つけられない。
知能検査では、出口から入り。入り口から出ていくのが、最善の道、最短距離なのだが、出口と入口の境目も定かではなくなつた。
こんな混迷時は、哲学の本を読み直すのも、最善・最短の道だったりして・・・
( ^△゜)
JDさんからの紹介で読ませて頂きました。
たまたま為替について、恥ずかしげもなく、JDさんに質問していたのですが、タイムリーにこちらにも重厚な解説があると聞いて訪れた次第です。
本解説により私の以前からモヤモヤしていた部分が、横串を通されて整理され、大変スッキリした気分です。
(到底、私にはこんなキレイに整理出来ません!)
やはり、こういう白黒つけ難い結論になるんだなぁ、とむしろ安堵した感じです。
(自分が理解できなかったのではないんだ、という安堵かな。。)
奇跡のコラボレーションに勝手に驚き、勝手に感謝しております次第です。
と言われても。。。
という感じかと思いますが、この場を借りて、自分勝手にお礼を申し上げます。
ありがとうございました!
マイナス金利は今後辞められるか?素人考えだが金利がマイナスなら現金で置いた方がいいとはミクロの考えだがマクロで考えると、銀行にあるお金は電子記号で紙幣ではない。日銀の当座においてあるに過ぎない。ここを日銀がマイナスにするから、そのお金は外へ行く。しかし別の当座預金には0.1パ^セントの金利がついているという。その昔学校で習った時は当座預金には金利はつかないと習ったが、いつからつけるようになったのか。之ではお金は日銀に滞留するか外国へ出ていく。現状は外国へ出て行っていると思うが、ここが実はわからない。
内実は銀行救済ではないかと思う。
仮にアメリカ貿易でドルを得ても、それはアメリカ国内の経済の出来事で、そのドルを我が国では使うことはできない。そこで為替市場が生じるが、それでも円資金を得ようとすると、得たドルを両替するか、担保にして円資金を借りるかで、それぞれにおける円とドルの量は変わらない。何らかの形でそれぞれの中央銀行が関与しないと資金は得られない。
要するに何が言いたいかというと為替が理解できない。江戸時代は金銀銅の三つの貨幣があり、そこに相場が立っていた、その上藩札があり、これがものを言っていた。
グッチーポストを読んでアメリカ株を保持したが自動的に為替に関心が行く。
そこで思ったがある程度の金があると為替など気にせずにその時々の相場をみて交換をすればいいだけで、それ以上の物はない。
そこで思うが日本人全員がドル資産円資産ユーロ資産を持てば、為替による変動は何ともなくなるのではと妄想をした。仮に一ドル50円となればこれ幸いとして円をドルに換えてドル投資をすればいいだけで、元の経済、つまり日本経済がしっかりしていれば、またはアメリカ経済がしっかりしておれば、個人としては大きな変動を受けないのではと思う、実際にドル資産をもってそのように思う。株を購入したが安いものを探したに過ぎない。つぶれるという要素があるが、多国籍企業ならつぶれる心配はないと思う。
ちなみにアメリカ株はそれぞれが奇妙な周期性をもって、動いている気がする、その中で大きく下がった、優良株を買うのは簡単ではないかと思う。最近ではAT&Tで30ドルまで下がったが今は36ドル。クラフトハインツは25ドルまで下がったが今は29ドルです。
いずれにしても外国株を持つと為替にたいして、どちらへ動いてもいいではないかと思うようになった。