2021/03/19 07:00 | 政局 | コメント(2)
武田大臣が辞任したら?:後任の総務大臣を大胆予想
■武田総務相、NTT社長との会食同席 「1万円支払った」「大臣規範抵触せず」(3/18付時事通信)
NTTからの接待疑惑に関し、接待を受けたかどうかの問いには答えず、「国民から疑念をいだかれるような接待は受けていない」と、はぐらかし続けていた武田良太総務大臣。昨日発売の週刊文春で、大臣就任後の昨年11月に、NTTの澤田純社長らと会食していたことが報じられました。
周囲には「顔を出しただけで会食はしていない」と話していたそうですが、まるで不倫疑惑が報じられた際に「一線は越えていない」と答えた今井絵理子参議院議員のような言い草です。桜を見る会に先立つ前夜祭への参加者について、「募集ではなく、募った、ということですね」と答えた安倍晋三前総理に通じるものも感じます。
結局、武田氏は、昨日の衆院予算委員会で「会食に同席したのは事実。ビール2、3杯程度で退席し、1万円を支払った」と発言しました。えらい高いビールだな!
しかし、接待を受けたかどうかについては未だ明言を避けており、疑念は完全には払拭できていません。もし接待があったという事実が発覚すると、東北新社やNTTから接待を受けた総務省の複数の幹部が、軒並み減俸などの懲戒処分を受け、谷脇康彦総務審議官は辞職にまで至っていることを思うと、大臣として責任を取る必要があるという議論に及ぶでしょう。
菅義偉総理は、官房長官時代には、多少でも問題のある閣僚を、容赦なく、迅速に更迭することを安倍総理(当時)に進言し、時には自ら引導を渡してきました。早期に収拾し、事態の悪化を最小限で食い止めるためです。
その姿勢からすれば、週刊誌報道を受けて武田氏の更迭を視野に入れていてもおかしくはないのですが、今のところ、そのような動きはありません。
そこはやはり、武田氏が志帥会(二階派)の所属であり、また総理自身も武田氏の力量を買っていて、携帯電話料金の値下げやNHK受信料の引き下げという大仕事に切り込んでくれるという期待をしていることがあるのでしょう。
加えて、閣僚の辞任は、どんな場合でも野党から任命責任を問われるため、官房長官ではなく任命権者である総理となった今、更迭するという判断は、簡単にはできなくなっているのだろうと思います。実際、山田真貴子内閣広報官については、続投させようとするなど、当初は対処の鈍さを感じました。
このように、今後の展開次第ではどうなるかはわかりません。
そこで、大変気が早いこととは思いますが、今回は、武田大臣が辞職した場合、後任の総務大臣は誰になるのかを予想してみたいと思います。
●最強のリリーフ
現職大臣が辞職後の後任大臣を選ぶ場合、まずポイントになるのは、「スキャンダルを抱えていないかどうか」です。スキャンダルで辞めた大臣の後任が、就任してほどなくスキャンダルを報じられては、まったくシャレになりません。
よって、初入閣ではなく、すでに大臣を経験した人の中から検討されることが多くなります。問題を起こすことなく、およそ1年間の大臣の任に耐えたということは、金銭や異性関係のトラブルがなく、国会や定例会見での暴言放言のたぐいもなく、そつなくこなしたということになるからです。加えて、政策への理解が深く、過去にそのポストを経験している議員であれば、なお良しです。
このカテゴリーで断トツの存在感を放っているのが、参議院議員の林芳正氏です。
林芳正氏は、大蔵大臣を務めた林芳郎元衆議院議員の長男で、東大、三井物産、ハーバードケネディスクール、米国上下院議員スタッフ、父・芳郎氏の大臣秘書官を経て、34歳で参院山口選挙区から立候補した、キラキラの経歴の持ち主。現在、当選5回のベテランです。
山口県選出の国会議員と言うと、3人の総理大臣を生み出した安倍家・岸家・佐藤家が、全国的には圧倒的知名度を誇っていますが、林家は、サンデン交通や山口合同ガスなどの地元の優良企業のオーナーで、かつ、宇部興産の創業家にも連なる山口屈指の名門一族です。
林氏は総理を目指しているため、衆院への鞍替えを切望しているのですが、山口県の選挙区事情からなかなか思いを遂げられずにいます。そのあたりは、近日中に連載開始を予定している「自民党の候補者調整」で詳しく解説したいと思います。
ちょっと脱線してしまいましたが、林氏の大臣としての資質に話を戻します。
林氏の初入閣は、福田康夫改造内閣での防衛大臣です。しかし、福田氏の突然の辞任により、就任1ヶ月での退任となってしまいました。
ところが、約1年後、麻生太郎内閣で財務大臣兼内閣府特命担当大臣(金融)を務めていた中川昭一氏が、G7財務大臣・中央銀行総裁会議において泥酔酩酊会見をやらかし、辞任したことで、林氏に白羽の矢が立ちます。中川氏(辞職の8ヶ月後に急死)の任務は内閣府特命担当大臣(経済財政)だった与謝野馨氏の担当となりますが、兼務する分野が多すぎるということで、林氏が内閣府特命担当大臣(経済財政)に指名されたのです。
そして、自民党が政権を取り戻した2012年、第二次安倍内閣で農林水産大臣に任命され、2014年9月の改造まで務めあげて退任しますが、後任である西川公也氏が政治献金問題で辞任します。ここでまた林氏の登場です。
2017年には、加計学園問題で大揺れの中、文部科学大臣に任命され、5度目の入閣となりました。
大臣任命に際しては、「参議院枠」なるものがあり、通常、閣内に2つ程度です。そのため、「参議院議員の大臣任命は基本は1回」という暗黙のルールが存在します。
このことからして、林氏がいかにその能力を買われているかということがわかりますし、5度の入閣のうち2度は前任者の辞任による任命です。まさに「最強のリリーフ」と言われる所以です。
しかしながら、さすがに6度目があるかどうかと言うと、難しいなと思います。衆議院議員であっても6度も大臣になれる人には、なかなかお目にかかれません。
その上、林氏は宏池会(岸田派)所属です。菅総理は、今年9月にも行われる自民党総裁選を見据えて、ライバルになるであろう岸田文雄氏を入閣させませんでした。党の要職にも就けていません。
宏池会からは、上川陽子法務大臣と、平井卓也デジタル改革担当大臣を起用しましたが、いずれも再入閣で、かつ、専門性を考慮されてのものです。さすがに宏池会から3人目を迎えるとは思えません(「派閥」というファクターは、次の項で詳しく説明します)。おまけに、林氏は衆院への鞍替えをめぐって、志帥会所属の議員と軋轢がある身です。
やはり、総務大臣経験者が有力ではないかとも思います。しかし、野田聖子氏、高市早苗氏など過去の総務大臣がNTTから接待を受けていたことが、すでに判明しています。他の元総務大臣も同様の接待を受けてはいないか、慎重なチェックをしなくてはなりません。
自民党が政権を取り戻して以降の総務大臣で、現在のところ接待疑惑に名前が上がっていない議員としては、新藤義孝氏と石田真敏氏がいます。
●派閥の力学
スキャンダルで辞めた大臣の後継者は、スキャンダルがあってはなりませんし、答弁能力も高くなくてはなりませんが、それと同等に大切なのが、どの派閥に属しているかということです。
武田氏は志帥会(二階派)所属なので、後釜に同じ志帥会の議員を持ってくることは考えられます。
先に挙げた石田氏は、和歌山2区を地盤としているので、おっ!志帥会か、と一瞬思うのですが、なんと、二階氏とは一線を画し、山崎派(現在の石原派・近未来政治研究会)に所属していました。現在は無派閥です。
石田氏は、2018年に第四次安倍改造内閣に総務大臣として初入閣。当選7回ながら、派閥の後ろ盾もなく、それまで目立った活躍をした記憶もないので、正直、入閣していたことすら忘れていました(ごめんなさい!)。
どうやら、その年の3月に行われた衆院予算委員会での元国税庁長官の佐川宣寿氏への証人喚問で質疑し、森友文書の財務省による改竄疑惑について「(国有地値下げの)経緯の中で総理夫人の影響があったというふうには考えておりません」という答弁を引き出した論功行賞で大臣に起用されたとの噂があります。
よって、石田氏の再登板の可能性は低いと思います。
次に、新藤氏は、平成研究会(竹下派)の所属です。当選7回で、総務大臣の他、内閣府特命担当大臣(地方分権改革・国家戦略特別区域)を経験しています。派閥は違うものの、安倍前総理と親しく、2012年の自民党総裁選では安倍氏の推薦人に名を連ねました。
また、硫黄島の戦いで日本軍守備隊最高指揮官だった栗林忠道陸軍大将の孫であることから、2015年の安倍総理の訪米に同行し、米国議会合同会議での総理演説の場で、かつて海兵隊大尉として硫黄島での戦闘に参加したローレンス・スノーデン退役中将と握手を交わしたことでも知られています。
菅内閣は、組閣においては、54人を擁する志公会(麻生派)からは3人を起用したものの、同数を擁する平成研からは、加藤勝信官房長官と茂木敏充外務大臣の2人しか入閣させませんでした。
ここで新藤氏を総務大臣に任命すれば、平成研所属の大臣が3人となり、バランスはよくなります。ただ、そうなると志帥会はポスト減となってしまうため、二階氏がどう反応するかという不安があります。
しかし、志帥会に大臣の任が務まる議員がいるかというと大変疑問です。内閣改造の度に「不良在庫」を押し込んでは問題を起こすというパターンが定着してしまっています。
そう考えると、新藤氏の可能性はありそうです。ただ、安倍総理とは近かったものの、菅総理とはそこまで近くない印象もあります。
菅総理としては、本来は自分の子飼いの議員を大臣に登用したい思いはあるでしょうが、そもそも自前の派閥は持っておらず、「ガネーシャの会」を中心として、「韋駄天の会」「向日葵の会」「無派閥有志の会」などの有志を加えて、緩い「菅グループ」があるだけです。
官房長官時代に、このグループの中で比較的当選回数の多かった議員3人を安倍内閣に入閣させましたが、うち2人は悲惨な結末となってしまいました。菅原一秀元経済産業大臣と、河井克行元法務大臣です。菅原氏の後任として、無派閥有志の会から梶山弘志氏を経産大臣に据え、菅内閣発足後も引き続きそのポストで処遇しています。
彼ら3人以外にこのグループで菅総理から目をかけられているのは、坂井学官房副長官です。当選4回は大臣にするには早すぎますが、総務副大臣を経験しているので、何もなければ引き上げられた可能性もなくはなかったかもしれません。しかしながら、NTTからの接待を受けたことがすでに報じられ、本人も認めているため、可能性はゼロだと思います。
●女性の起用
菅内閣は、発足時に女性大臣を2人しか起用しなかったことで、女性活躍への意欲が薄いとの批判を受けました。そこで、この際、女性を選ぶという手も考えられます。
内閣には、「参議院枠」と並んで「女性枠」が存在します。そのため、男性の衆議院議員であれば当選5〜6回が「適齢期」と言われる中、女性議員は、当選回数が少なくても大臣に起用されるケースが見られます。稲田朋美氏などが典型例です。
また、女性の参議院議員は、参院枠ではなく女性枠で遇せられるため、男性の参議院議員より少ない当選回数でも大臣に登用されることがありますし、派閥の都合などもからんで、複数回任命されることもあります。森雅子氏、丸川珠代氏などがそうですね。
そうすると、すでに大臣を経験している片山さつき氏あたりが候補になってくるのかもしれません。
片山氏は東大卒の元財務官僚で、女性初の主計官でした。頭の良さには定評があり、その発言は、どんな分野の政策であっても高いレベルでの理解があることをうかがわせます。総務大臣政務官も経験しています。そして、(ここ大事)志帥会の所属です。
しかしながら・・・なかなかに情熱的な人なので、毀誉褒貶が激しく、安倍前総理は苦手意識があったと聞いています。菅総理の評価はどうなのでしょうか。
菅総理は、山田内閣広報官について、辞任すべきとの声が高まっていた折、「女性の広報官として頑張ってもらいたい」と女性を強調した発言をしていましたし、後任にも「女性を」とのこだわりを見せ、外務省から小野日子氏を引っ張ってきたと言われています。
女性にこだわるのであれば、総務副大臣を経験している佐藤ゆかり氏もあるかもしれません。ただ、副大臣時代にテレビ番組に出演した際には、「5Gで女性活躍」「5Gで地方創生」と、「5Gで何でもできる」みたいなことを語っていて、困惑しました。
また、初入閣ということで未知数ですし、選挙区でトラブルを起こしては国替えを余儀なくされるという伝説の持ち主でもあります。過去には、佐藤氏の配った文書をめぐって、選挙区内の元地方議員から名誉毀損で訴えられたりしたこともあり、危ない匂いがします。
しかし、片山氏と同じく志帥会所属であるため、一瞬名前が挙がったりするのかもしれません。
ということで、新藤義孝氏、片山さつき氏、佐藤ゆかり氏あたりが考えられますが、そこは人事ですから、一つの合理的な推測として見てください。さて、どうなりますやら。
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2 comments on “武田大臣が辞任したら?:後任の総務大臣を大胆予想”
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ご了承のうえ、ご利用ください。
動物園で、ベテラン飼育員の方に、動物の生態を解説してもらっているような、おもしろさです。
どうもありがとうございます!楽しんでいただけたようで、嬉しいです。
今後も、いろいろなトピックをいろいろな角度で解説していきます。