2022/03/07 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.144: 物価のこと(その1)
まん延防止等重点措置の延長も話題にならないほど、ウクライナ情勢がとても暗い影を落としています。経済面に限っても、株価下落・ボラティリティ上昇に加え、様々な物の価格が上昇しています。
そうした中で、読者の方から物価に関する質問を頂きました。ウクライナ情勢に直接言及する訳ではなく一般論的な内容になりますが、物価に関し2回にわたり触れてみようと思います。今回は物価統計の基礎を扱い、次回(14日予定)ご質問にお答えします。
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物価は財とサービスの値段
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「物価」と聞くと「物」の値段をイメージされる方も多いと思います。しかし、物価は物(財)だけでなく「サービス」の価格も含む概念です。なお、今回は消費者物価に話を絞ります。消費者物価指数は、消費者(一般の個人や家計)が物やサービスを購入する際の価格の上がり下がりを捉えるため作られた統計上の数値です。
普段私たちは様々な物(財)やサービスを購入し利用します。例えばコンビニで弁当やスイーツを買う、スーパーで野菜や肉やお酒を買う、ドラッグストアで薬品や日用品を買う、家電量販店で白物家電やPCを買う、アマゾンで本を買うことなどが財の購入の例です。一方で、飲食店で食事をします。電車やバスに乗り運賃を払います。宿泊料や携帯通信料を支払います。子供の塾代、フィットネスクラブの料金、コロナ前であればカラオケへの支払いなども行います。これらがサービス購入の一例です。このように様々な財やサービスを購入し日々暮らしを営みますが、これらの様々な財・サービスの値段の変化を総合的に1つの指標で捉えようとすることが、消費者物価指数の発想です。なお、この記事を書くまで電気代・水道代・ガス代はサービスと思い込んでいましたが、実は「財」に分類されます。確かに「水」を物(財)と考えると、そうなのかもしれませんね。
総合するためには「足し合わせる」ことが必須ですが、そう簡単ではありません。例えば1台200万円の自動車と1個500円のコンビニ弁当。単純に比較すると前者は後者の4,000倍です。しかし、自動車を毎年買い替える人はいません。仮に10年間乗ると考えると、単純計算で年に20万円の負担となります。コンビニ弁当を平日毎日欠かさず買う人は少なくありません。年200日と考えると10万円です。こう考えると両者の差は左程大きくありません。様々な家計が平均的に見てどのような物・サービスに年間どの程度お金を使うか、その把握が物価統計作りの出発点となります。
日本全国を平均的に見ると、家計の支出は財とサービスにほぼ半分ずつ振り分けられています。東京ではサービスに57%が振り分けられています。東京の方が全国に比べサービス支出比率が高い訳です。
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出発点を決め指数を作る
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現在日本で用いられている消費者物価指数は2020年基準です。日本人の消費行動は年々変化します。大きな流れとして財からサービスへと消費の重点は変化しています。財、サービスの中でも流行り廃れがあります。この流行り廃れを5年毎に把握し直します。
ここで単純化し、日本にはAという財とBというサービスしかないとします。そして、2020年時点で平均的にAに60%、Bに40%支出しているとします。Aの値段が200円、Bの値段が400円とします。この基準年における200円や400円を「100」と指数化します。
1年後(2021年)、Aの値段が1割上昇し220円になり、Bの値段は横ばいだったとします。指数で言えばAが110、Bは100です。加重平均で110×60%+100×40%=106です。要は消費者物価はAという財の値上がりを理由に1年間で6%上昇したことになります。
上記の例では、2021年の計算の際、AとBの支出割合が2020年と不変であることを前提としました。このように支出割合を基準年で固定して計算された指数をラスパイレス指数と呼びます。消費者物価指数はこの方式で計算されます。
他方、実際の支出割合は年々変化します。例えば2021年にAが55%、Bが45%となっているかもしれません。値段が上昇したAの割合が低下しているので、この支出割合の変化を勘案すると指数は106より低くなるはずです。このように支出割合の変化を勘案して計算された指数をパーシェ指数と呼びます。物価の測り方のひとつに「デフレーター」があります。GDPについて良く「名目」「実質」と言われます。「名目」を「デフレーター」で割り「実質」が計算される関係で、名目GDPの増減が価格の上下によるものか、実質的な付加価値の増減によるものかを判断するため必須となる係数です。このデフレーター算出にはパーシェ指数が用いられます。
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統計作りはプロフェッショナル!
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物価統計の作成は、日本でも海外でも担当職員の涙ぐましい努力に支えられています。ある物やサービスの値段を電話取材、お店の現場訪問、アンケート調査など様々なやり方を通じて日々追い続けます。
しかし、基準年交代の間(=5年間)物やサービスが同じであり続ける保証はありません。例えば新製品が発売され商品の性能がアップします。物価高の中で、いつの間にかお菓子袋の分量が10g減っていることもあります。そうした変化に気付き対応することがとても大事です。お菓子の場合は比較的簡単で、分量が10%減ったのに価格横ばいとすれば、価格が10%値上げされたと判断されます。例えばPC等の新製品の場合、様々な切り口で性能の向上度合いを把握し、単位性能当たりの価格の上下を探ります。
やや別の視点ですが、物価統計上「家賃」が鬼門です。借家に住む場合は「賃借料」がストレートにサービス購入の値段となります。自家の場合はどうでしょうか?家は自動車以上に高価です。東京都心では最近は1億円近い物件も稀ではありません。この超高価、数十年間に1度の買い物をどう捉えれば良いか?そこで編み出されたのが帰属家賃の概念で、Saltさんが扱う米国経済でも良く登場します。単純に言えば、自家が借家だと仮定した場合、家賃をいくら払うだろうか?との発想です。この帰属家賃が支出割合の約15%を占めるので、推計の良し悪しが物価指数の信頼度を大きく左右します。
技術的な説明の連続で盛り上がらない回になってしまいました。次回はご質問への回答です。
・コアやコアコアCPIで生鮮食品やエネルギーが除かれるのはなぜか?
・商品価格と物価の違い
・PCEとCPIの違い
を取り上げます。
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