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2021/03/26 08:00  | 選挙 |  コメント(6)

公認バトルロワイヤル


この数日、衆院解散時期に関する報道が多くなってきました。解散がいつ行われるかはともかく、10/21が任期満了日なので、あと半年ほどの間には選挙が行われます。各政党は、選挙の体制を整えていかなくてはなりません。

そこで、今回は、自民党の公認争いについてお話します。特に、党員獲得競争の視点から詳しく解説します。

●自民党大会

首相「総選挙、先頭に立って戦い抜く」…2年ぶり自民党大会(3/21付読売新聞)

自民党の党大会が3/21に開催されました。昨年は新型コロナウイルスの影響で見送られましたが、今年は都内のホテルに国会議員約500人を集め、地方組織の代表はオンラインでの参加になりました。

東京では、再々延長された緊急事態宣言がこの日まで発令されていました。しかし、年内には衆議院の解散・総選挙が行われることを見据え、結束をはかるため、予定通り実施されたものです。

菅義偉総理は、「今年は選挙の年だ」と強調。4月の衆参補選、7月の東京都議選に触れた上で、「どんなに遅くとも秋までには総選挙があります。その先頭に立って戦い抜く決意です」と述べました。

来賓として招かれた公明党山口那津男代表も、「選挙協力をしっかり行い最大の成果を生み出すことが、この連立を組む自公の責任でもあります」と述べ、菅総理を援護射撃しました。

コロナ対策のため、国歌斉唱は歌手の由紀さおりさんの独唱で、参加者は声を出さず心の中で歌う「黙唱」、そしてフィナーレの党歌は、青年局所属の若手議員たちが手話で行うという、例年とは異なるフォーマットになりました。手話が得意な今井絵理子参議院議員が張り切っていました。

●党員獲得数ランキング

いろいろと見どころはありましたが、私が気になったのは、なんと言っても、当日発表された国会議員の党員獲得数ランキングでした。

自民・二階氏、衆院公認は「実績主義」 党員獲得数を参考(3/23付産経新聞) 

このランキングから、自民党内の公認争いについて様々な情報を読み取ることができます。

まず、トップを飾った二階俊博幹事長は、「さすが」の一言です。

現職議員同志、あるいは現職と前職が競合する選挙区では、解散までに、どちらを公認候補とするのか調整をしなくてはなりません。二階氏は、その際、「人気、評判、噂だけではなく、党員獲得数を参考にするのは当然」と明言しています。

自民党は現在、調整が必要な選挙区が10あり、なんと、そのうち6つに志帥会がからんでいます。そうした状況から、二階氏は自ら誰よりも多く新規党員を獲得することで、文字どおり率先垂範してみせたわけです。

ランキング4位の鷲尾英一郎氏は、元は民進党の議員ですが、2017年の総選挙には無所属で立候補し、当選。同じ選挙区を争った細田健一氏(清和会)は、比例復活となりました。その後、鷲尾氏が自民党入りし、続いて志帥会に入会したことから、話がややこしくなりました。

鷲尾氏が無所属で勝ったという事実は大きいのですが、現在新潟2区の支部長を務めるのは清和会に所属する細田氏です。そのため、鷲尾氏は、地元での活動を頑張っている、支援者もこんなにいる、というアピールをすべく、党員獲得に尽力したに違いありません。

8位の中曽根康隆氏は、中曽根康弘元総理の孫、中曽根弘文参議院議員の長男というサラブレッドながら、前回の衆院選では選挙区で立候補することがかないませんでした。自民党群馬県連が選考の末、当時比例北関東ブロック選出の現職議員だった尾身朝子氏(清和会)を候補とすることに決めたからです。選にもれた中曽根氏は、無所属での立候補も辞さない構えでした。しかし、最終的には党本部の候補者調整に応じ、比例単独候補として出馬し、当選しました。

自民党のルールでは、「比例単独の立候補は原則として2回まで」となっています。このため、比例単独の議員は、選挙区を得られるよう、必死で活動しなくてはなりません。

中曽根氏は、自身のブログで「党員獲得数は自民党へ貢献度を示す大変大事な数字」「今年行われる解散総選挙に挑んで参ります」と述べており、依然として群馬1区の公認を狙って活動していることがうかがえます。

7位の畦元将吾氏は、中曽根氏同様、前回は比例単独の立候補でしたが、次点で落選。同ブロックで当選し衆議院議員を務めていた三浦靖氏が、2019年の参院選に転出することとなったため、繰り上げ当選となりました。

畦元氏は、2013年、2016年の参院選にも比例代表の候補として立候補しています。3度目の挑戦でやっと掴んだ繰り上げ当選。支部長となれる選挙区を手に入れるべく、党員獲得に励んだことが推測されます。

また、同じく宏池会所属で広島5区選出の寺田稔氏もランキング入りしています。寺田氏は、宏池会を作った池田勇人元総理の娘婿である、池田行彦氏の後継者です。寺田氏の妻が行彦氏の姪にあたるのです。宏池会の「ホーム」とも言える広島は、折しも河井克行・案里夫妻の不祥事に揺れています。畦元氏も広島を地盤としているため、宏池会として広島の有権者の支持を取り戻すため、党員獲得活動を頑張ったのかも知れません。

●志帥会 vs. 宏池会

意外だったのは、二階氏に次ぐ2位となった、堀内詔子氏です。同氏が地盤とする山梨2区は、義父である光雄氏の代から、現在山梨県知事を務める長崎幸太郎氏とのバトルが続いていました。

ことは2005年の郵政解散に遡ります。郵政民営化に反対した光雄氏は無所属で出馬し、自民党から刺客として長崎氏が送られます。選挙区では光雄氏が10回目の当選を勝ち取り、長崎氏は比例復活で初当選。翌年光雄氏が自民党に復党し、2009年衆院選では、光雄氏が公認候補となります。長崎氏は比例単独1位を打診されますが、これを不服として無所属で立候補します。結果は、双方が落選。

2012年衆院選は、引退した光雄氏の後継として、嫁の詔子氏が公認されます。選挙区では無所属の長崎氏が勝利し、詔子氏は比例復活。その翌年、長崎氏は志帥会に入会します。このように、自民党員でない議員まで入会させる懐の深さ、あるいは、「なんでもあり」の姿勢が志帥会の真骨頂です。

二階氏の後ろ盾を得た長崎氏は、2014年衆院選も無所属で当選。そして、2017年衆院選は、幹事長となった二階氏が、長崎氏、詔子氏のいずれも公認せず、選挙区で勝った方を追加公認することとしました。

それまでの対戦成績からすると、長崎氏有利と思われましたが、結果は、詔子氏の当選。それまで国政にこだわりをもっていたとされる長崎氏ですが、2019年に山梨県知事に転じました。これをもって、15年の長きにわたる堀内vs.長崎の戦いには終止符が打たれたものと思われました。

しかし、詔子氏は今回、党員獲得でここまでのプレゼンスを見せました。このことからすると、まだまだ長崎氏への警戒を解いていないのかも知れません。

実際、長崎氏は、知事になってからは積極的に発信を試み、国会議員時代とは比較にならないくらいメディアに露出しています。山梨県内のローカルメディアには、より露出が多いことでしょう。詔子氏が懸念するのももっとものような気がします。

加えて、先頃報じられた、県有地をめぐる山梨県と富士急行の問題が頭に浮かびました。

堀内家は、富士急行の創業家です。光雄氏の祖父である良平氏が設立し、父に続いて光雄氏自身も社長を務め、現在は詔子氏の夫(光雄氏の長男)がグループを率いています。

山梨県は、富士急行が別荘地などに活用している県有地の賃料は、現在の約6倍の20億1000万円が妥当とし、契約は違法無効状態であるとしました。これに富士急行は反論し、賃借権の確認を求める訴えを起しています。こうした中、県が、富士急行に県有地内の別荘地の新規契約を認めない通知を出したことが分かっています。

堀内vs.長崎のバトルは、国政を離れてなお続いているようにも見えます。

●党員獲得数のノルマ

ちなみに、自民党は、2014年に党員120万人の目標を打ち立て、所属する国会議員1人あたり、年間1000人の党員獲得のノルマを課しています。この目標を達成すべく、2017年には、前年度のノルマ未達者に対し、不足分1人につき2000円の罰金を課すこととしました。

続いて、昨年6月には、そのノルマを達成できなかった議員は、次期衆院選では比例代表名簿に載せないとの方針を打ち出しました。また、2回以連続して比例復活の議員は、次期衆院選では、原則として比例区との重複立候補を認めない、との方針も明らかになっています。

今回、党員獲得ランキングのトップ10に入った議員には、比例復活の議員はいませんでした。しかし、比例復活が続いている議員は、党員獲得に躍起になっていることでしょう。

「比例単独」「比例復活」という観点で見ると、驚いたのは、清和会所属の議員が1人もランクインしていないことでした。清和会は96人を擁する、党内最大派閥です。「魔の3回生」と呼ばれる2012年衆院選初当選組も多数所属しています。そのため、地盤が安定しておらず、先に述べた比例復活に関する方針に該当しそうな議員がちらほらと見えます。

また、問題発言でたびたび世間の批判を浴びる杉田水脈(清和会)氏は、比例中国ブロック単独の候補です。安倍晋三総理(当時)の引きで他党から自民党に移って来たためでしょうか、元々政治活動をしていた兵庫県ではなく、山口県連の所属です。選挙区をもらえるよう、党員獲得に励まなくてはならない立場です。

●自民党以外の政党の党員獲得競争

ここまでは自民党の話です。では、他の政党ではどのような党員獲得競争が行われているのでしょうか。

実は、自民党以外の政党については、党員獲得と公認との関係性がよくわかりません。というのも、まず旧民主党系は、2014年に下野してからは離合集散が続いているからです。

そもそも、党内で現職議員同志が公認争いをするほど議員がいませんし、空白区もたくさんあるので、候補者擁立の際も、党員獲得状況は、自民党ほど優先順位が高くないのではないかと思っています。

とはいえ、政党に所属する議員である限り、党勢拡大のため、党員獲得努力を求められるのは当然でしょう。

維新・森議員を公選法違反で告発 党費肩代わりで(3/25付朝日新聞)

また、日本維新の会の例ですが、森夏枝議員が2018〜2019年度に獲得した党員の党費を肩代わりしていたことが発覚し、年初に党から3ヶ月の党員資格の停止処分を受けています。こうしたケースは、党を問わず10年に一度くらいの割合で表面化しているようです。

森氏は、2017年衆院選では京都3区に立候補し、候補者5人中4人で落選。惜敗率26.20%、得票率10.04%ながら、重複立候補していた比例近畿ブロックで単独1位と優遇されていたために初当選しました。

同ブロックで比例復活できなかった維新の候補の中で、森氏よりも惜敗率が高かった候補は12人もいます。うち90%台が2人、80%台が3人、70%台が1人です。当然、党内では不満の声が出ていると思われるので、森氏は、次期衆院選に向けて、党員獲得など地元活動の徹底を言われていたと思います。だからと言って、法律に違反していいという理由はどこにもありません。

完全に余談ですが、森氏の初出馬は、2011年の愛媛県議選です。2012年に「維新政治塾」に参加後は、維新から衆院選に2度(愛媛4区・愛媛5区)と、県議選に再挑戦。いずれも落選でした。そして、2016年、「ゲス不倫」で宮崎謙介氏が辞職し、補選となった京都3区に国替えしてきました。

出馬会見の折、「おつくん」を連呼するので、なんのことだろう?とよくよく聞いていたら、選挙区内にある「乙訓(おとくに)」のことを「おつくん」と言っていたのです。それが響いたのかどうか、補選は次点で落選しました。

党費は年間数千円とは言え、みな財布の紐は堅いもの。頭を下げ、人柄を知ってもらい、政策に共鳴してもらうことは大変なことです。しかし、そうした地道な活動こそが、その地域に暮らす人々の声を吸い上げ、政策を通してよりよい社会にしていく第一歩です。

政治家の先生方には、党費の肩代わりなどというような禁じ手を使うことなく、真面目に愚直に頑張っていただきたいと思います。

中曽根氏がブログの中で良いことを言っていました。

「『康隆を通して自民党員になってよかった』と思って頂けるよう精進して参ります」

こうした気持ちを忘れずにいて欲しいものです。

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6 comments on “公認バトルロワイヤル
  1. まささん より:
    何度も読み返したい

    党員獲得数ランキングがここまで重要なものだとは知りませんでした。色々と合点がいきました。文中の言葉選びが絶妙なので、何度も読み返し、あれこれ妄想したいと思います。

  2. 永田町 より:
    まささんへ

    大変励みになるコメントを、どうもありがとうございます。楽しんで読んでいただけたようで、何よりです。また面白いポイントを見つけて解説していきます。

  3. だっふぁー より:
    名店の味

    素材の選び方、調理の仕方、通い詰めたくなる、クセになる味わいです。
    毎回、楽しく、繰り返し、読んでしまいます。

  4. 永田町 より:
    だっふぁーさんへ

    いつもコメントありがとうございます。
    まだ開店したばかりで試行錯誤していますが、御贔屓の常連さんができるよう、精進します。ご興味のあるネタなどありましたら、教えてください。

  5. NK より:
    今回も痛快

    選挙は終わってしまうとついつい忘れてしまいますが、当人は次の選挙に向けて着々と仕込んでいるのがよくわかりました。党内ルールも大変興味深いです。我々はこの間にどんな働きをしたかをよく見て選ばないと、自分の生活も国も大変なことになりますね、選挙でしか選択できないわけですから。野党はアテに出来ないので、与党内でしっかり切磋琢磨してマトモな人を育ててほしいです。

  6. 永田町 より:
    NKさんへ

    日本の選挙は、公示・告示から投票日まで日が短く、討論会なども殆どないため、候補者を見極める機会が少ないです。その点、現職の議員については活動を数年間追うことができるので、投票する前に参考になる情報を精査できます。政治家をどう評価すればよいのか、ヒントになるような記事を書いていきたいと思っています。

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