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2013/01/31 20:58  | 来日公演 |  コメント(1)

コルネリア・ヘルマンが紡ぐ、温かみのある優雅で豊かな音楽


 ニューイヤー・コンサートで明けた2013年1月も今日で終わりですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 いまさら、の感がありますが、1月9日のオペラシティ公演は盛況で、聴き所たっぷり、楽しさ満点でしたね! ソプラノのバーバラ・パヤさんはもちろん、テノールの小貫岩夫さんも堂々たる歌唱で、たっぷりと歌の世界に浸ることができました。バレエも美しく楽しく、最後のアンコールまで指揮者のウヴェ・タイマー氏が卓越した職人技で演奏を見事にまとめあげていました。

 今回の来日公演では、三重や宮城で、指揮者と団員が地元のジュニア・オーケストラを指導し、本番でも共演して交流を図り、大きな話題となっていたようです。噂を聞きつけた音楽愛好家の方から、「次回は私の地元に来てね!」とラヴ・コールも寄せられているとか。日本の招聘元によれば、次の来日は2015年の1月とのことで、すでに数箇所から公演のオファーがあった模様です。今回聴き逃した方は、ずいぶん先ですが、2015年をお楽しみに!

 さて、今年はぐっちーさん、これまで以上に音楽会の紹介にも力を注ぐと言っておられましたが、早速、第2弾としてコルネリア・ヘルマンのピアノ・リサイタルをチョイスされました。この公演を私もお薦めしようと思いながら、発売後数日経ったところで、何と完売のお知らせが! 本当にあっという間でした。そして、ぐっちーさんから追加チケット販売決定の連絡が。今度はその発売にあわせ、ピアニスト、コルネリア・ヘルマンについてご紹介します。

 コルネリア・ヘルマンの美しくも人懐こい表情は、日本人ヴァイオリニストである母上から引き継がれているのでしょうか。父上はドイツ人のチェロ奏者という音楽一家で、ザルツブルクに生まれました。すでに日本盤CDを3枚リリースしており、2003年頃より日本で何度も公演を行っていますから、ピアノ愛好家の間ではその名はよく知られています。

 日本デビュー盤となったのは、2005年にビクターからリリースされた『ピアノ名曲の花束』[ビクター VICC-60442]。いわゆる「アンコール・ピース集」ですが、聴いたあとに清々しさの残る、品格のある演奏だったことを覚えています。翌2006年にもビクターよりシューマンとブラームスで1枚リリースし[ビクター VICC-60503]、その後はしばらく新録音が途絶えていました。

 コルネリアは、写真でご覧いただけるとおりとても美しい方で、ややもすると「そちら方面」の売り方をされてしまいがちですが、9歳でザルツブルク青少年コンクールにて最年少優勝するなど、早くから才能を開花させた神童でした。その後も1996年にはライプツィヒのバッハ国際コンクールで最年少19歳での最高位を獲得するなど、順調に伸ばした才能が高く評価され、今日に至っています。最近では、昨年、札幌で毎年開催されている国際音楽祭「PMF」に招待され、高く評価されたのが記憶に新しいところです。

 そのPMFの直前、2012年6月には、名古屋の電気文化会館ザ・コンサートホールにて待望のバッハ録音を行いましたが、1週間ほど前にそのCDがリリースされました[カメラータ CMCD-25038]。録音したのは、彼女が愛してやまないJ. S. バッハの「フランス組曲」第1、2、5、6番です。

 バッハの時代には、もちろん現代のようなピアノは存在していませんでしたから、(オルガン作品以外の)鍵盤作品を「どの楽器」で「どのように演奏するか」については、昔からよく議論されるところです。バッハの時代に存在していたチェンバロでの演奏を推奨し、ピアノでの演奏を認めない大家もいましたし、かの有名なグレン・グールドが「バッハをピアノで弾く理由」について語った映像も残されています。これらについては話が尽きませんので、ここで掘り下げるのはやめておきましょう。私としては、バッハの音楽はどのような楽器で演奏しても揺るがない構造/魅力を持っており、楽器を限定する必要はないと思いますが、現代のピアノで演奏する場合には、音楽の魅力を高める方向での演奏の努力は必要だろう、と思っています。

 このあたりについて、コルネリアはハンガリーの名演奏家にして名教師のフェレンツ・ラドシュによる7~8年に及ぶ厳しい指導の中から学んだようです。ラドシュといえば、コチシュ、ラーンキ、シフなど、数々の名ピアニストを育てています。特にアンドラーシュ・シフは、ピアノでバッハを弾く大家として知られていますから、コルネリアにも同じバッハ演奏の「血」が流れている、と言えるかもしれません。

 さて、コルネリア・ヘルマンのバッハ。その演奏からは、センセーショナリズムとは無縁の、誇張のない、自然で温かみのある優雅で豊かな音楽が聞こえてきます。それは、現代のピアノで弾くバッハ演奏のひとつの答え、とも言えるでしょう。今回リリースされたアルバムについて専門誌『レコード芸術』のレヴューでは、西村祐氏が「推進力、リズムのキレはグールドを彷彿とさせるほどで、その点ではシフより21世紀的」、それでいて「聴かせる歌はまさに優雅この上なく、いつまでも紡がれ続けてほしいと願ってしまう」と絶賛しています。

 私は、特に第5番の演奏が気に入っていますが、今回の来日公演でも第2番と5番が演奏される予定ですので、とても楽しみです。シューベルト、ベートーヴェンも彼女が充分に体得したレパートリーですから、聴き所は充分。

 コルネリア・ヘルマンのピアノ・リサイタルは、豊かな時間を過ごせる一夜となるでしょう。

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One comment on “コルネリア・ヘルマンが紡ぐ、温かみのある優雅で豊かな音楽
  1. ミラースティルペッククレヴェンジャー より
    ハンガリー系

    ハンガリー系の多数の巨匠指揮者には即物主義的な魅力で引っ張る強力な引力が皆ありましたが、ピアノの系列はなんとなく似てはいますが皆さんちょっと上品ですね。なにか小澤征爾的な綺麗な演奏ですね。私はピアニスト・ショルティの構造を鷲掴みにするような演奏を聴いてびっくりしましたが、やはり指揮者系統の傾向はラドシュ系とは違うようですね。

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