2018/08/20 06:30 | by Konan | コメント(4)
Vol.2: 日銀の金融政策決定会合2018年7月 その2
今回も先月末の日銀金融政策決定会合を取り上げます。最初に景気動向、次に物価、最後に前回頂いたコメントへの回答も含め金融政策について触れようと思います。
景気動向については、GDPの需要項目に沿い分析が行われます(このGDP需要項目については来月以降もう少し詳しく解説します)。
(2018年度)
・設備投資:緩和的な金融環境のもとで、景気拡大に沿った能力増強投資、オリンピック関連投資、人手不足に対応した省力化投資を中心に、増加を続ける。
・個人消費:雇用・所得環境の改善が続くもとで、緩やかな増加傾向をたどる。
・公共投資:2017年度補正予算やオリンピック関連需要もあって高めの水準を維持。
・輸出:海外経済の着実な成長を背景に、基調として緩やかな増加を続ける。
・全体:潜在成長率を上回る成長を続ける。
(2019年度、2020年度)
・個人消費:2019年10月に予定されている消費税率の引き上げの影響から一時的に減少に転じるなど、緩やかな増加ペースにとどまる。
・輸出:海外経済の着実な成長を背景に増加基調を維持する。
・設備投資:景気拡大局面の長期化による資本ストックの積み上がりやオリンピック関連需要の一巡などから2020年度にかけて増勢が徐々に鈍化。ただ、輸出の増加を起点とした投資需要の高まりもあって、増勢鈍化のペースは緩やか。
・全体:内需の減速を背景に成長ペースは鈍化するものの、外需にも支えられて、景気の拡大基調が続くと見込まれる。
日銀特有の文学的表現で分かり難い文章ですが、展望レポート(経済・物価情勢の展望)では、金融政策を決定する黒田総裁以下9人の政策委員会メンバーの見通し値が公表されます。その中央値をみると、実質GDP成長率は2018年度+1.5%、2019年度+0.8%、2020年度+0.8%とされ、プラス成長は続くが、成長率は2019年度以降低くなると見込まれていることが分かります。個人的には、ぐっちーが有料メルマガで詳細に語る米国経済を除き、中国等の新興国経済や欧州経済に少し暗雲が広がってきたので(最近のトルコの動向も心配ですよね)、日銀の海外経済に関する見方はやや甘いように思いますが、追々こうした話にも触れていきたいと思います。
次に物価です。前回も説明したように、日銀は2%の物価安定の目標を掲げ、5年以上の長期にわたり超緩和的な金融政策を続けています。しかし、実際には物価上昇率はなかなか2%に達しません。それどころか、政策委員の見通し値は今回下方修正されました。中央値でみると、前回4月時点では、2018年度+1.3%、2019年度+1.8%、2020年度+1.8%が見通されていましたが、今回は、2018年度+1.1%、2019年度+1.5%、2020年度+1.6%と3年度通じ下方修正です(なおこの物価見通しでは消費税引き上げの影響が除かれています。消費税率引き上げの影響を加味すると、+0.5%ほど上昇率が上がります)。
今回の展望レポートの特徴は、なぜ思ったほど物価が上がらないか、詳細な分析が付されていることです。資料の40頁から52頁にかけ、7つのBOXが付録のようについています。単純にまとめると、
・物価上昇率はプラス圏での推移が定着した。もはや「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではない!
・しかし、2%目標は達成できていない。その理由は「賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が経済に組み込まれ、その転換に時間を要している」ことや、「デジタル化や技術進歩により、経済が拡大しても企業が値上げに慎重なスタンスを維持することが可能となり、分野によっては競争環境も厳しくなっている」ことにある。
・やや具体的には、企業のとくに正規雇用者に対する賃金設定スタンスが慎重である(パート時給は上がっても、正規の給与はなかなか上がらない)。価格設定スタンスも慎重である。技術革新も活用しながら企業が生産性を引き上げ、コスト上昇を吸収してしまう。家計の値上げ許容度もまだ高まらない。アマゾンに代表される競争環境の厳しさは、小売業等の価格引き下げにつながる。公共料金や家賃(これらも消費者物価の中に含まれます)もなかなか上がらない。
しかし、日銀は「少し時間はかかるが、必ず2%を達成できる」と宣言します。正直言って眉唾的な理由が並びますが、要は、景気の改善が続けば現実の物価が上がり、それに伴い企業や家計の物価観も改善するので、相乗効果で物価が上がっていく、技術革新なども一時的には物価抑制方向に働くが、中長期的には経済成長率引き上げに寄与し、これも物価上昇に結び付いていく、というロジックと思います。
金融政策については、前回も触れましたが、下記の2点が約束されています。
・2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。これがオーバーシュート型コミットメントです。
・政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する。これが今回導入されたフォワードガイダンスです。
ぐっちーも有料メルマガの中で「何いってんだか全くわかりません」と厳しく批判していますが、官僚文章を沢山書いてきた私にも両者の関係や違いが分からないので、日銀の人に直接聞いてみました。「後者は政策金利に焦点を当て、前者は量や質も含む全体の枠組みについての話しなので、両者の関係は明瞭で、屋上屋を重ねたものでない」とのことでした。しかし、この説明を聞いても私には引き続き腑に落ちません。今回の政策に関する私の解釈を改めて申し上げると、10年物国債金利の上昇を(わずかですが)認めたことを金融引き締めと受け止めて欲しくない(引き締めと取られると円高リスクがあるので)、このため金融緩和を続けるという別のメッセージが必要になった、そこでフォワードガイダンスを持ち出してきた、ということですが、言葉を塗り重ねないといけないほど、日銀が追い詰められてきたということでしょうか。
さて、前回のVol.1に頂いたコメントは、日銀当座預金金利についてのものと、2%物価上昇目標やマイナス金利政策の是非についてのものに分けられると思います。
テクニカルなので詳細は省きますが、現在、日銀当座預金の金利は+0.1%、0%、-0.1%の3層構造となっています。このプラス部分は、2008年10月、白川総裁の頃導入されたもので、黒田総裁の下でも続いています。白川総裁が導入した頃は市場金利が今より高かったので、「0.1%を下限としたい」との当時の意図は理解できますが、それがマイナス金利政策の今でも続いている直接の理由は金融機関収益への配慮で、その意味で「補助金」です。ただ、好意的に解釈すると、日銀の政策のうちとくに「量的」の部分で、金融調節を円滑に進めるためには、金融機関に当座預金を持つインセンティブを与える必要があると言えなくもありません。前回も説明したように、日銀は金融機関から国債を買い、代金を日銀当座預金に振り込みます。この日銀当座預金の条件が余りに悪いと、国債買い入れに応じてもらえず、量的緩和が進まないと心配したということでしょうか。さて、この3層を加重平均するとプラス金利が維持されており、この点では今の状況は純粋なマイナス金利政策ではありません。しかし、現実の市場取引では-0.1%が強く意識されます。例えば、-0.1%より条件が悪いオファーしか市場に出てこないなら日銀当座預金に積んだ方がマシ、という形で-0.1%が市場金利形成に重要な意味を持ってきます。この意味で、イールドカーブ形成上はマイナス金利政策が効果を大きく発揮していると思います。
物価目標2%やマイナス金利政策の是非については、新CRUのひとり言を書き続ける中で時間をかけて回答していきたいと思います。そのうえで、現時点での暫定的な答えは、日本における異常なまでの円高忌避が日銀の政策を縛ってしまった、というものです。白川前総裁の際に円高が進み、日銀は無策と罵られ、白川日銀の評価は地に落ちました。黒田総裁の当初の人気は、円安(と株高)を実現したことが最大の要因と思います。これを物価目標に即して言えば、個人的には日本の実力は+1%くらいと思います。ただ、欧米の中央銀行は2%を目標にし、現に米国ではこれが実現しつつあります。日本だけ低い値を目標にすると、円高リスクがあるというのが、2%目標の背景です。物価上昇率が低いということは、それだけ通貨の価値が目減りしないことを意味します。そうした通貨の方が買われやすいという話です。また、マイナス金利政策からブラス金利に転じると、日本円の魅力が増し円高になります。これを避けたいというのが、安倍総理と一心同体にも見える日銀の最大の関心事ではないかと感じます。逆の言い方をすれば、安倍総理に限らず、日本国民の過半が円安を支持しているとすれば、気付かぬうちに2%の物価目標やマイナス金利政策を支持していることを意味します。本当は、無理な背伸びをせず、多少円高になっても身の丈に合う政策を取る方が良いように思いますが、円高論者は嫌われますね(笑)。
今回はこの辺で。
当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。
4 comments on “Vol.2: 日銀の金融政策決定会合2018年7月 その2”
コメントを書く
いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。
日本の経済メディアではオウム返しのように「為替が円高に振れたので株価が下がった」「円安なので株価上昇」と繰り返します。
日本経済は「加工貿易」を基軸としていた輸出産業で大部分が成り立っており、従って輸出収益の拡大を意味する「円安」→「景気拡大」という図式が自明化しているような気がします。
しかし、リーマン危機を端緒とする世界通貨安競争の中で、日本(日銀)も野放図な円安誘導を実施したため、現在では「円安」が良いものなのかどうなのか、よく分からない状態のように感じています。
「強いドル」を標榜していた米国でさえ、「輸出産業の拡大のためにドル安は必要だ」なぞと言い始めているありさまです。
ある識者が「日本はそろそろ円高のメリットを考えなければならない」と言っているのを近ごろ読みました。
いわく、
「円高とは世界の投資家がこぞって円を買うことであり、円の人気上昇を意味する。これは換言すれば、日本への世界資本の集中であり、円のプレゼンスが必然的に上がる。このプレゼンスの高さを利用して、別の側面から日本経済の進展を目指すべきだ。中国の元相場の元高誘導の操作などは非常に参考になる」
とのことでした。
言わんとしていることは分かるのですが、個人的にはたとえ「世界資本が日本に集中」しても、その資本の有効活用の方途はなく、ただでさえ持て余されている流動性が余計に行き場を無くすだけだと思うのですが、いかがでしょうか。
為替水準に最適解は無いとは思いますが、果たして日本経済に「円安誘導」以外、あるいは「円安維持」以外の合理的な経済施策など存在するのでしょうか?
「円高誘導」が導く先のメリットや日本経済の良好な状態を想像することができません。
7月31日の日経平均株価が22,553円で為替が1$=約111円
その際のドル建日経平均株価は22,553円÷111円=約203$
仮に為替が80円と円高になれば
22,553円÷80円=約281$(上がったから利益確定)
150円と円安になれば
22,553÷150円=約150$(下がったから買い増し)
と海外機関投資家は行動していると思っているのですが、どうでしょうか?
元銀行局長・西村吉正さんの『金融行政の敗因』並みに・・率直に・
日銀も書けば良いのに・・
それが出来ないのは・・人物的にスケールが小さいのでしょう・・
経済の大きさに・反比例するのかな・?!
尤も彼の講演を聞き・・詰まらなかったなぁと友達に言ったら・・
真後ろに彼が立っていて・・流石に気まずい思いがしたことがあった・・・
( ^ω^)
戦前というより歴史物を読むのが趣味(?)で色々読んでいますが。素人が見ると今、元が間違っているにもかかわらず、何かをしている気になっていると思う。比較すれば海軍が南太平洋で無意味な戦闘を繰り返したときの作戦目的のような文章ではないかと思う。
<あんたこの南太平洋で勝てるの?)と聞けば誰もがなんと答えたか?
驚かれるかもしれないが、ここで勝てば戦争に勝ていると思っていたようです。
ここで勝ててもこの戦争はさらにつずき、そこでやがては負けるとは思わなかったようです。原爆を上から落とされればそこで艦隊は全滅でした。
仮に2パーセントのインフレが実現できたとしてもその時の日本経済はまともなの?国民生活は十分できるの?
われわれのような零細国民は生活が楽になることよりも2年先も5年先も間々暮らしができるという楽観的な見通しの確信がほしいに過ぎない。
現状への国民行動としては銀行から預金を下ろし、株か金を購入すればおそらく日銀の目標は達成されるから、ひそかにそのキャンペーンをしてはいかがだろうか?
要するに日銀の政策では事は成り立たず。国民が行動をしないといけないということです。
仮に3000万世帯が金100g買うとおよそ45万です。金額にして13兆5000億です。それで3000トンです。消費税が5000億からいはいるのでは?この影響を日銀は計算してはいかがか?
私が思うに戦前軍部が徹底的に国民を侮蔑していたように、日銀も国民を侮蔑していると思う、することはできる金融操作をすることではなく、表立ってできない行動を国民に要求することをひそかに外国に知られないようにすることではないか?