2025/11/01 17:00 | 戦略論 | コメント(0)
クマ問題が国家に突きつける課題
今週の戦略関連のニュースで注目すべきは、トランプ大統領と習近平国家主席が韓国で6年ぶりに直接会談を行い、その成果として米中間の貿易摩擦に関する問題を一時棚上げしたことでしょうか。
■ 米大統領、対中関税10%下げ表明 レアアース輸出継続や合成麻薬対策で(10/30 ロイター)
ここで注目されるのは、レアアースもありますが、それ以上に中国がアメリカ産の大豆などの農産物をただちに膨大な量購入するとトランプ大統領が発表したことです。
すでに本メルマガでも指摘しましたが、中国側はアメリカ側の一番痛いところ(農業州はトランプの票田)を貿易交渉において攻め、農産物を輸入禁止にすると脅していました。トランプ政権はその脅しに屈して妥結したという構図になります。
とりあえず今回は、強烈な対立に発展しなかったことでマーケットは米中会談を評価し、世界的に株高を維持するなどの恩恵を受けているところですが、戦略面でいえばトランプ大統領は中国側に屈したという事実が残ります。したがって、いわゆるTACO(Trump Always Chikens Out:トランプは常にビビる)という傾向は今回も正しかったと言われそうです。
また、この種の外交交渉から出てくる合意などについてよく指摘されるのは、「何が語られていたか」という点よりも「何が語られなかったのか」です。そして当然ながら、ここで一言も「語られなかった」のは台湾問題であります。
本メルマガでは、今年2月に配信した第16号(以下のリンク参照)で、トランプ大統領が米中間で「大取引」(グランドバーゲニング)をして台湾を見捨てる可能性について、チャールズ・グレイザーという学者の議論を引用して議論をしていましたが、今回の米中首脳会合を見る限り、そのような動きはなかったようです。
・『トランプは台湾を北京に譲るか?』(2/21)
これについてはおそらく様々な見方があるのでしょうが、いくら自由奔放なトランプ政権とはいえ、中国と「大取引」をするようなインセンティブはなく、他の分野で屈したとはいえども、台湾までは差し出すつもりはない、西半球(南北アメリカ)に関心を集中させているとはいえども、インド太平洋の覇権までは渡さない・・・という覚悟を確認したと言えそうです。
ただしそのような中で、以下に気になるニュースが出てきました。ひとつはアメリカ軍が東欧の駐留部隊の規模を縮小することをNATO側に伝えたというニュースです。
■ The US draws down some troops on NATO’s eastern flank(10/29 DefenseNews)
この記事を素直に読めば、全体的に部隊をインド太平洋側にシフトさせていると解釈することも可能です。また、たとえばルーマニアに駐留していた旅団規模(通常1,500~3,000名)でローテーションさせている部隊の数を、ローテーションを停止させて1,000人規模にするという意味では、対ロシアという意味ではあまり影響もなさそうに見えます。
ところが以下のニュースをあわせて考えると少し気になります。
■ Navy helicopter, jet crash in South China Sea in separate incidents(10/27 NavyTimes)
これは南シナ海(!)で作戦展開していた米海軍の空母ニミッツの艦載機(MH-60シーホークとF/A‑18F スーパーホーネット)が、時間的には30分ほどの間隔で次々と墜落したというものです。
幸いなことに死者は出なかったとのことですが、以前からインド太平洋方面で活動する米海軍を過剰に稼働させる「オーバーストレッチ」(過剰拡大)は問題視されていました。今回の出来事はそれをさらに強調し、厳しい現実を浮き彫りにしたといえます。
一方で、日本に目を移せば、発足したばかりの高市政権は日米首脳会談も大成功させ、新たな風を吹かせておりますが、安全保障面での現実が実に厳しいものであるのには変わりなく、実務面でも着々とものごとを進めていただければと願うばかりです。
さて今回は、いつもの国際政治に関わる話とは異なり、珍しく日本国内の話をしたいと思います。最近報道でも大きく取り上げられている「クマ問題」です。
※ここからはメルマガでの解説になります。目次は以下の通りです。
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クマ問題が国家に突きつける課題
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▼クマ問題の深さ
▼国家と国民の約束
▼「契約違反」?
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近況報告
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ここ数年は私の専門である「地政学」について講演を頼まれることが多く、お付き合いさせていただいている自衛隊だけでなく、中小企業の研修などでもお招きいただくことが増えています。大変ありがたいことですが、先日は日本を代表する某上場企業の幹部研修を担当させていただくことになりました。
担当したのは午前中の3時間だけだったのですが、40代から50代の社の将来を担う幹部候補のみなさんに講義だけでなく、大学院でやっているようなゼミ形式のディスカッションに参加していただきました。やはり老舗企業の幹部候補ともなると、本当に頭が切れて優秀な方々ばかりであると実感しました。
短い時間でしたが、彼らの物事についての着眼点や問題解決能力、そして何よりも彼らのエネルギーのある姿勢(体力勝負)には感銘を受ける点が多く、私もあやかりたいと感じたほどです。
やはり優秀な人材を集めて育てることは、どの組織にとっても最重要課題ですね。
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好評発売中の書籍
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■『世界最強の地政学』文春新書
■『新しい戦争の時代の戦略的思考』飛鳥新社
■『サクッとわかる ビジネス教養 新地政学』新星出版社、改訂版(再び増刷決定!)
■『やさしくわかるエネルギー地政学』小野﨑 正樹、技術評論社
■『クラウゼヴィッツ: 『戦争論』の思想』マイケル・ハワード著、勁草書房
■『地政学:地理と戦略』コリン・グレイ&ジェフリー・スローン編著、五月書房新社
■『戦争の未来』ローレンス・フリードマン著、中央公論新社
■『インド太平洋戦略の地政学』ローリー・メドカーフ著、芙蓉書房出版、
■『戦争はなくせるか』クリストファー・コーカー著、勁草書房
■『デンジャー・ゾーン』マイケル・ベックリー&ハル・ブランズ著、飛鳥新社
■『スパイと嘘』アレックス・ジョスキ著、飛鳥新社
■『アジア・ファースト』エルブリッジ・コルビー著、文春新書(第三刷決定!)
■『認知戦:悪意のSNS戦略』イタイ・ヨナト著、文春新書(★最新刊★)
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