2010/01/13 17:52 | アーノンクール | コメント(0)
アーノンクール、80歳のガーシュウィン
昨年末にぐっちーさんから激励の電話をいただいたのですが、そこからもさらに日が経ってしまい、ようやく本日の更新となりました。個人的に何かと問題の多かった年も明けましたので、今年は短くとも更新の頻度を高めて行きたいと思います。
さて、昨今の経済情勢に加え、この冬はクラシック音楽業界もニュースに目の離せない日々が続きました。小さいところでは航空会社の機内持ち込みサイズ規制強化、大きいところでは事業仕分け。仕分けの影響は、当初騒がれたほどは大きくないようですが、スポンサーが減り、助成が減り、さらにヴァイオリンなどの航空機内持ち込みに費用が加算され……と、特に日本のオーケストラには厳しい年の始まりと言えるでしょう。音楽関連の予算削減に関しては小澤征爾と小沢一郎の会談も話題になりましたが、その小澤征爾さんが食道がんのため、6月までの演奏予定をすべてキャンセルするというニュースも飛び込んで来ました。ウィーン国立歌劇場、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、新日本フィル、水戸室内管弦楽団などでの指揮予定がすべてキャンセルとは、なんとも残念です。
音楽業界を取り巻く状況は大変厳しく、今年の海外オーケストラ来日公演を取りやめたマネジメント会社もあるようですが、現時点は各団体ともおそらく2011年以降の公演を仕込んでいる段階ですから、演奏会の開催に大きな影響が出てくるのは再来年以降になるでしょう
そんな中、一瞬わが目を疑い、思わず手にとってしてしまうようなCDが発売されたのは嬉しいことです。モノは、指揮者ニコラウス・アーノンクールが80歳を記念して、昨年12月にバッハのカンタータ集と同時リリースした、ガーシュウィンのオペラ 《ポーギーとベス》 SICC-1290/2。「あのアーノンクールがガーシュウィン??」と驚いた方も多かったことでしょう。でも、その意表の突き方もアーノンクールらしいかもしれません。「巨匠」よりも「風雲児」というキャッチコピーが、アーノンクールにはよく似合います。
アーノンクールは、ご存知のように1950年代にオリジナル楽器によって演奏を行うオーケストラ、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスを結成、バロック音楽を中心に、緻密な研究に裏付けられた鮮烈な演奏で旋風を巻き起こしました。その後も様々なレパートリーを鋭い視点で生まれ変わらせ、聴衆を刺激し続けてきたアーノンクールが、《ポーギー》で80歳を祝うとは! 意外だったのは、アーノンクールは幼少時、《ポーギーとベス》の初演と同年には、すでにその楽譜を入手していた父親がピアノを弾きながら歌うのを聴いて、この作品に親しんでいたということです。演奏は、アーノンクールが幼少時を過ごしたオーストリアのグラーツで、昨年6月に行なわれた演奏会形式上演をライヴ録音したものです。
これまでも、《ポーギーとベス》には数々の名盤が出ています。メル・トーメとフランシス・フェイが歌った1956年盤、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングによる1957年盤などは、ジャズ・テイストたっぷり……というか、オリジナルを大胆にジャズ・アレンジした盤と言えるでしょう。このあたりの印象が非常に鮮烈だったためか、日本では長い間《ポーギーとベス》は、ガーシュウィンのオリジナル作品として評価されることが少なく、ガーシュウィンの他作品の影響もあって、ジャズ・ミュージカルのように思われている人が多かったように思われます。
1975年にはロリン・マゼール指揮による全曲盤が、88年にはサイモン・ラトル指揮の盤がリリースされ、91年にようやく舞台でも日本初演となり、聴衆の認識も変わって行きました。
さて、今回のアーノンクール盤は、これらの「オリジナル」を録音した盤とも、一味違った演奏になっています。ガーシュインの遺志により《ポーギーとベス》のオペラ上演は黒人歌手を使わなければならない決まりがあるため、今回のアーノンクール盤も歌手にはすべて黒人を起用していますが、この作品につきものとも言えるジャズ的な香りが芳香を放つことはなく、ミュージカル的なテイストとは無縁。あくまで「純然たるオペラ」としての作品が聴き手に迫ります。CDの解説書でアーノンクールはアルバン・ベルクの無調によるオペラ《ヴォツェック》との関連性にまで触れていますが、是非、皆様もご自分の耳でお確かめください!
ところで、アーノンクールは時差に弱く、ヨーロッパで活躍する彼の演奏を日本で聴く機会はほとんどないだろうと思われていましたが、2006年にはウィーン・フィルおよびウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとの来日公演が実現し、大きな話題となりました。あれから4年、今年の10月21〜30日にアーノンクールとウィーン・コンツェントゥス・ムジクスが再来日することが決定したようです。演目は、バッハのロ短調ミサ、ハイドンの天地創造にモーツァルト(http://www.kajimotomusic.com)。
アーノンクールがこれらの大曲へ挑戦するとあっては、チケット争奪戦は必至でしょう。気鋭のアートディレクター佐藤可士和のロゴデザイン/ブランディングで勝負(?)に出た「新生」KAJIMOTO(旧・梶本音楽事務所)の前売り情報に注目しましょう。
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