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2011/04/14 00:00  | 音楽事情 |  コメント(0)

大震災のクラシック音楽界への影響


 大震災発生から1ヶ月が経過しましたが、あまりにも被害の度合が深刻で、原発危機も未だ出口が見えず、まだ「進行中」という感覚にならざるを得ません。私の家族や友人も被災しましたが、周辺でもそういった話を耳にすることが多く、今回の災害の規模の大きさを改めて実感しています。
 本来なら、「PCオーディオ」「ネットオーディオ」によるクラシック音楽鑑賞法についてご紹介するつもりでしたが、少し延期させていただき、今回は、大震災と原発危機がクラシック音楽界にもたらしている影響について、少しだけ触れておきたいと思います。

 震災の直後に聞こえてきたのは、CD業界に関するもので言えば、店舗、CDプレス工場、流通倉庫などの被災でした。メジャー・レーベルは3月に予定していた新譜リリースを延期して対応していました。新譜リリースが極端に減った1ヶ月が終わり、計画停電の影響も少なくなった現在は、生産・流通に関しては平時に戻りつつあるかに見えます。しかし、首都圏CD店の店員たちからは「お客さんが消えてしまい、なかなか戻ってこない」という声もよく聞きます。

 演奏会に関しては、相次ぐ開催の中止、ホールの被災などが深刻な影を落としています。

 各地でホールに被害が出ていますが、震源から比較的離れている神奈川県の「ミューザ川崎シンフォニーホール」の天井の一部が落ちたことは、朝日新聞に掲載されたショッキングな写真などをご覧になり、ご存知の方も多いでしょう。指揮者サイモン・ラトルをはじめ、ここで演奏した数々の音楽家たちからその美しい響きを称賛されていた名ホールの休館/公演の中止は大変残念で、ここを本拠地にしている東京交響楽団の運営も心配です。開館が2004年と新しいのに他所に比べて大きな被害が出たことから、まずは様々な検証が必要になっているようで、再開にはまだまだ時間がかかりそうです。

 ホールが無事で、問題なくコンサートを開催できる状況のところでも公演中止が相次いでいるのはなぜでしょうか? 震災直後は、「自粛」がその主な理由でしたが、ここに来て深刻化しているのは「原発」の影響です。「原発」の現状を考慮して、海外のアーティストたちが来日を見合せているのです。
 招聘している日本のマネージメント会社がいくらアーティストたちに「来日しても大丈夫! 影響はほとんどありません」と言ったところで、そう簡単に納得できないのは理解できます。アーティストたちは、自国での報道を見、様々な情報を収集した上で判断しているのはもちろんですが、在日大使館に連絡して相談した人は「来日は勧められない」と言われているようです。それも当たり前。ドイツやオーストリアなど東京にいたヨーロッパ諸国の大使館員たちは、いちはやく関西方面に避難し、大使館機能を移転させてしまったのですから。ある国では、日本に渡航する場合、被爆した場合の再入国を制限する可能性を示唆した同意書に署名することを求められるとか……。

 来日公演中だったフィレンツェ歌劇場は、フィレンツェ市長の帰国命令を受け、途中から公演を中止。東京のオーケストラの音楽監督や常任クラスの外国人指揮者たちは来日を取りやめ、ウィーン・フィルの首席奏者等で構成された室内オーケストラの「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」も全公演中止……指揮者から器楽奏者、オーケストラ、オペラに至るまで、来日公演の中止が続いています。
 そんな中、予定がなかったにもかかわらず敢えて「日本のために」と来日してチャリティ公演で「第九」を振った指揮者のズービン・メータ、アンコールで「ふるさと」を聴衆とともに熱唱した世界三大テノールのひとりプラシド・ドミンゴなどの超大物たちは、大喝采を受けました。これで、少し来日中止ラッシュが収まるかと思った矢先、「レヴェル7」の発表がなされ、事態はさらに深刻な局面を迎えています。

 主催者や招聘元は、大打撃を受けながらも公演中止の告知や払い戻しなどの作業に追われています。これが続けば、深刻な影響がもたらされるのは間違いないでしょう。クラシック音楽界というごく狭い世界が受けている影響の話ではありますが、とても気になるところです。

 数時間だけでも日常を離れ、ゆっくりと音楽に耳を傾けたい今日この頃です。こうした時だからこそ、なのかもしれません。
 次回からは、「音楽そのもの」についての話題に戻したいと思います。

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