2021/04/13 07:00 | 選挙 | コメント(0)
自民党の候補者調整 〜 派閥の代理戦争 〜(3)寄らば派閥の陰
先週から、自民党の公認調整をめぐる派閥の代理戦争について連載を開始しました。ところが、そんな折、「派閥はもはや意味がない」という趣旨の記事を見かけました。
■ 菅総理も無派閥! 議員の出世競争に派閥はあまり機能しなくなった(4/10付現代ビジネス)
読んでみると、この記事を書いた人の前提となる認識が、私とは異なるように思いました。
本ブログは、読者の皆さんに永田町のリアルな姿を知っていただきたいとの思いで始めたものです。そこで、この記事について気になったところを取り上げ、私なりの考えをお伝えしたいと思います。
●丸川珠代氏の評価
まず、こちらの記述です
「元テレビアナウンサーの丸川珠代先生が、二〇一六年の党員獲得数がたったの二人だったことがニュースになったことがある。丸川先生は当時、閣僚だっただけに、ニュースでも大きく取り上げられてしまった。あのように悪目立ちしてしまうと、政治活動に積極的ではないという評価を受けかねない。ポストを狙うのが難しくなるし、あまりにひどいと党の公認を受けられなくなる可能性もある」
丸川珠代氏に対して、かなり厳しい評価をしているようです。しかし、この考察はどこまで的を得ているものなのでしょうか。
丸川氏は、2007年参院選で初当選。2015年には第3次安倍第1次改造内閣で環境大臣兼内閣府特命担当大臣(原子力防災担当)として初入閣します。翌年の内閣改造では、東京オリンピック・パラリンピック担当国務大臣に横滑りしました。当選2回にして2度目の大臣拝命です。
自民党は、2014年から「120万党員獲得運動」を実施しており、全ての所属議員に党員1000人を集めるというノルマを課しています。達成できない場合には、不足分1人につき2000円の罰金が課されます(以下の記事を参照)。
・「公認バトルロワイヤル」(3/26)
現代ビジネスの記事によれば、丸川氏は、2016年度にはたった2人しか集められなかったということなので、党員獲得実績はほぼゼロです。たしかに「あまりにひどい」場合に相当するように見えます。
しかし、「党の公認を受けられなくなる」ことはありませんでした。2019年の参院選では、すんなりと公認を得て、3期目の当選を飾っています。
それどころか、今年2月には、3度目の入閣を果たします。これは、森喜朗元総理の辞任によって、橋本聖子大臣(当時)が東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の委員長に就任したためです。橋本氏の後任として、内閣府特命担当大臣(男女共同参画)兼国務大臣(東京オリンピック・パラリンピック競技大会担当)に任命されたのです。
以下の記事でお伝えしたように、大臣の任命には「ルール」があります。ひとつは、「参院枠」と呼ばれるものです。これによると、参議院議員の入閣は、原則1回です。
・「武田大臣が辞任したら?:後任の大臣を大胆予想」(3/19)
また、それとは別に「女性枠」も存在します。通常、衆議院議員は当選6回、参議院議員は当選3回くらいが入閣「適齢期」とされているのですが、女性議員の場合は、当選回数が少なくても大臣に任命される傾向があるのです。
丸川氏は、東大卒・元テレビ朝日アナウンサーという才色兼備で、華麗なバックグラウンドの持ち主です。しかも、安倍晋三前総理のおぼえがめでたかったため、他の同期当選の議員とは別格の扱いを受けているように見えたこともあります。3度も大臣に任命されたのは、「女性枠」にはまったことに加え、こうしたユニークなアドバンテージがあったからでしょう。
こういった事情を考慮すると、党員獲得実績がほぼゼロであっても、丸川氏の政治生命に傷がついたようには、私には見えないのです。
●派閥と人事
次に、以下の記述です。
「どの派閥に属しているかが出世に影響するのは、いまや昔のことだ。派閥は形としては残っているが、実体はほとんどない。二〇〇一年からはじまった小泉政権によって派閥が解体されてからというもの、派閥による人事への影響はほとんどなくなった」
たしかに、かつての派閥華やかなりし頃と比べると、現在の自民党の派閥は随分と変貌しました。一番変わったのは、派閥の会長が必ずしも総裁候補ではなくなったことです。そのため、「一致結束、箱弁当」と評されたかつての竹下派のような団結は見られなくなりました。また、夏の「氷代」、冬の「餅代」など、往時は当たり前とされていた派閥から所属議員に支給されていた資金もさびしくなっていると聞きます。
そもそも、派閥は、その成り立ちからして中選挙区制を前提としたものでした。このため、小選挙区比例代表並立制が導入されたことによってあり方が変化したのは、ある意味当然とも言えます。
また、記事にあるように、小泉純一郎前総理は派閥の推薦を受けず、意中の議員を一本釣りして組閣するスタイルを貫きました。それによって、人事の面でも派閥の力は弱くなりました。
自民党が2009年の総選挙で大敗を喫し下野した後は、議員数の激減によって派閥の存続が危ぶまれ、退会者が相次ぎました。野党暮らしに耐えかねたのか、議員の離党にも歯止めがかかりませんでした。派閥は時代遅れだという声もあがり、2011年には、無派閥議員が党内第一勢力となったくらいです。
ところが、2012年に自民党が政権に復帰すると、派閥に変質が見られるようになりました。政府や党本部のポストを獲得するための装置となってきたのです。
安倍晋三前総理は、第2次安倍内閣の発足に際しては、あまり派閥にとらわれずに大臣を任命しています。まず、自らの盟友である麻生太郎元総理を財務大臣に据え、菅義偉氏、甘利明氏、山本一太氏という無派閥議員3人も入閣させました。麻生・菅・甘利・山本の5人は、安倍前総理の再登板を後押ししていた人たちでした。
このような経緯から、第2次安倍内閣は、総理と閣僚の信頼関係が強かったのでしょう。改造されるまで2年以上続き、同一メンバーでの戦後最長記録となりました。
ところで、当選回数による年功序列や世襲といった、現在まで続いている自民党を特徴づけるシステムが確立したのは、実は、安倍前総理の大叔父である佐藤栄作総理の時代です。
佐藤内閣は7年半もの長きにわたって続き、昭和時代最長を誇りました。また、佐藤元総理は、自民党史上唯一4選された総裁で、総理としての連続在任期間は安倍前総理に次ぐ第2位です。当選回数という誰にとってもわかりやすい指標を使って、議員を使いこなすことに絶妙なセンスを発揮したのです。「人事の佐藤」と呼ばれた所以です。
佐藤元総理の考えの背景にあったのは、政権の基盤を安定させるには人事の不満をなくすことが何よりも重要との考えだったと言われています。
第1次安倍内閣は、小泉元総理のように派閥にとらわれずに意中の人を大臣に任命しました。しかし、総裁選で支援してくれた議員を優遇したため、「お友達内閣」と揶揄されました。第2次安倍内閣も同様のコンセプトで組閣されたように見えますが、2年たって改造して以降は毎年改造を行うようになりました。また、次第に派閥に配慮した人事をするようになっていきました。長期的に安定した政権運営を標榜して、大叔父である佐藤元総理の手法に倣うことにしたのではないでしょうか。
安倍内閣に続く菅内閣は、「安倍政権の継承」を基本方針とし、閣僚の一部も引き継ぎました。他の閣僚や副大臣・政務官も派閥の力関係を反映したものになっています。
こうした事情をかんがみると、「派閥の人事への影響はほとんどなくなった」とは言い切れないと思うのです。
●無派閥議員の規模
最後は、「最近の議員の多くは無派閥」についてです。
現在の派閥の構成は以下の通りです。
清和会 96人
志公会 55人(大島理森衆議院議長と山東明子参議院議長を含む)
平成研 53人
志帥会 47人(特別会員である秋元司氏と細野豪志氏を除く)
宏池会 47人
水月会 17人
近未来 10人
無派閥 64人
たしかに無派閥の議員は多く、合計すると志公会を凌ぐ規模です。しかし、全体の15%強を占める程度にとどまっています。また、一つの塊になっているわけでもありません。
これをもって「多くの議員は無派閥」とするのは無理があるのではないでしょうか。かえって全体像がつかめなくなるように思えます。
とはいえ、派閥のあり方や役割、影響力が変化しているのは事実です。親分を総理にするんだという執念、資金援助、新人教育、仲間意識などが希薄になりました。
しかし、派閥に所属する議員の公認(選挙区)獲得と、閣僚などのポスト配分のサポートという機能は今なお残っています。その意味で、派閥が果たす役割は決して小さくはないと思います。
言い換えれば、派閥というフィルターを通すことで説明がつく動きもまだまだ数多く存在するということです。私は、この連載で、派閥という視点から候補者調整をめぐる動きを分析していますが、それは、こうした考えに基づくものです。
さて、ここから本編である次期衆院選に向けた候補者調整について、「志帥会 vs. 清和会 その2」の新潟2区を取り上げる予定でした。ところが、現代ビジネスに記事対するツッコミが想定外に長くなってしまい、編集部から、「ここまでにしてください」と言われてしまいました(苦笑)。仕方がないので、新潟2区については次の機会にします。
もうしばらく楽しみに待っていてください。
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